人権理事会第55会期(2024年2月26日~4月5日)におけるヴォルカー・ターク国連人権高等弁務官の開会挨拶(原文はこちらから)
今会期の理事会は、世界的に激震が走っているなか開催されます。紛争は何百万人もの民間人の命をむしばみ、一国内や国家間での対立をより深めています。
中東やウクライナ、スーダン、ミャンマー、ハイチや世界中のその他多くの場所で多くの人々が苦しみ、虐殺されていることは耐え難いことです。今後数週間にわたりさまざまな国の状況に関してこの場で議論する際、私たちはそれらの人々の顔と苦しみを思い出さなければいけません。
このような残虐な人権侵害が続いている今、すべての締約国に人権へのコミットメントを約束させるのは甘い考えでしょうか?それとも、私たちができうる最も重要で、最も重大で、最も緊急なことでしょうか?
これらは、現実的に、私たちの唯一の保障であり、本質的であり、深く根差し、激動と混乱の中で私たちの社会を支えているのではないでしょうか?
世界人権宣言75周年を記念して12月に行われたハイレベル・イベントには、締約国と多くのパートナーが集結しました。これは、人権の実施における成功と失敗を振り返り、将来どのようにすればよりよくなるかを考える重要な瞬間でした。また、全世界に世界人権宣言の約束を実現することを要求する1年にわたる充実した取り組みの集大成でもありました。
紛争を止める行動を要求します。差別を根絶するために、私たちのゆがんだ経済と荒廃した環境を修復するために、教育や医療等、質の高いサービスを要求します。腐敗を止めるために、自分自身の未来に声を上げるために、そして、より大きな正義、より包括的な開発、より大きな平等と平和の恩恵を人類にもたらすために、国家が方向転換することを何度でも求めます。
この2日間のイベントが終了するまでに、153の加盟国が市民社会グループ、国連機関、ビジネス界などとともに、計770件以上の具体的な誓約を発表しました。それらは、女性のリーダーシップや雇用の平等を高めるという公約から、極度の貧困への取り組み、移行期正義 の確保、教育やヘルスケア、社会的保護へのアクセスまで多岐にわたりました。
同様に重要であったのは、世界中のあらゆる場所で一般市民から多くの支援が寄せられたことです。Open Society Barometer[1] - 30カ国で36,000人以上に行った調査- では、大多数の人々が人権は「世のためになる」という意見を支持しています。言い換えれば、サイレント・マジョリティは、すべての社会における進歩と正義を保障する人権原則を支持しており、それが私たちの世界を安全に保っているのです。
今日、私は「Human Rights: A Path for Solutions[2](人権:解決への道)」を発表します。これは、75周年記念の年に行った取り組みの結晶であり、「未来サミット」に届けることを目ざしています。それは、平和、人びとと地球のためになる経済、効果的なガバナンス、そしてデジタルと科学の進歩に向けたガードレールのための新たな行動指針となる8つのメッセージを掲げています。それは私たちの権利に関する考え方を広げるもので、地域社会そして地球共同体を変革することができるでしょう。
事務総長が国連の保護の誓いと保護のためのアジェンダを発表したことは、全国連組織はどのような困難にあろうとも、常に人権の向上を優先すると保証したことを意味します。私は、この誓いを守るために、全国連の同僚と協力することを楽しみにしています。
私は本理事会の会期中、特に来週月曜日のグローバル・アップデートにおいて、様々な国の状況を取りあげるつもりです。しかし今朝は、すべての国々に影響を持ちうる2つの大きな懸念を挙げたいと思います。
第一に、パンデミック予防条約、サイバー犯罪条約、プラスチック汚染条約に関する交渉、人工知能の規制に関する世界的な議論 -これらの協議はすべて現在進行中ですが、人権義務や起こりうる人権侵害を十分に考慮していません。
第二に、私は国連やその他の機関の正当性と活動を弱体化させようとする動きに心を痛めています。その中には、国連人道機関や国連平和維持活動、私のオフィスをターゲットにした偽情報も含まれています。国連はプロパガンダの避雷針となり、政策失敗のスケープゴートにされています。これは、公共の利益を著しく破壊するもので、国連活動に依拠して生活をしている多くの人びとを無慈悲にも裏切るものです。
国連は、国家が差し迫った世界的問題を議論し、解決できるよう、独自の機能を備えており、大規模な紛争、地球危機、デジタル・トランスフォーメーションなど、緊急の解決策が必要とされる今、この招集力は非常に重要です。国連人道機関は何億人もの人びとが生き抜くための支援をしています。国連の開発、平和における活動は、すべての国にとって絶対的に重要です。人権高等弁務官事務所が人権に関するモニターと報告を義務づけられているのは、権利と正義が最善のそして唯一の進むべき道であることに各国が合意しているからです。話しあいを始めて、権利を守ることは、あらゆる人にとって居心地のよいものであるとは言えません-しかし、私たちすべてにとって不可欠なものです。
もしあなたが私の味方ではなく、私の敵と対立しないのであれば、あなたは間違いなく私の敵であるという二元論を、私たちは乗り越える必要があります。特に今年はさまざまな国で選挙が行われます。選挙前における、「私たち vs. あの人たち」という非論理的な対立はますます危険で過激な対立を生み出しています。これらすべては、私たちの最も深い思いやりの感覚を徐々に麻痺させ、私たちの気をそらす政治であり、戦争を擁護する政治です。特に深い対立や恐怖にある時、他者の中に人間性を見いだすことは、災難を私たちから遠ざける命綱となります。
私は昨年の世界人権宣言に対する力強い賛同、つまり多くの人から聞いた証言と重要な誓いから力と希望を見出します。
人権の力はその普遍性に根差しており、その中心にあるのがすべての人の生命の平等な価値です。同じ人権基準があらゆる場所で適用されなくてはいけません。また、それは私たちが後ずさりするような高水準ではなく、将来の進歩の指標とならなくてはいけません。
すべての人間は生まれながらにして平等です。すべての被害者は正義に値します。誰一人も置き去りにしてはいけません。そして誰一人たりとも法の上に立つことはできません。
ありがとうございます。
<翻訳:反差別国際運動(IMADR)>
[1] https://www.opensocietyfoundations.org/uploads/be67f098-4fdf-45ce-adeb-5143e8282d23/barometer-in-context-strengthening-the-human-rights-system-20231208.pdf
[2] https://www.ohchr.org/en/documents/outcome-documents/human-rights-path-solutions