女性差別撤廃委員会は14日午後、第2・3週の審査国の女性の人権状況について、NGOの代表者たちからブリーフィングを受けた。チリに関して発言したNGOは、ジェンダーに基づく暴力、中絶、トランスジェンダーの人々の扱いに関する懸念を表明した。カナダに関しては、先住民族の女性や少女の処遇、フェミサイド(女性殺害)、移民労働者へのハラスメントなどについて言及した。 日本に関しては、選択的夫婦別姓制度、「従軍慰安婦」問題、女性の年金などについて問題提起をした。キューバに関しは、フェミサイド、貧困に苦しむ女性、レズビアンの処遇などの問題について提起した。ベナンに関しては、人身取引、LGBTIQ+の人々に対する攻撃、セックスワーカーに対する差別などが取りあげられた。
開会の挨拶
アナ・ペラエス・ナルバエス委員長は、今会期の第2週と第3週に行われるチリ、カナダ、日本、キューバ、ベナンの5か国審査に関して、今からNGOが委員会に対してブリーフィングを行うと述べた。
NGOによるステートメント
チリ
NGOの発言者は、2019年から2023年の間に性的暴力が大きく増えたと述べた。保護措置は今も不十分である。少女や若者に対する暴力が増加していることは憂慮すべきことである。 2023年6月時点で、刑務所に収監されている妊娠中の女性は42人、母親と一緒にいる子どもは100人であった。 女性と青少年の権利を確保するための包括的な性教育法が必要である。法律に基づく中絶制度は不十分であり、避妊薬へのアクセスには障壁がある。6種類の欠陥のある避妊薬について警告が出されていたが、影響を受けた人々への調査や補償は行われていない。チリでは、約80万人の移民女性が暴力やヘイトスピーチに直面しており、特に非正規の移民女性に集中している。
2019年以降、憲法改正法が施行され、ジェンダー平等を推進する国家の義務が定められた。国の反差別法は5年間議会で審議されてきたが、否決される恐れがある。チリは、既婚女性を差別する法律や、夫に従属させる法律を廃止するという義務をまだ果たしていない。トランスジェンダーに対する暴力は145 % 増加したが、トランス女性嫌悪殺人は犯罪として認められていない。国は、トランスジェンダーの人々が直面する問題に取り組む意思を示していない。チリでは、障害のある女性や少女が差別をうけている。国連人権高等弁務官事務所の報告によると、短期入院の精神医療施設で163件の不審死があったことが判明した。障害のある少女に対する電気ショック療法の報告もあった。
カナダ
カナダに関する発言者は、先住民族の女性と少女に対してジェノサイドの影響があると述べた。これらは国の植民地政策と関連している。2015年のCEDAW審査で、委員会は、先住民族の女性と少女が最悪の社会・経済的状況に苦しんでいること、また、組織的な人種差別と暴力に苦しんでいることを知った。委員会は、カナダのインディアン法における性差別が暴力の根源であり、女性とその子孫を土地や文化、コミュニティから排除し、完全な人格を否定していることを発見した。2019年の「行方不明および殺害された先住民族女性と少女に関する全国調査」は、231件の正義を求める要請を行った。しかし、現在までに完了したのは2件のみで、半数以上は着手さえされていない。 植民地主義と寄宿学校のレガシーは、先住民族の少女たちの教育へのアクセスに引き続き影響を及ぼしている。人種的マイノリティのコミュニティは、抑圧され続けており、黒人女性の殺害や、黒人および先住民女性の強制不妊手術は、データの不在や報告件数の不足により、記録から抹消されている。
カナダは、ジェンダーに基づく暴力に対して真剣に取り組んでいない。フェミサイド(女性殺害)件数は増加しており、二日半に1人の割合で女性が殺されている。 しかし、これは国家行動計画では考慮されていない。ジェンダー暴力のサバイバーには、より強力な保護と支援が必要である。法執行官や司法関係者は、こうした暴力の動態に関する適切な訓練を受ける必要がある。カナダでは、薬物を使用する女性や先住民女性がHIV/AIDSに不均衡なまで影響され、それにより暴力のリスクが高まり、医療へのアクセスを妨げられている。カナダの移民労働者および移民セックスワーカーは、制限的な就労許可証により深刻な抑圧に直面しており、就労中の虐待、嫌がらせ、性暴力に対する脆弱性が高まっている。カナダは、これらの制限を撤廃し、これら集団を非犯罪化し、安全な労働条件を確保する政策を確立しなければならない。
カナダの企業が太平洋諸島国との略奪的な提携関係を通じて金銭的利益を追求しているため、カナダは搾取的な深海採鉱にも関与している。これらの企業を調査しなくてはならない。太平洋諸島の女性とカナダの先住民族の女性たちは、海洋と海洋生物を脅かすとして、これらのプロジェクトに強く反対している。カナダの資源採取プロジェクトは、エクアドルにおける先住民族の女性に対する暴力も増加させており、自由貿易協定が締結されれば、さらに悪化するだろう。
日本
日本の発言者は、選択的夫婦別姓制度の即時導入が必要であり、与党による旧姓使用の推進は、ジェンダー差別の解決にはつながらないと述べた。 母子世帯の半数は相対的貧困状態にあり、そのうちの70%は養育費を受けておらず、男女間の賃金格差が大きいために貧困から抜け出せないでいると述べた。
日本の従軍慰安婦問題は、30年前の1994年に女性差別委員会で取りあげられた。国がとった措置は被害者を中心に置いておらず、そのため失敗に終わった。日本政府は、「慰安婦」問題が未解決であることを認め、これまでの委員会の勧告を完全に履行するよう求める。日米地位協定は、沖縄やその他国内にある米軍基地につながる女性への暴力をなくすために見直すべきである。この11か月間で、米軍による女性や少女に対する性暴力事件は7件発生している。1954年以降、軍による犯罪や事故は21万件以上発生している。不処罰の文化を終わらせるための包括的な措置が必要である。日本は「慰安婦」制度が性奴隷制のひとつであることを認め、すべての被害者に賠償を行う法的責任を受け入れる必要がある。
女性差別撤廃条約の選択議定書の批准を迅速に進めるべきであり、包括的な反差別法を制定すべきである。また、条約の総括所見の実施を監視する常設の男女平等委員会を設置するよう強く求める。パリ原則に沿った独立した国内人権機関を早急に設置する必要がある。男女賃金格差、非正規雇用、無償労働による女性の低賃金・低年金を解消することが重要である。日本政府に、朝鮮民主主義人民共和国による拉致被害者全員を救出するよう促す。委員会に対して、日本は太平洋に放射能汚染水を放出することをやめ、廃水を安全な方法で陸上で処分する措置を即時取るよう促す勧告を出すよう求める。
キューバ
NGO発言者は、キューバの女性たちはジェンダーに基づく暴力に対する強力な法改正を求めていると述べた。締約国はジェンダー問題の関係者間の調整に取り組む必要がある。国は、男女平等に関する法律や公共政策の影響を組織的に評価すべきである。委員会には、女性団体に有害な影響を及ぼしている禁止令の壊滅的な影響に特別な注意を払うよう強く要請する。
ジェンダーに基づく暴力に対する包括的な法律は存在するが、フェミサイド(女性殺害)の行為の法定義がまだできていない。フェミサイドの発生率はスペインの10倍以上である。キューバのジェンダーに基づく暴力への補償には深刻な欠陥がある。特にアフリカ系女性や低所得の女性に対して、即時の支援ができる暫定支払いを確立するよう法改正すべきである。国は、ジェンダーに基づく暴力の防止と処罰のためのメカニズムを強化し、ジェンダーの固定観念を打破するための取り組みを倍加すべきである。
今日のキューバにおける貧困は、特にアフリカ系キューバ人の高齢女性に集中している。社会的権利は国によって削減され、女性たちはさらなる食糧不安と貧困にさらされている。医療制度には、レズビアンを恐怖症から防御するための規制が欠けている。偏見や恐怖心のない医療を提供できるよう、医療従事者に対する研修と意識向上が必要である。
ベナン
NGO発言者は、ベナンでは人身取引において女性が経済的・性的に搾取されていると述べた。この問題に関する法律はあいまいである。ベナンは人身取引の女性と子どもの送り出し、中継、そして目的地となっている。売春の定義を刑法で明確にすることを促す。
ベナンでは、LGBTIQ+の人々が、言葉によるあるいは身体に対する性的な攻撃を受けていた。これら女性たちが受ける差別は、彼女たちの経済状況を悪化させている。女性たちの脆弱な状態にもかかわらず、彼女たちを考慮した特定の医療プログラムは存在ない。性と生殖に関するサービスへのアクセスを促進するために、全国に稼働診療所を設置することが推奨される。安全な中絶は、第三者の許可を必要とせずに利用可能にするべきである。
ベナンでは、セックスワーカーが継続的に差別されている。それに対する唯一の既存の制度は、本質的に抑圧的なものである。国の保健開発計画からセックスワーカーの医療は除外されている。現在、一部の医療サービスでは、セックスワーカーの性感染症治療薬が対象外とされている。セックスワーカーが暴力の被害に遭った場合、被害者は医療のための証明書を提出する必要があるが、その証明書取得には費用がかかり、セックスワーカーにとって負担は大きい。
委員会による質問
日本について、委員より、最近の内閣改造で(訳注:女性閣僚はわずか2人であるという前置きのあと)、男女共同参画担当大臣は誰になったのかという質問があった。また新型コロナウイルス感染症におけるジェンダーに基づく暴力に対応した計画はあるのかと尋ねた。
カナダについて、FGM(女性性器切除)は依然として問題となっているのか?フェミサイドの発生はどの程度深刻なのかという質問があった。
別の委員は、日本のNGOに、配偶者やパートナーの同意の必要性も含め、中絶へのアクセスの制限に関する情報をもっているかと尋ねた。若者に対する性と生殖に関する教育の欠如に関する情報を提供できるかとも尋ねた。
キューバに関して、自由を奪われた人々(被拘禁者)に対して利用可能なサービスのなかで、LGBTIQ+の人々は利用できないものは何かを尋ねた。また、国内移住に関する規則は何があるのかを尋ねた。
チリに関して、司法アカデミーの恩恵、すなわち、女性に対する偏見や被害を回避することを目的とした恩恵は享有されているかを尋ねた。
ベナンに関して、ジェンダーに基づく暴力の被害者のための医療提供はあるのか、無料で提供されているのかと質問された。出生登録を無料にするために政府は何をしたのか?法律扶助に関する法律はあるのか?もしあるならば、どのような犯罪や権利侵害に対して扶助が受けられるのか?家庭の争いごとを扱う裁判所はあるのか?
キューバに関して、労働法にはセクハラの問題に対処するものが含まれているかどうかの質問があった。別の委員はカナダに関して、真実和解委員会による勧告のうち、どれだけが履行されたかを質問した。キューバに関して、女性の人権擁護者の状況について質問があった。チリでは、2017年の改革後も中絶が非合法に行われているのか。採掘産業と鉱業、およびそれらが女性と地域社会に与える影響について、より多くの情報を提供できるかという質問があった。また、キューバにおける教育に関する問題について情報を求めた。ベナンに関して、女性が政治家になることがどれほど難しいのかと尋ねた。
原文はこちらから
(翻訳・抄訳 反差別国際運動)