2024.04.17

Intersectional Feminism #2 “カーストが支配する社会のメンタリティを変えるには?”ーJudith Anne Lal にインタビュー

新シリーズとして始まった、インターセクショナル・フェミニズム。第2弾としてお話を伺ったのは、アングロ・インディアンコミュニティ出身の母とダリットコミュニティ出身の父を持つ、Judith Anne Lal。アフリカ研究、ジェンダーとディアスポラ研究の博士号を持ち、現在はインドの大学で准教授をしています。3月下旬、オンラインでお話を聞きました。

[写真: インタビューの様子。写真下がJudith、左上が小森(IMADR)、右上が豊田 (IMADR) ]

法律上、ダリットは Scheduled Castes (SC) と呼ばれ、人口は約1億6,600万人1と推定されています。一方、アングロ・インディアンコミュニティはインドにおける長い植民地の歴史を持つ英国の血統を父にもつ人びとのことをいい、人口は約12万5,000人2と推定されています。人口の少なさから、アングロ・インディアンはインドにおける「マイノリティーコミュニティ」とも言われています。

どのように幼少期を過ごしましたか?

「私の家族は文化的に多様です。父は村を基本的な社会単位として重んじるヒンドゥー教、母はキリスト教に属しています。そのため、家族内で文化的規範が入り混じっていました。私が子どもの頃、父は故郷のウッタル・プラデーシュ(UP)州の ブランドシャハル村で、自分がいかに差別されていたか、いかにカースト制度が根付いていたかという話をよくしていました。父方の祖母からもジェンダー差別のような扱いをうけたことがあります。祖母は『女の子は家事をするように躾けなくては』というジェンダー規範を持っていたため、私が高等教育を受けることに反対したのです。でも幸いなことに、私の両親、特に母、は私が高等教育を受けることに賛成してくれました。さらに、ゴミ収集や掃除の仕事をあてがわれた人びとがいることにも気づきました。大家さんが、『Jamadr3』がきた、と言っていたのを覚えています。私は、なぜ本名で呼ばないのか疑問に思い、母に尋ねました。母は父に聞くようにいい、そして父は私にヴァルナ制について教えてくれました。平等という考えに反するこれらのことがきっかけで、私は自分の家族、友人、コミュニティに疑問を抱くようになりました。」

インドでは、ラストネームが出身コミュニティやカーストを示します。

「私の名前にはキリスト教とヒンデゥー教両方の名前が入っています。そのため、初対面の人にあったり、新しい場所に行ったりしたときはいつも、どのコミュニティ出身か聞かれました。両親が異なるバックグラウンドを持っているため、『カーストレスコミュニティの出身』だと答えていました。そして次第に自分のアイデンティティについて考え始めました。私はキリスト教徒でもヒンデゥー教徒でもありませんが、自分がいかにより良い人間になれるかに重きを置いています。」

インド政府はカーストに基づく差別を抑えるために、是正措置である ‘リザベーションズ(留保制度)’ を実施しています。インド憲法のもと、指定カースト (SCs) に属する人びと、指定部族 (STs) に属する人びと、’その他後進階級’ (OBCs) に属する人びとは政府の雇用機会や高等教育の入学において、この留保制度の対象となっています。これらのリザベーションズはイスラム教徒とキリスト教徒を除く、ヒンドゥー教徒やその他の宗教徒に与えられています4

教育機関において、何か困難なことはありましたか?

「大学受験のときに、母がキリスト教コミュニティ出身であるため、ダリットコミュニティ出身であると証明できるものがなく、カースト出身者を対象としたクオータ制度を使うことはできませんでした。しかし女性であるため、女性の高等教育を促進するクオータ制度を利用することができました。大学に入ってからは、教授たちが学生の出身コミュニティによって対応を変えていることに気付きました。博士課程在学中は、SCやSTの学生が『あなたは奨学金をもらうために大学にきたんだ』『あなたは勉強するためにきたのではない』と言われていたことを鮮明に覚えています。また、例えば学会に出席する機会も平等ではありませんでした。私は同僚たちが出席する学会について知らされませんでした。何十回、何百回と学会について質問するようになって初めて、いくつかの学会に出席できるようになりました。このように、情報の共有は非常に限られていて、コミュニティやカーストによって、特定の学生に対して情報が遮断されていたのだと思います。職業に関しては、母がキリスト教コミュニティ出身であることが私を助けてくれ、うまくいったのだと思います。母の出身がそうでなかったらもっと大変だったと思います。母方のアイデンティティーがあったからこそ、私は自分で道を切り開くことができたのです。教授になろうと決心して応募先を探し始めた時、最初に肯定的な返事をくれたのも他でもないマイノリティの教育機関でした。」

Judith は長い間、カースト問題やジェンダー問題に市民社会アクターとして、そして研究者として取り組んでいます。

インド社会の変化について、何か気づいたことはありますか?

「より多くの人が自分自身のアイデンティティや権利を主張するようになったので、ある意味、社会に変化が起きていると思います。インドで始まったNGOや市民社会組織のおかげで、人びとは自分たちの権利をより意識するようになりました。しかし、他のコミュニティの人びとに対する反発も見られます。ここで特にメディアの役割について触れたいと思います。最近インドで起きていることですが、被差別コミュニティの人びとが自分たちの物語を語りはじめました。今、被差別コミュニティの人びとが描く、過去に経験した暴力やカーストに基づく差別に関する映画が数多く作られています。一方で、核心としてのカーストは根強く残り、特に女性に対する、カーストに基づく暴力や差別は増加しています。不寛容さとカーストプライドの高さを想像してみてほしいです。結婚式の前に花嫁(上位カーストの)の家に馬にのって迎えに行こうとするダリットの花婿が、『上位カースト』から残虐行為を受けたという事件をよく耳にします。また、ダリットコミュニティの土地が支配カーストによって侵入されたり、ダリットが行った仕事に対して正当な賃金が払われなかったりするケースもあります。それに対して、おかしいと言ったら、報復行為や暴力を受けたというケースもあります。」

カーストに基づく差別を根絶するために、本当の意味で人びとがともに活動するにはどうしたらいいと思いますか?

「虚構のカーストプライドに終わりはないため、この問いへの答えこそ、私たち皆が見つけ出そうとしていることだと思います。可能な答えの1つは教育だと思います。より多くの人が教育にアクセスできるようになったけれど、カーストプライドは依然として存在します。しかし、自分の立ち位置を主張し自分の人生を伸ばしていくためにも、教育は重要です。また、コミュニティ内での意識を高めることも重要です。そのためには、市民社会と政府の間でのさらなるエンゲージメントが必要になってきます。『どのようにすれば支配カーストのメンタリティを変えることができるのか?』私たちは、それをよく考える必要があります。すべてのコミュニティが関与し、正義や平等、自由、友愛といったインド憲法的道徳に関する意識を高めることによって成し遂げられるかもしれません。女性たちは今もなお、自身の権利を主張するための安全な場所を求めて闘っています。女性たちが安全な場所で権利を主張するためには、コンセンサスと意識を高めることが必要不可欠です。」

ダリット女性と男性の間で対立はありますか?

「はい、コミュニティ内にも家父長制は存在します。特にダリット市民社会組織の中でさえ、リーダーシップは長い間男性だけのものでした。ダリット女性のリーダーシップは自分たちの声を届ける場所を切り開いていく闘いによって誕生しました。私が村で公開の集会を開いた時、コミュニティから発言していたのは男性で、女性は座って聞いているだけだったり、供する食事の準備で忙しかったりしました。リーダーシップは重要な鍵を握っています。ジェンダー平等や法律、法的権利に関するトレーニングを受けても、特に地区や村において、男性が多くの情報を握っています。これを変えなくてはいけません。そのため、ダリット女性がリーダーシップをとり、代理となることが最優先事項なのです。」

最後に、Judith がダリットについもっと知りたい方におすすめの映画を教えてくれました。

1 https://minorityrights.org/communities/dalits/

2  https://minorityrights.org/communities/anglo-indians/

3 Jamarは清掃カースト(a sweeper caste)。

4  https://www.pewresearch.org/religion/2021/09/21/population-growth-and-religious-composition/

*英語版はこちらから。

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