2023年9月22日
この間、人権侵害や差別の被害者が自ら提訴した裁判で勝利するケースが続いており、私たちに勇気と安堵を与えている。しかしその背後には、被害にあっても声をあげることができなかった人、声をあげても次のステップを踏むことができなかった人、あげた声が法廷の場で認められなかった人など、人権救済がなされないまま置き去りにされている人が無数にいる。国連人権理事国を5期務め、主要な国際人権諸条約に加盟している日本は、国の内と外で人権のダブルスタンダートをとっている。数々の国連対日人権審査で繰り返されてきた人権救済救済機関(国内人権機関)の早急な設置や、差別禁止法制定の勧告は、人権大国を目指すことを国際社会に公約した日本に対して、有効に働いていない。これら勧告を導きだす基になった人権侵害にいつまで人々は苦しみ続けなくてはいけないのか。日本政府はいつまで被害当事者の自助に胡坐をかくつもりなのか。市民社会を傷つけ分断する差別と人権侵害、そして政府の被害者救済の怠慢を私たちはこれ以上許すわけにはいかない。
政府が国際社会の勧告を重視してこなかった結果、日本では「人権」がないがしろにされてきた。その事実を社会に突きつけたのが、ジャニーズ問題である。最悪の人権侵害の一形態である子どもや青少年の性的虐待を、社会のあらゆるレベルで見て見ぬふりをしてきた結果が今、次々と噴出している。
そして何よりも認めがたいのは、世界の目が向けられているこの状況においても、政府は明確な姿勢を示して行動をとろうとしないことである。人権侵害の被害者をこれ以上出さないため、そして被害の放置をこれ以上続けないために、政府が今すぐやるべきことは、人権救済の仕組みを作り、それを運営する独立した国内人権機関を設置することである。
IMADR は、9月11日から始まった国連人権理事会 54 会期における「現代的形態の奴隷」に関する小保方智也特別報告者のレポートに関連して、9月18日に以下の声明を人権理事会に提出した。この声明文の紹介をもってステートメントの終わりとする。
国連人権理事会54会期 IMADR 口頭声明
「現代的形態の奴隷といわれる強制労働や労働搾取の問題は日本においてもある。とりわけ、外国人労働者や女性あるいは未成年の労働者は雇用側による搾取と人権侵害に脆弱な条件下にある。
今、日本ではエンターテイメントの世界における児童、未成年者の性的搾取の事件が大きな問題になっている。シンガーやダンサーを目ざし芸能プロダクションにスカウトされた少年たちを餌食にした性的虐待が数十年にわたり会社のトップによって続けられてきた事件が、外国の放送局や国連ビジネスと人権作業部会の日本調査により明らかになった。数十年にわたり数百人に昇る被害者が声をあげることもできずに、被害を内面化せざるをえなかった事実は、衝撃的であり深刻である。
外国人技能実習制度は日本の入管政策と労働政策のもと作られた。実習の名目により、雇用主は海外からの労働力を、より簡単に、そしてより安価に手に入れて使えるため、特に労働者不足の産業において歓迎されてきた。しかし、雇用主の負担軽減の代償の多くはこのプログラムのもと、期待して日本に来た技能実習生の肩にのしかかる。多くの技能実習生が労働者としての権利や人権を侵害されてきた。苦情を訴えたり、救済を求める先すら分からないままに強制的に帰国させられたり、5年という法定の任期を終えて帰国する人びとの数は把握すらできない。
今求められるのは、労働搾取や強制労働により人権を侵害された声を出せないこれらの人々を救済する制度である。日本は国内人権機関を早急に設置しなくてはいけない。」
*ステートメントのPDFはこちらをご参照ください