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ネパール:ダリット女性の権利促進活動
IMADRのパートナー団体であるネパールのFEDO(Feminist Dalit Organisation ) から、2024年の年次報告書が届きました!FEDOはカーストおよびジェンダーに基づく差別の撤廃をめざすダリット女性たちにより1994年に設立された非政府組織です。年次報告の一部を紹介します。

2024年に創立30 年を迎えた FEDOは、ダリット女性とダリットコミュニティの権利擁護の先頭に立つ組織へと発展しました。ネパール全国に57支部 3300 の女性グループをもつ FEDO は、ダリット女性の経済的エンパワメント、人権と司法へのアクセス、リーダーシップ養成、包摂的統治と社会正義、ジェンダーに配慮した人道支援の5つのテーマを柱に、「公正で公平な社会」を目ざして活動をしています。
経済的エンパワメント
ネパールでは、多くの女性が未登録で低賃金の仕事についています。FEDO は、資金調達、スキル取得、起業に焦点を当てたイニシアティブを通じて、ダリット女性の経済的エンパワメントを進めています。2024年は、貯蓄と貸付のグループ活動に10,751人のダリット女性が参加をし、898人の女性が手に職をつけ、ビジネスを始めるために必要な訓練を受けました。
―起業を通じたエンパワメント
ジャナクプルで暮らすダリット女性の Kewala Devi Mandal は、早くに夫を亡くし、3人の幼い子どもたちの世話を一人ですることになりました。財産もなく、資金を借り入れることもできず、日雇い労働でどうにか生活を乗り切っていました。状況が変わり始めたのは、FEDO の女性グループに参加してからです。30人のメンバーからなるグループで、5日間のビジネススキル・トレーニングをうけ、小さなビジネスを始める自信を得ました。グループから 20,000 ネパール・ルピー*を借り、彼女は露店で野菜を売り始めました。現在では、経費を差し引いても1日1,500ネパール・ルピーの収入があります。これにより家計が改善され、日雇いの仕事に頼ることが減りました。今では息子たちも母親の商売をサポートしており、一家の経済的安定はさらに高まっています。

人権と司法へのアクセス
保護する法律はあるものの、報復の恐れ、社会的烙印、偏見、法的支援への限られたアクセスなどの問題により、ダリット女性たちが法に訴えることは容易ではありません。また、ジェンダーに基づく暴力も深刻です。477人が心理社会的カウンセリングを利用し、1,155人のダリット女性が法的支援を受けました。

―ジェンダーに基づく暴力に立ち向かう
Chandra は以前、暴力とは身体的な危害だけを意味すると思っていました。しかし、セルフヘルプグループでの啓発を通じて、感情的・精神的虐待も暴力の一形態であることを学びました。自身の経験を振り返り、そのような扱いがいかに常態化していたかに気づきました。「以前は、それが普通だと感じていたので、声を上げることはありませんでした」。「今は、それが普通ではないとわかっています。自分のためだけでなく、他の人のためにも声を上げています」。彼女は今、ジェンダーに基づく暴力に関する法律、申し立て制度や支援サービスを利用する方法などを使えるようになりました。
リーダーシップ養成
公平な代表と意思決定プロセスを確保するためには、包括的なリーダーシップの育成が必須です。2024年、FEDOでは1,943人の若いメンバーがリーダーシップの役割を担いました。全国各地では、延べ1,175人のリーダーが、ダリット女性の声を高め、地域のネットワークを通じて権利擁護活動を行いました。さらに、972人のダリット女性が政治的リーダーシップ、ガバナンス、アドボカシーなどの専門的な訓練を受けました。
―持続可能な変化は一人一人の行動から:有害な慣習に抗する
26歳のBishna Kumari Nepaliは、 生理中の女性を隔離する「チャウパディ」が有害な慣習であるということを学びましたが、恐怖と周囲からの圧力によって、声を上げることはできませんでした。FEDOが実施する「周縁化された女性の食糧と尊厳への権利のための地域運動」に参加し、トレーニンングやコミュニティディスカッションに関わるようになりました。このような経験は、彼女自身の行動を振り返るきっかけになり、自身のためだけでなく、次の世代のためにも、「チャウパディ」をやめた方が良いと家で話すようになりました。やがて夫と義母は彼女の決断を支持し、今では、生理のときは自分の部屋で安全で快適に休むようになりました。さらに、チャウパディ制度に異議を唱え、女性の尊厳を促進するために、コミュニティでの対話をリードしています。

包摂的なガバナンスと社会正義
FEDOは、ダリット女性の声や周縁化されたコミュニティの声が政策立案や開発計画に反映されるよう活動を行っています。2024年、1,214人のダリット女性が社会的説明責任メカニズム(公聴会、持続可能性監査、社会監査、予算モニタリング等)に関わりました。

― アドボカシー活動と法的支援の重要性
ダリット女性の Radhika Roka は、ウダヤプール郡の中学校で4年間教員助手として働いていました。政府の給与規定では彼女の月給は7,500ネパール・ルピーになりますが、実際には 4,500 ネパール・ルピーしか支払われませんでした。FEDO は地元のダリットリーダーと協力して、学校の管理者と交渉しました。校長は経費削減を理由に支給額の不足を言い訳しましたが、FEDO の介入により、学校は彼女に規定通り全額を支払い、搾取に対する謝罪を発表しました。
ジェンダーに配慮した人道支援
災害支援において、ジェンダーとカーストの交差的形態の差別に配慮した対応は重要です。2023年11月にルクム西部で起きた地震で、FEDO は、被災者のために簡易台所を2つ作り、150世帯(141が女性の世帯主、9が男性の世帯主)に食事を提供しました。また、被災した14人の女性を料理長、料理人補助、ヘルパーに任命し、人道支援における女性のリーダーシップを促進しました。

― レジリエンス:希望とサポートで逆境を乗り越える
地震で夫を亡くし、 自身の視力も失ったLakshmi B.K. は、4人の子どもと義母の世話をしなくてはいけません。地震で家も倒壊しました。FEDOとUN Womenが、冬用の暖かい衣類など、必需品を提供しました。視力回復の治療を受けたいと考えていますが、その費用は手の届かないものです。家族が自立できるよう新しい技術を学びたいと考えています。
*2025年5月現在、1ネパール・ルピー=1.05円
写真は、2024年FEDO年次報告書より引用しています。