ラムザイヤー論文の問題点に関するIMADR声明への賛同呼びかけを4月30日に締め切りました。3月8日から約50日間で、340人の個人および9団体から賛同の表明をいただきました。厚くお礼申しあげます。賛同者の方々のお名前は以下の声明文に続きます。また、賛同の際に多くの方々からメッセージをいただきました。ここからご覧いただけます。
部落に関するラムザイヤー論文の問題点―人権と反差別の視点から
「人の世に熱あれ、人間に光あれ」で結ばれる水平社宣言は、99年前の1922年3月3日、全国水平社創立大会で採択された。被差別部落民が立ち上がり、自らを差別から解放するだけではなく、すべての人が差別から解放されることにより、人権尊重の社会が実現されると確信したこの宣言は、後世、さまざまに語られ、実践されてきた。未曾有の被害を出した第二次世界大戦の反省のもと、国連は1948年世界人権宣言を採択した。それを具体化した最初の国際人権文書として1965年に採択されたあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約は、その前文において、「人種に基づく障壁の存在がいかなる人間社会の理想にも反することを確信する」と述べている。その理念こそ、被差別部落民がそれより先立つ43年前に採択した水平社宣言の心髄である。
だが、その水平社が今、一人の学者の論文で貶められている。ハーバード大学教授のマーク・ラムザイヤーは、「On the Invention of Identity Politics: The Buraku Outcastes in Japan」(Review of Law and Economics, Volume 16 issue 2)(でっちあげられたアイデンティティ・ポリティックス:日本の部落アウトカースト)と題する自著において、「実際、ほとんどの部落民の祖先は、動物の皮をなめしたり、革の取引で働いたりしていない。彼らはギルドで働いてなかった。そうではなく、ほとんどの部落民の祖先は、異常に自己破壊的な貧しい農民のゆるい集合体であった」と論じている。
反差別国際運動(IMADR)はこのラムザイヤー論文の説に驚く。前近代の身分制度に由来する部落差別は、現代においても日本社会に根深く残っている。これは南アジアにおけるカーストに基づく差別と類似した形態の差別であり、職業と世系に基づく差別として国際社会のなかで明らかにされてきた。私たちは被差別部落を含む世界のこれら被差別コミュニティと連帯して、国際人権基準のもと差別撤廃を目指している。
1961年、総理府の付属機関として設置された同和対策審議会は、同和問題を解決するための施策に関する総理大臣の諮問に対して1965年に答申を出した。答申はその前文において、「同和問題は人類普遍の原理である人間の自由と平等に関する問題であり、日本国憲法によって保障された基本的人権にかかわる課題である。・・・その早急な解決こそ国の責務であり、同時に国民的課題である」と、問題解決の重要性を明らかにした。さらに「近代社会における部落差別とは、ひとくちにいえば、市民的権利、自由の侵害に他ならない」として、職業選択の自由、居住・移転の自由、そして結婚の自由などが侵害されていると示した。まさにこれは、1966年に国連が採択した市民的および政治的権利に関する国際規約により保障されている権利の侵害である。
1969年、同対審答申を受けて同和対策事業特別措置法が制定され、2002年の法失効までの33年間、特別措置法のもとさまざまな対策が講じられた。これは、人種差別撤廃条約第2条2項および市民的及び政治的権利に関する国際規約第26条が認めているように、差別をうけた者を保護し救済するために国家が行うべき特別措置や是正措置である。ラムザイヤー論文は同和対策特別措置について、「戦後間もない頃から、『被差別部落』のリーダーと暴力団が連携して、地方自治体や県庁からの資金を強奪するようになった。1969年、彼らは国からの徴収を開始した。」として、事業の正当な受益者である部落民を、偽りのアイデンティティを利用し、私利私欲にかられた「ゆすり」の戦略によって、政府の資金を引き出したかのように述べている。
国連人種差別撤廃委員会は、条約締約国である日本の政府報告書審査による総括所見(CERD C/JPN/CO/3-6, para 19)において、同和対策事業の結果と部落問題の継続的な課題に関して次のように懸念を表明している。
委員会は、締約国が部落民に対する差別を社会的問題として認識していること、および、同和対策事業特別措置法のもとでの成果に関心をもって留意しつつも、2002 年の同法終了時に、締約国と部落組織の間で合意された条件(本条約の完全実施、人権擁護に関する法律の制定および人権教育の促進に関する法律の制定)が、現在まで実現されていないことに懸念する。委員会は、部落差別事案を専門的に取り扱う権限を有する公的機関がないことを遺憾とし、部落民やその政策を取扱いまたはそれに言及する際に締約国が用いる統一した概念がないことに留意する。さらに、委員会は、部落民とその他の人びとの間の社会経済的格差が、たとえば物理的生活環境や教育において、一部部落民にとっては狭まったにもかかわらず、雇用、婚姻、住宅および土地価格など公的生活の分野における差別が依然として残存していることを懸念をもって留意する。さらに、委員会は、部落民の状況の進展を測定する指標が存在しないことを遺憾とする。
人種差別撤廃委員会のこの所見はラムザイヤー論文における説と相容れない。ここには同論文が展開するような犯罪行為は片鱗もない。ここにあるのは、世紀にわたる差別がもたらした被害に対して国がとった措置と今もなお根強く残る差別の事実である。
同和対策事業特別措置法の失効から14年後の2016年、部落差別は日本社会の歴史的発展の過程で形づくられた身分階層構造に基づく差別であり現在も日常生活レベルで起きているという事実を鑑み「部落差別解消の推進に関する法律」を施行した。法律の実施にあたり、2017年、政府は部落差別の実態に関する調査を行い、インターネット上で流されている部落地区や部落民に関するセンシティブ情報を差別的意図をもって検索している人が少なからずいることが明らかになった。
部落差別はなくなっていない。その他の被差別マイノリティに対する差別もなくなっていない。そのようななか、マイノリティの差別の歴史を歪曲化したり否定しようとする試みがあちこちで起きている。私たちはそのような試みは認めない。私たちはすべての人がいかなる差別もうけることなく平等にすべての権利と自由を享有できるという人権の普遍性を信じ、被差別マイノリティとともに闘っていく。
2021年3月8日
反差別国際運動(IMADR)
賛同: 国際ダリット連帯ネットワーク(IDSN)
マイノリティ・ライツ・グループ・インターナショナル(MRG)
声明「部落に関するラムザイヤー論文の問題点―人権と反差別の視点から」に賛同します
(2021年4月30日受付終了。名前は受付順で表記)
<団体 9>
National Dalit Movement For Justice (NDMJ)
Social Awareness Society For Youth (SASY)
MINBYUN – Lawyers for a Democratic Society
ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会
NPO法人多民族共生人権教育センター
全国部落史研究会
特活NPO法人コリアNGOセンター
海老名解放教育研究協議会
Feminist Dalit Organization (FEDO)
<個人340筆>
嘉住圭介 | 松波めぐみ | 文公輝 |
劉世傑ニキ | 北川 知子 | 平野誠 |
Kevin De Moya | 川口泰司 | 北川真児 |
國安真奈 | 吉本千世 | 岸政彦 |
三宅百重 | 池亀彩 | 伊藤嘉章 |
ケイン樹里安 | 湯浅信也 | 鈴木彩佳 |
鈴江美月 | 佐々木崇仁 | 川崎愛子 |
松本芽久美 | 栗本敦子 | 金澤千晶 |
渡部鮎美 | 田中一彦 | 村上佳代 |
小林知世 | 高際裕哉 | Yoshizumi Hisako |
安部農 | 小賀亜己 | 中村研 |
井上雅文 | 黒川早稚子 | 角岡伸彦 |
井村初美 | 宮下萌 | 北田暁大 |
金子美和 | 後藤彩 | 前田拓也 |
矢野治世美 | 山崎聡子 | アンドリュー・ワイス |
池田健 | 白石道太 | 澤田稔 |
田中晶子 | 水野浩重 | 高橋貞恩 |
山田勝治 | 篠原幸代 | 能川元一 |
KAI KAJITANI | Akiyoshi Tsuchiya | 魁生由美子 |
長田律子 | 亀谷智子 | 柴田惇朗 |
隠岐さや香 | 小田川健大 | 後藤高志 |
森みずき | 亀井修 | 岡田麻里 |
Kyoko Yamamoto | 中野佳子 | 川﨑 健太郎 |
MASAKI OKAMOTO | 鈴木英生 | 喜屋武盛也 |
Goto Aya | 増田聡 | 川野英二 |
加藤伸吾 | Hiroshi Kataoka | 桑原桃音 |
小林律子 | 内海陽子 | 岡部耕典 |
川瀬貴也 | 小池 隆太 | 中井公一郎 |
谷村綾子 | 石田賀奈子 | 上田康之 |
内藤希 | 金子あさみ | 青木智子 |
西川哲平 | 河合美世子 | 今川美香 |
堤圭史郎 | 馬越隆緒 | 新名雅樹 |
杉本和子 | 武田緑 | 岡原正幸 |
瀧ヶ崎友香 | 藤本伸樹 | 野世阿弥 |
古久保さくら | 小原みや子 | 宮澤早織 |
梁優子 | 高吉美 | 大場洋介 |
松浦弘幸 | 有田芳生 | 川名真理 |
竹口絵美 | 谷正人 | 杉田弘也 |
藤尾哲也 | 師岡康子 | 松下一世 |
上瀧浩子 | 永野眞理 | 田中泉 |
RYUICHI KISHI | 本山央子 | 李信恵 |
松村友里香 | 竹内美保 | 伊地知紀子 |
池田弓子 | 伊藤広剛 | 山口真紀 |
權田菜美 | 森谷一弘 | 北川浩太郎 |
中井裕子 | 郭辰雄 | 上原潔 |
武田基 | 一戸彰晃 | 伊香祝子 |
小番伊佐夫 | 山本晴太 | 菊地聡 |
朴沙羅 | 内田龍史 | 村井康利 |
村山哲也 | 山本淑子 | 熊本理抄 |
白川裕史 | 尾沢孝司 | 木村俊夫 |
大竹有子 | 朴金優綺 | 前田朗 |
齋藤直子 | Yuna Sato | 周藤由美子 |
山城彰子 | 澤井未緩 | 平田弘司 |
内田アツシ | 木村真希子 | 阿久澤麻理子 |
雪村皐夜子 | 吉田千恵 | 渡辺美奈 |
天野光子 | 外川正明 | 荒川直哉 |
岩代麻実子 | 西倉実季 | 戸塚悦朗 |
安元雄太 | 金子マーティン | 赤井郁夫 |
安川久子 | 大河原康隆 | 河合翔 |
岩井春子 | 髙木靜一 | 武田雅宏 |
浜口清隆 | 荒木潤 | 小林久公 |
李洪章 | 高谷幸 | 潮崎識衣 |
金一宣久 | 遠藤竜太 | 岡田実穂 |
山本眞理 | 麻生歩 | 松島泰勝 |
潮江亜紀子 | 友永雄吾 | 太田治美 |
中原美香 | 熊本博之 | 坂内博子 |
岩澤亜希 | 白幡ちあき | 友永まや |
牧口誠司 | 中村一成 | 三木幸美 |
牧野修也 | 小川玲子 | 阿南重幸 |
山脇和夫 | 小川眞智子 | ヘルベルト ウォルフガング |
塩沢克彦 | 森岡仁 | 武田俊輔 |
吉田幸弘 | 新里健太 | 星野智幸 |
足立修一 | 森容子 | 金仲燮 |
髙松恭則 | 松岡秀紀 | 阿部藹 |
白田浩一 | 吉田勉 | 埋橋伸夫 |
井桁碧 | 甕隆博 | 林怜 |
鈴木あきひろ | 高野麗 | 岩元修一 |
猪野美佐緒 | 豊田佳菜枝 | 齋藤瑞穂 |
神成文子 | 高田道子 | 酒井佑輔 |
田村ゆかり | 金富子 | 山田恵子 |
田場祥子 | 山口明子 | 江畠大 |
青木有加 | 服部洋幸 | 石川結加 |
カワシマユカリ | 竹本真司 | 尾家康介 |
北場逸人 | 高岩智江 | 竹内美夏 |
平里菜 | 北口学 | 木村敬 |
古川正博 | 阿久津光代 | 佐藤雄哉 |
吉水公一 | 横田秀明 | 水島裕介 |
高橋恵 | 平田弘司 | 川﨑那恵 |
藤井寿一 | 野島美香 | 村上らっぱ |
奈須重雄 | 西井えりな | 長谷川均 |
野村民夫 | 荒川明 | 牧口誠司 |
髙橋定 | 具良鈺 | 友永健三 |
和田献一 | Annie Li (Hong Kong) | Madeleine Cowper (Denmark) |
Dasol Lyu (South Korea) | Beena Pallical (India) | Paul Divakar Namala (India) |
細見義博 | 安井功 | 岡田祐輝 |
中田理惠子 | 瀧大知 | 森山沾一 |
藤本篤哉 | 馬場悠輝 | 寺木伸明 |
渡辺俊雄 | 朝治武 | 中澤淳子 |
組坂澄義 | 西田みちかず | 村田望 |
友永健吾 | 大槻伸城 | 濱崎宏之 |
上野大輔 | 上瀧晴子 | 市川稔道 |
鳥山洋 | 大井真基子 | 辻本義輝 |
小川信行 | 小川誠子 | 小川昇 |
柴田なつき | 石部純子 | 内山隆 |
渡名喜守太 | 野村博 | 城野俊行 |
井上真澄 | たかやなぎひろこ | 岡山文人 |
瀬川均 | 安西玲子 | 沼田博之 |
渡邊成 | チャ・ヨンジ | 町田章英 |
新谷恭明 | 瀬戸徐映里奈 | 藤永壯 |
青山薫 | 堤圭史郎 | 廣岡浄進 |
キムミョンファ | 岸本萌 | 赤井隆史 |
中山善雄 | 荒本眞澄 | 宮崎靖子 |
金紀愛 | 池本和浩 | 金信鏞 |
大垣俊雄 |
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