人権デーを間近にひかえ、私たち国際人権NGOのIMADRは、普遍的原則である人間の尊厳と人権の尊重を無視し続ける杉田水脈衆議院議員に強く抗議し、同議員の一連の言動に対して、国のリーダーである岸田首相の具体的で明確で実効性のある対応を求める。ここに至るまでの1年間の経緯を以下にまとめる。
◆ 2022年12月、杉田水脈衆議院議員は自身のブログに書いたアイヌ・在日コリアン女性に対する差別記事に関して、国会審議で繰り返し質問および批判を受けた。杉田議員の記事に関連して質問をうけた政府は「人の心を傷つけることは許されてはならない」という一般論の答弁に終始したが、最終的に、杉田議員は総務大臣政務官の任を辞した。
◆ その後、私たちは、岸田首相、総務大臣、法務省人権擁護局長、杉田水脈衆議院議員に対して、杉田議員のブログ記事をヘイトスピーチと認めること、当該ブログ記事によって被害を受けたアイヌ女性と在日コリアン女性に対して、杉田議員が直接謝罪を行うことを求める要請文を作成し、2月7日時点で52,665筆の賛同署名を得た。
◆2023年2月7日、それら署名つきの要請文を法務省人権擁護局に出向いて手渡し、局長代理に対して「ヘイトスピーチ」として認めるよう求めた。しかし、これまでの政府答弁にならい、一般論としての「差別は許されない」という回答しかえられなかった。この要請文は総理官邸と自民党本部そして杉田議員の国会事務所にも署名簿を付けて送付した。
◆アイヌ民族に対する差別をしてはならないとした「アイヌ施策推進法」と、「本邦外出身者に対するヘイトスピーチ解消法」が施行中であるにもかかわらず、さらには杉田議員の記事に対して社会的に大きな批判が向けられたにもかかわらず、この問題は杉田議員の政府要職の辞任だけで幕引きされた。
◆2023年2月そして3月、杉田議員の当該ブログ記事で写真を掲載され侮蔑的なヘイトスピーチを浴びせられた在日コリアン女性とアイヌ女性は、地方法務局に人権侵犯認定と救済の申請を行った。その結果、今年の9月、10月にそれぞれの事案について、「人権侵犯」の事実が認定されたこと、および杉田議員への啓発を行ったことを申立人に対し報告した。さらに法務局は、アイヌ民族の文化を学び、発言に注意を払うよう啓発を行った。
◆これら結果に対して、杉田議員はさまざまな理由をもとに、人権侵犯の結果に対して正当性を疑わせるような発言をSNSで発信し、さらには、国の措置に関連づけながら「公金チューチュー」と揶揄して相手を誹謗中傷しようとしている。一年前、問題の発端となった差別的記事を巡る国会審議はどこかに置いてきたかのように、当事者を差別するような発言を繰り返している。
◆2023年11月の国会審議で杉田議員のこれら言動について対応を問われた岸田首相は、「議員の発言に一つひとつコメントすることはさし控える。政治家は自らの言動に説明責任を果たすことが重要だ」と述べたにとどまり、杉田議員に対する言明は避けた。
以下、私たちはこれら一連の言動に抗議を表明し、杉田議員および岸田首相に適切な対応をとるよう促す。
1.国民の代表の一人である杉田水脈国会議員が、憲法、国内法、そして国際人権法のもと保障されている人権の尊重を軽視して、特権的な立場から、人権侵害の被害者に対する差別的言動を続けていることに抗議するとともに、杉田議員に対し、直ちに謝罪を行い、そうした行為をやめるよう促す。
2.差別撤廃の義務がある日本政府、および杉田議員が所属している自民党、そしてそれらの長である岸田首相に対して、杉田議員の一連の言動に対する具体的で、明確で、実効性があり、かつ持続的な措置を即時とるよう促す。
2023年12月1日
反差別国際運動(IMADR)