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一般的勧告

一般的意見・一般的勧告とは、各人権条約の実施について監視を行う各委員会が、国家報告審査・個人通報審査を通じた履行監視活動の経験を基礎として、人権条約の各規定についてその内容を一定明示するもので、条約上の義務を履行するにあたり参考にすべき重要な文書です。
オリジナル(英語)はOHCHRの各条約機関のページに掲載されています。IMADRはこれら勧告を、村上正直大阪大学名誉教授、李嘉永近畿大学准教授、窪誠大阪経済大学教授、他の協力により日本語に訳しました。


1.一般的勧告1(1972年、第5会期)
2.一般的勧告2(1972年、第5会期)
3.一般的勧告3(1972年、第6会期)
4.一般的勧告4(1973年、第8会期)
5.一般的勧告5(1977年、第15会期)
6.一般的勧告6(1982年、第25会期)
7.条約第4条の実施に関する一般的勧告7(1985年、第23会期)
8 条約第1条第1項及び第4項の解釈及び適用に関する一般的勧告8(1990年、第38会期)
9.条約第8条第1項の適用に関する一般的勧告9(1990年、第38会期)
10.専門技能の援助に関する一般的勧告10(1991年、第39会期)
11.市民でない者に関する一般的勧告11(1993年、第42会期)
12.後継国に関する一般的勧告12(1993年、第42会期)
13.人権保護における法執行官の訓練に関する一般的な性格を有する勧告13(1993年、第42 会期)
14.条約第1条第1項に関する一般的勧告 14(1993年、第42会期)
15.条約第4条に関する一般勧告 15(1993年、第42会期)
16.条約第9条の適用に関する一般勧告 16(1993年、第42会期)
17.条約の実施を促進するための国内機関の設置に関する一般的勧告17(1993年、第42会期)
18.人道に対する罪を訴追する国際裁判所の設置に関する一般的勧告18(1994年、第44会期)
19.条約第3条についての一般的勧告19(1995年、第47会期)
20.一般的勧告20 (1996年、第48会期)
21.一般的勧告21 (1996年、第48会期)
22.一般的勧告22(1996年、第49会期)
23.先住民に関する一般的勧告23(1997年、第51会期)
24.条約第1条に関する一般的勧告 24(1999年、第55会期)
25.人種差別のジェンダーに関連する側面に関する一般的勧告25(2000年、第56会期)
26.条約第6条に関する一般的勧告26(2000年、第56会期)
27.ロマに対する差別に関する一般的勧告27(2000年、第57会期)
28.人種主義、人種差別、外国人嫌悪および関連のある不寛容に反対する世界会議のフォローアップに関する一般的勧告28(2002年、第60会期)
29.世系に基づく差別に関する一般的勧告 29(2002年、第61会期)
30.市民でない者に対する差別に関する一般的勧告30(2004年、第65会期)
31.刑事司法制度の運営および機能における人種差別の防止に関する一般的勧告31(2005年、第67会期)
32.人種差別撤廃条約における特別措置の意味と範囲に関する一般的勧告32(2009年、第75会期)
33.ダーバンレビュー会議のフォローアップに関する一般的勧告 33(2009年、第75会期)
34.アフリカ系の人びとに対する人種差別に関する一般的勧告 34(2011年、第79会期)
35.人種主義的ヘイトスピーチと闘うための一般的勧告 35(2013年、第83会期)
36.法執行官によるレイシャル・プロファイリングの防止およびこれとの闘いに関する一般的勧告 36(2020年、第102会期)
37.人種差別と健康への権利の享有に関する一般的勧告 37(2024年、第113会期)


22.一般的勧告22(1996年、第49会期)
人種差別撤廃委員会は、世界の多くの地域において、外国の軍事的、非軍事的及び(又は)種族的紛争の故に、種族を基準とした難民の大量流失及び人の避難が生じていることを認識し、「世界人権宣言」及び「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する条約」が、すべての人間が生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利において平等であること、並びに、すべての者が、いかなる理由に基づく差別、特に人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に関する差別なしに、そこで規定されたすべての権利及び自由を享有することができることを宣言していることを考慮し、難民一般の保護のための国際制度の主たる源泉としての、難民の地位に関する1951年の条約及び1967年の議定書を想起し、

1.「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」第5条及び委員会の第5条に関する一般的な性格を有する勧告XX(48)に締約国の注意を喚起し、並びに、条約が締約国に対して、市民的、政治的、経済的、社会的及び文化的権利及び自由の享有における人種差別を禁止し及び撤廃する義務を課していることを繰り返して述べる。

2.この点に関して次のことを強調する。
(a)すべての当該難民及び避難民(displaced persons)は、安全を保障された状況の下で出身地に自由に帰還する権利を有する。
(b)締約国は、当該難民及び避難民の帰還が自発的なものであることを確保する義務、並びに難民の不送還及び不追放原則を遵守する義務を負う。
(c)すべての当該難民及び避難民は、その出身地に帰還した後に、紛争の過程で奪われた財産の回復を受ける権利、及び回復が不可能な当該財産について適当な補償を受ける権利を有する。強制・脅迫を受けてなされた当該財産に関するいかなる約束又は陳述も無効である。
(d)すべての当該難民及び避難民は、その出身地に帰還した後に、すべての段階の政治に完全かつ平等に参与する権利、公務に平等に携わる権利及びリハビリテーションの援助を受ける権利を有する。


21.一般的勧告21 (1996年、第48会期)
1.委員会は、種族的又は宗教的集団又は少数者が、分離権の主張の根拠の1つとして、しばしば自決権に言及することを注目する。この点で、委員会は以下の見解を表明することを希望する。

2.人民の自決権は国際法の基本原則である。この原則は、「国際連合憲章」第1条、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」第1条及び「市民的及び政治的権利に関する国際規約」第1条並びにその他の国際人権文書で規定されている。「市民的及び政治的権利に関する国際規約」は、種族的、宗教的又は言語的少数者が自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又はその言語を使用する権利に加えて、人民の自決権を規定している。
3.委員会は、国際連合総会が1970年10月24日の総会決議2625(XXV)において承認した「国際連合憲章に従った諸国家間の友好関係及び協力についての国際法の原則に関する宣言」に従い、人民の自決権を促進することが国家の義務であることを強調する。しかしながら、自決の原則の実施のためには、すべての国家が、国際連合憲章に従い、人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守を、共同及び個別の行動を通じて促進することが必要である。この点で、委員会は、総会が、1992年12月18日の総会決議47/135において採択した「民族的又は種族的、宗教的及び言語的少数者に属する者の権利に関する宣言」について政府の注意を喚起する。

4.人民の自決に関して、2つの側面が区別されなければならない。人民の自決権は、国内的側面を有する。すなわち、外部からの干渉を受けることなく、その経済的、社会的及び文化的発展を自由に追求するすべての人民の権利である。この点において、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」第5条(c)が規定する、すべての段階における政治に参与するすべての市民の権利との関連性が存在する。従って、政府は、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身についての差別なく、住民全体を代表するものでなければならない。自決の外的側面は、同権の原則に基づく国際社会において、すべての人民がその政治的地位及びしめるべき場所を自由に決定する権利を有することを含意する。このことは、植民地主義からの人民の解放、並びに、人民を外国による征服、支配及び搾取に服さしめることの禁止によって例証される。

5.国内においてすべての人民の権利を十分に尊重するためには、政府は、ここでも、国際人権文書、特に、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」を支持し、かつそれを十分に実施することが求められる。人種的、種族的、部族的、宗教的その他の理由に基づく差別なく個人の権利を保護することへの関心が、政府の政策を導かなければならない。「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」第2条及びその他の関連国際文書に従い、政府は、種族的集団に属する者の諸権利、特に、尊厳のある生活をおくる権利、自己の文化を維持する権利、国家の成長の果実を衡平に配分される権利及び自らが市民である国の政府において自らの役割を果たす権利について、敏感であるべきである。また、政府は、適当な場合には、その市民からなる種族的又は言語的集団に属する者に対して、当該者又は集団のアイデンティティの維持に特に関連する諸活動に従事する権利を付与することを、自国の憲法の枠内において、検討するべきである。

6.委員会は次のことを強調する。すなわち、「友好関係宣言」に従い、委員会のいずれの行動も、人民の同権及び自決の原則に従って行動し、かつ、人種、信条又は皮膚の色による差別なしにその地域に属するすべての人民を代表する政府を有する主権独立国家の領土保全又は政治的統一の全部又は一部を分断し又は害するおそれのあるいかなる行動をも承認し、又は奨励するものと解することはできない。委員会の見解によれば、国際法は、ある国家からの分離を一方的に宣言する、人民の一般的権利を認めていない。この点で、委員会は、「平和への課題」において表明された見解、すなわち、国家の断片化は、平和と安全の維持と共に、人権の保護をも害するおそれがあるという見解(パラグラフ17以下)に従うものである。しかしながら、このことは、すべての関係当事者の自由な同意により到達した取り決めがあり得ることを排除するものではない。


20.一般的勧告20 (1996年、第48会期)
1.条約第 5 条は、人種差別のない市民的、政治的、経済的、社会的および文化的権利および自由の享受を保障すべき、締約国の義務を含んでい る。第 5 条が規定する権利および自由が網羅的なものではないことに注意が払われるべきである。条約の前文で想起されているように、これらの権利および自由の冒頭には、国際連合憲章および世界人権宣言に由来する権利および自由がおかれている。これらの権利の大部分は、国際人権規約において入念に規定されている。従って、すべての締約国は、人権の享受を承認しかつ保護する義務を負う。しかし、これらの義務が締約国の法秩序に組み入れられる方法は異なるであろう。条約第 5条は、人権の行使が人種差別のないようにしなければならないという保障を要求している点は別として、それ自体で市民的、政治的、経済的、社会的または文化的権利を創設するものではなく、かかる権利の存在および承認を前提とするものである。条約は、かかる人権の享受における人種差別を禁止しおよび撤廃することを国家に義務づけているのである。

2.条約第 5 条が列挙する権利の1つに対して国家が課す制約であって、表面上、自国の管轄内にあるすべての者に適用されているものである場合には、当該国家は、常に、当該制限がその目的または効果において、国際人権基準の不可欠の一部である条約第 1 条と両立しないものとなら ないよう確保しなければならない。委員会は、そのようなケースに当たるか否かを確認するため、いかなる当該制限も人種差別を伴わないことを確証する一層の調査を行なう責務を有する。

3.第 5 条が規定する多くの権利および自由、たとえば、裁判所の前での平等な取り扱いについての権利などは、ある国家に居住するすべての者によって享受されなければならない。そのほかの権利、たとえば、選挙に投票および立候補によって参加する権利などは市民の権利である。

4.締約国は、条約第 5 条が規定する権利および自由のそれぞれについて、権利および自由毎に差別のない実施に関して報告するよう勧告される。

5.条約第 5 条が規定する権利および自由、ならびにそれに類似するいかなる権利も締約国により保護されなければならない。かかる保護は、公的機関を用いることによってであれ、私的機関の活動を通じてであれ、さまざまな方法によって達成されるであろう。いかなる場合においても、条約の効果的履行を確保し、それに関して条約第 9 条に基づき報告を行なうことは、関係締約国の義務である。私的機関が権利の行使または機会の利用に影響を及ぼす場合には、締約国は、その結果が人種差別を生じさせま たは永続化させる目的または効果をもつことがないよう確保しなければならない。


19.条約第3条についての一般的勧告19(1995年、第47会期)
1.人種差別撤廃委員会は、第3条の文言について締約国の注意を喚起する。第3条により、締約国は、自国の管轄の下にある領域における人種隔離及びアパルトヘイトのすべての慣行を防止し、禁止し及び根絶することを約束している。アパルトヘイトという文言は専ら南アフリカに向けられたものとみることができるであろう。しかし、採択された第3条は、すべての国家におけるあらゆる形態の人種隔離を禁止している。

2.委員会は、この種のすべての慣行を根絶する義務の中には、国家の以前の政府が実行し又は黙認していたかかる慣行や、国外の勢力が強制したかかる慣行がもたらした諸結果を根絶する義務が含まれるものと確信する。

3.委員会の見解によれば、完全な又は部分的な人種隔離状態がいくらかの国家においては政府の政策によって生じる場合もあるが、他方で、部分的な隔離状態が、私人の行為の意図せざる副産物として生ずる場合もある。多くの都市部において、居住の形態は集団間の所得格差に影響されている。そのような所得格差は、時として、人種、皮膚の色、世系及び民族的又は種族的出身の相違と結びついており、その結果、その住民は容易に汚名をきせられ、人種的理由とその他の理由が混合した形態の差別を被るのである。

4.従って、委員会は、公の当局が自ら率先することなく又は公の当局が直接に関与することがない場合においても、人種隔離状態が生ずることを確認する。委員会は、締約国に対して、人種隔離を生じさせるおそれのあるすべての趨勢を監視すること、今日まで存続しているいかなる否定的な諸結果をも根絶するために努力すること、及び、その定期報告書においてこのような行動について記述することを要請する。


18.人道に対する罪を訴追する国際裁判所の設置に関する一般的勧告18(1994年、第44会期)
人種差別撤廃委員会は、世界の様々な地域で発生している、人種及び種族の相違を動機とする大量虐殺及び残虐行為の数が増大しつつあることを危険な事態として受けとめし、実行行為者の不処罰が、かかる犯罪の発生及び再発を生じさせる1つの主要な要因であることを確信し、集団殺害犯罪(genocide)、人道に対する罪並びに1949年のジュネーブ諸条約及びそれに対する1977年の追加諸議定書の重大な違反行為を訴追する一般的な管轄権を有する国際裁判所を可能な限り早期に設置する必要があることを確信し、この問題について国際法委員会がすでに行なっている作業及びこの点に関して総会が1993年12月9日の総会決議48/31により与えた奨励を考慮し、旧ユーゴスラビアの領域内で行われた国際人道法の重大な違反について責任を有する者を訴追するために国際裁判所を設置した、1993年5月25日の安全保障理事会決議872(1993)をも考慮し、

1.集団殺害犯罪、人道に対する罪(政治的、人種的及び宗教的理由に基づく殺人、大量殺害、奴隷化、追放、拘禁、拷問、強姦、迫害並びに文民に対するその他の非人道的行為を含む。)並びに1949年のジュネーブ諸条約及びそれに対する1977年の追加諸議定書の重大な違反行為を訴追するために、一般的な管轄権を有する国際裁判所が緊急に設置されるべきものと考える。

2.事務総長に対して、この勧告に、国際連合の権限のある諸機関(安全保障理事会を含む。)の注意を喚起するよう求める。

3.人権高等弁務官に対して、人権センターが第1項に規定される犯罪に関係するすべての関連情報を系統的に収集し、もって、国際裁判所の設置の後直ちに同裁判所がこれを容易に利用し得るようにすることを確保するよう要請する。


17.条約の実施を促進するための国内機関の設置に関する一般的勧告17(1993年、第42会期)
人種差別撤廃委員会は、
「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」の実施に関する締約国の実行を考慮し、条約の実施を促進するための国内機関の設置をさらに奨励する必要があることを確信し、条約の実施をさらに強化する必要性を強調し、

1.締約国が、特に次の目的に資する国内委員会又はその他の適切な機関を設置するよう勧告する。その際、1992年3月3日の人権委員会決議1992/54に添付された国内機関の地位に関する諸原則を、必要な変更を加えた上で、これを考慮するものとする。
(a)「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」第5条において明記されるいかなる差別もなし人権の享有に対する尊重を促進すること。
(b)人種差別に対する保護をめざした政府の政策を再検討すること。
(c)立法と条約の諸規定との合致を監視すること。
(d)条約上の締約国の義務について一般大衆を啓発すること。
(e)人種差別撤廃委員会に提出される報告書の作成にあたって政府を援助すること。

2.かかる委員会が設置される際には、委員会と関係締約国との間の対話を強化するために、かかる委員会は報告書の作成に関与するようにされるべきであり、また、できる限り政府代表団に加えられるべきであることをも勧告する。


16.条約第9条の適用に関する一般的勧告16(1993年、第42会期)
1.「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」第9条に基づき、締約国は、条約の諸規定の実現のためにとった措置に関する報告書を、国際連合事務総長を通じて委員会の検討のために提出することを約束している。

2.締約国のこの義務に関して、委員会はいくらかの機会に報告書が他の締約国で存在する事態に言及していたことに注目する。

3.そのため、委員会は、締約国に対して条約第11条の規定に留意しつつ、報告書の内容に関する第9条の規定を想起するよう希望する。第11条は、他の締約国が条約の規定を実施していないと考える事態について委員会の注意を喚起するために締約国が利用し得る唯一の手続的手段である。


15.条約第4条に関する一般的勧告 15(1993年、第42会期)
1.「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」が採択される過程において、第4条は人種差別との闘いにとって中心的規定とみなされた。当時、全体主義的イデオロギーが復活することが広くおそれられていた。適切なことに、人種的優越思想の流布の禁止及び人びとに人種間の暴力を扇動するおそれのある組織的活動の禁止が、きわめて重要とみなされたのである。そのとき以降、委員会は 種族的出身に基づく組織的暴力の証拠、及び種族の相違が政治的に利用されていることの証拠を受理してきた。その結果、今日、第4条の実施は、その重要性を増しつつある。

2.委員会は、「一般的な性格を有する勧告Ⅶ」を想起する。同勧告において、委員会は、第4条の規定が、実施に関する締約国 の裁量の余地を認めない性質のものであることを説明した。かかる義務を満たすためには、締約国は、まず、適切な立法を制定しなければならない。しかし、それにとどまらず、その立法が効果的に執行されることを確保しなければならない。人種間の暴力行為及びその脅迫は、同種の行為を連鎖的に生みやすく、敵対的な雰囲気を醸成しやすい。そのため、当事国が直ちに介入することのみが、効果的に対応する義務を満たしうる。

3.第4条は、締約国に対して4つの誤った行為を処罰することを求めている。すなわち、(ⅰ)人種的優越又は憎悪に基づく思想の流布、(ⅱ)人種的憎悪の扇動、(ⅲ)人種、又は皮膚の色又は種族的出身を異にする人の集団に対する暴力行為、及び(ⅳ)かかる暴力行為の扇動である。

4.委員会の意見によれば、人種的優越又は憎悪に基づくあらゆる思想の流布の禁止は、意見及び表現の自由についての権利と両立する。この権利は、世界人権宣言第19条で具体化され、また、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」第5条(d)(ⅷ)において想起されている。意見及び表現の自由についての権利が第4条にとってもつ関連性は、同条自体の中で記されている。市民によるこの権利の行使には特別の義務及び責任が伴う。このことは世界人権宣言第29条第2項が明記するところであって、なかでも人種主義的思想を流布しない義務が特に重要である。さらに、委員会は「市民的及び政治的権利に関する国際規約」第20条に締約国の注意を喚起したい。それによれば、差別、敵意又は暴力の扇動となる民族的[公定訳は「国民的」]、人種的又は宗教的憎悪のいかなる唱道をも法律で禁止しなければならない。

5.第4条(a)は、人種主義に基づく活動への資金援助をも処罰する。委員会は 人種主義に基づく活動の中には、上記の第3パラグラフで述べたすべての活動、すなわち、種族及び人種の相違を原因とする活動が含まれると理解する。委員会は、締約国に対して自国の国内法及びその国内法の実施がこの義務を満たすかどうかを調査するよう要請する。

6.いくらかの締約国の主張によれば、自国の法秩序においては、ある団体の構成員が人種差別を助長し又は扇動する以前に当該団体を違法と宣言することは不適切である。委員会の意見によれば、第4条(b)は、かかる締約国については、最も早い時期にかかる団体に対して手続をとるためにこれを油断なく監視する、より大きな責任を課している。これらの団体及び組織的宣伝活動その他の宣伝活動は、違法であるとして禁止されなければならない。これらの団体への参加も、それ自体処罰されなければならない。

7.条約第4条(c)は、公の当局の義務の要点を示している。すべての行政レベルの公の当局(地方公共団体を含む)は、同項により拘東される。委員会の考えるところによれば、締約国は、公の当局がこれらの義務を遵守するよう確保しなければならず、また、この点に関して報告しなければならない。


14.条約第1条第1項に関する一般的勧告 14(1993年、第42会期)
1. 非差別は、法の前の平等及びいかなる差別もない法の平等な保護と共に人権保護の基本原則をなす。委員会は、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」第1条第1項における人種差別の定義の一定の特徴について、締約国の注意を喚起したい。委員会の意見によれば、「基づく(based on)」という文言は、前文第7項の「を理由とする(on the grounds of)」と異なる意味を有してはいない。ある区別は、それが特定の権利及び自由を害する目的又は効果のいずれかを有する場合には、条約に反する。このことは、第2条第1項(c)が締約国に課す義務、すなわち、人種差別を生じさせ又は永続化させる効果を有するいかなる法令又は慣行をも無効とするべき義務によって確認される。

2.委員会の見解によれば、取扱いの区別は、区別の基準が、条約の趣旨及び目的から判断して正当である場合、又は、条約第1条第4項の適用範囲内のものである場合には、差別を構成しない。用いられている可能性のある基準を検討する際、委員会は、特定の行為が様々な目的を有する可能性を認めるであろう。ある行為が条約に反する効果を有するか否かを決定しようとする際、委員会は、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身によって区別される集団に対して、その行為が正当化されない異質の影響(an unjustifiable disparate impact)を有するか否かを検討するよう意を払うであろう。

3.条約第1条第1項は、また、政治的、経済的、社会的及び文化的分野に言及している。この点で関連する権利及び自由は第5条において規定されている。


13.人権保護における法執行官の訓練に関する一般的な性格を有する勧告13(1993年、第42会期)
1.「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」第2条第1項に従い、締約国は、国又は地方のすべての公の当局及び機関が、人種差別のいかなる慣行にも従事させないことを約束している。さらに、締約国は、人種、皮膚の色又は民族的若しくは種族的出身による差別なく条約第5条が列挙する権利をすべての者に保障することを約束している。

2.これらの義務の履行は、警察権、特に拘禁又は逮捕の権限を行使する国内の法執行官に、及びそれらの者が自国が条約上負っている義務について適切に情報を得ているかどうかに、左右されるところが大である。法執行官がその職務の遂行にあたって人間の尊厳を尊重し、保護することを確保し、かつ、人種、皮膚の色又は民族的若しくは種族的出身による差別のないすべての者の人権を維持し、擁護することを確保するために、法執行官は徹底的な訓練を受けるべきである。

3.条約第7条の実施に関して、委員会は、締約国に対して条約及び「法執行官行動綱領」(1979年)が定める諸基準が完全に実施されるように法執行官の訓練を再検討し、改善するよう要請する。


12.後継国に関する一般的勧告XII(1993年、第42会期)
人種差別撤廃委員会は、
諸国家が「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」に普遍的に参加することの重要性を強調し、
諸国家の解体の結果、後継国が出現したことを考慮し、

1.先行国が「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」の締約国である場合には、条約の被寄託者としての事務総長に後継国が条約上の義務に引き続き拘束されることを確認することにつき、未だその確認を行っていない後継国に対してこれを行うよう奨励する。

2.先行国が「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」の締約国でない場合には、条約への加入につき、未だ加入していない後継国に対してこれを行うよう求める。

3.後継国に対して、個人通報を受理しかつ検討する、人種差別撤廃委員会の権限を認める「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」第14条第1項に基づく宣言を行うことの重要性を考慮するよう求める。


11.市民でない者に関する一般的勧告11 (1993年、第42会期)
1.「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」第1条第1項は人種差別を定義している。第1条第2項は、この定義から、市民 (citizens) と市民でない者 (non-citizens)との間に区別を設ける締約国の行為を除外している。第1条第3項は、市民でない者相互の間で締約国がいかなる特定の国籍・民族 [公定訳は「民族」]に対しても差別を設けてはならないことを宣言することによって、第1条第2項に限定を付している。

2.委員会は、第1条第2項が、時に、外国人(foreigners)に関する立法に関連する事項について報告する義務から締約国を免除するものと解釈されてきたことに注目した。従って、委員会は、締約国が外国人に関する立法及びその実施について十分に報告する義務があることを確認する。

3.委員会は、さらに、第1条第2項が、その他の文書、特に、「世界人権宣言」、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」及び「市民的及び政治的権利に関する国際規約」において認められ、規定されている権利及び自由を減ずるように解釈されてはならないことを確認する。


10.専門技能の援助に関する一般的勧告10(1991年、第39会期)
人種差別撤廃委員会は、
総会第45会期が是認した、人権条約諸機関の第3回議長会合の勧告、すなわち、締約国の報告書の作成に関与する者を訓練する目的で、国内レベルで一連のセミナー又はワーク・ショップを組織するべき旨の勧告に留意し、
「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」の一定の締約国が、条約に基づく報告義務を継続して履行していないことを懸念し、
国内レベルで組織される訓練コース及びワーク・ショップが、かかる締約国の報告書の作成に責任を有する公務員にとってはかりしれない援助となり得ることを信じ、

1.事務総長に対して、関係締約国と協議の上、実行可能なできるだけ早期に報告書担当官のための国内レベルの適切な訓練コース及びワーク・ショップを組織するよう要請する。

2.かかる訓練コース及びワーク・ショップの運営にあたって、適切な場合には、人権センターのスタッフ及び人種差別撤廃委員会の専門家の助力が利用されるべきことを勧告する。


9.条約第8条第1項の適用に関する一般的勧告9(1990年、第38会期)
人種差別撤廃委員会は、
 専門家の独立性を尊重することが人権及び基本的自由の完全な遵守を確保することにとって不可欠であることを考慮し、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」第8条第1項を想起し、
 国家、団体及び集団の代表が、専門家、特に国別報告者を務める専門家に圧力をかけるという傾向を危険な事態として受けとめ、
 それらの代表が、公平と認められ、自己の個人の資格で職務を遂行する独立した専門家としての委員の地位を無条件で尊重するよう強く勧告する。


8 条約第1条第1項及び第4項の解釈及び適用に関する一般的勧告8(1990年、第38会期)
人種差別撤廃委員会は、
個人が、ある特定の人種的若しくは種族的集団又は諸集団の構成員であることを認定する方法についての情報に関する締約国からの報告書を検討し、
かかる認定は、その逆の正当化理由が存在しない場合には、関係個人の自己認定に基づかなければならないという見解である。


7.条約第4条の実施に関する一般的勧告7(1985年、第23会期)
人種差別撤廃委員会は、
締約国の定期報告書を16年間にわたって、かつ、100を超える第6、第7及び第8定期報告書を検討し、
1972年2月24日の「一般的な性格を有する勧告I」、及び1973年5月4日の「決定3(Ⅶ)」を想起しかつ再確認し、
多くの報告書において、締約国が、人種差別行為に関して条約第4条の実施を取扱う個別の事例についての情報を提供してきたことに満足の意をもって注目し、
しかしながら、多数の締約国において条約第4条を実施するための、必要な立法が制定されていないこと、並びに、多くの締約国が今なお条約第4条(a)及び(b)の必ずしもそのすべての義務を履行していないことに注目し、
特に、第4条の第1パラグラフに従い、締約国が、「世界人権宣言に具現された原則及び次条[第5条]に明示的に定める権利に十分な考慮を払って」、「このような差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束」していることを想起し、
人種主義及び人種差別並びにそれらの促進又は扇動を目的とする活動を抑止するという、第4条の予防的側面に留意し、

1.自国の立法が条約第4条(a)及び(b)の規定を満たしていない締約国が、同条の、実施に関する締約国の裁量の余地を認めない義務(mandatory requirements)を満たす目的で必要な措置をとるよう勧告する。

2.自国の定期報告書の中で第4条(a)及び(b)の規定が効果的に実施されている態様及び範囲をより十分に委員会に通知し、かつ、その報告書の中で条文の関連部分を引用するよう、未だこれを行っていない締約国に対して要請する。

3.さらに 権限のある国内裁判所その他の国家機関が、人種差別行為に関して及び特に第4条(a)及び(b)が規定する犯罪に関して行った決定に関する一層の情報を自国の定期報告害の中で提供する努力を行うよう、未だこれを行っていない締約国に対して要請する。


6.一般的勧告6(1982年、第25会期)
人種差別撤廃委員会は、
印象的な数の国家が「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」を批准し又はこれに加入しているという事実を認識し、
しかしながら、批准のみによっては、条約が設ける監視制度が効果的に機能することができるようになるわけではないことに留意し、
条約第9条が締約国に対して条約の諸規定の実現のための措置に関する第1報告書及び定期報告書を提出する義務を課していることを想起し、
現在、62カ国の締約国からの89にのぼる報告書の提出が大幅に遅延していること、これらの報告書のうち42の報告書の大幅遅延が15カ国の締約国からのものであり、それぞれが2又はそれ以上の報告書を未提出であること、並びに1973年から1978年の間に提出期限をむかえた4つの第1報告書が今なお受理されていないことを述べ、
国際連合事務総長を通じて締約国に送付された督促状も、総会への年次報告書に関連する情報を挿入することも、必ずしもすべての場合において期待された効果をもたなかったことを遺憾の意をもって注目し、
総会に対して次のことを要請する。
(a)この事態に留意すること。
(b)委員会が、条約上の委員会の義務をより効果的に履行することができるよう確保するために、その権限を行使すること。


5.一般的勧告5(1977年、第15会期)
人種差別撤廃委員会は、
「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」第7条及び第9条の規定に留意し、 人種差別につながる偏見と戦うこと、人種及び種族の集団の間の理解、寛容及び友好を促進すること、また、国際連合憲章並びに国際連合総会が採択した人権に関する諸宣言及びその他の関連文書の原則及び目的を普及させることが、人種差別を撤廃する重要かつ効果的な手段であることを確信し、
すべての締約国を拘束する条約第7条に基づく義務が、締約国(自国の管轄の下にある領域内で人種差別が実行されていないと宣言する締約国を含む。)のすべてによって履行されなければならないこと、従って、すべての締約国が、条約第9条第1項に従い提出する報告書の中に第7条の規定の実施に関する情報を含めることを要求されていることを考慮し、
条約第9条に従い提出された報告書の中に、条約第7条の規定の実現のためにとった措置に関する情報を含めている締約国がほとんどないこと、及びかかる情報がしばしば一般的で表面的であることを遺憾の意をもって注目し、
条約第9条第1項に従い、委員会は締約国から追加の情報を要請することができることを想起し、

1.条約第7条の規定の実現のためにとった措置に関する十分な情報を含めていないすべての締約国に対して、条約第9条に従い提出する次回の報告書の中に、又は次回の定期報告書の提出期限前の特別報告書の中にこれを含めるよう要請する。

2.条約第7条に従い、前項にいう情報は「教授、教育、文化及び情報の分野において」、次の目的のために自国がとった「迅速かつ効果的な措置」に関する情報を含むべきであるという事実に締約国の注意を促す。
(a)「人種差別につながる偏見と戦うこと」
(b)「諸国民の間及び人種又は種族の集団の間の理解、寛容及び友好を促進すること」
(c)「国際連合憲章、世界人権宣言、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際連合宣言」及びあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の「目的及び原則を普及させること」。


4.一般的勧告4(1973年、第8会期)
人種差別撤廃委員会は、
その第7会期及び第8会期において、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」第9条に基づいて締約国が提出した報告書を検討し、
締約国が委員会に送付する報告書が可能な限り多くの情報を含んでいる必要があることに留意し、
締約国に対して、条約第1条の諸規定が言及する住民の人口構成に関する関連情報を第9条に基づく自国報告書の中に含める努力を行うよう求める。


3.一般的勧告3(1972年、第6会期)
委員会は、南部アフリカの人種主義的諸政権との関係に関する国際連合の諸機関の決議を実施するためにとった措置についての情報を含んだ、締約国からのいくらかの報告害を検討した。
委員会は、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」の前文第10項において締約国が、特に「いかなる形態の人種隔離及び人種差別もない国際社会を建設する」ことを「決意し」たことに注目する。また、条約第3条において「締約国は、特に、人種隔離及びアパルトヘイトを非難し」ていることをも注目する。
さらに、委員会は、総会が、決議2784(XXVI)の第3セクションにおいて、委員会の第2回年次報告書を感謝の意と共に留意しかつ委員会が提出した一定の意見及び勧告を是認した直後に、「南アフリカのすべての貿易相手国に対して、南アフリカ及び南ローデシアの違法政権による、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の原則及び目的の継続的な侵害を奨励することになるいかなる行動をも慣むよう」要請したことに注目する。
委員会は、条約の規定を実施するために国内レベルでとった措置と、条約の諸原則のあらゆる場所における尊重を奨励するために国際レベルでとった措置とは相互に関連しているという見解を表明する。
委員会は、締約国が、その選択により条約第9条第1項に基づいて提出する報告書の中に 南部アフリカの人種主義的諸政権との外交的、経済的及びその他の関係の現状に関する情報を含めることを歓迎する。


2.一般的勧告2(1972年、第5会期)
委員会は、自国領域内に人種差別が存在しない締約国は1970年1月28日の委員会の通報(CERD/C/R.12)の中で言及した情報を提供する必要がないとする信念を明示的に又は黙示的に表明した、いくつかの締約国の報告書を検討した。
しかしながら、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」第9条第1項に従い、すべての締約国は、条約の規定を実施するためにとった措置に関する報告書を提出することを約束しており、かつ、1970年1月28日の委員会の通報の中で列挙したすべての種類の情報は、条約に基づいて締約国が引き受けた義務に言及するものであるから、上記通報は、各締約国の領域内に人種差別が存在しているか否かによる区別なく、すべての締約国に宛てられたものである。委員会は、報告書の中に委員会の上記通報で述べられたすべての見出し項目に従った必要な情報を含めていないすべて締約国が、これを含めることを歓迎する。


1.一般的勧告I(1972年、第5会期)
委員会第5会期における「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」第9条に従い締約国が提出した報告書の検討に基づき、委員会は、多数の締約国の立法が条約第4条(a)及び(b)が意図する規定を含んでいないと認定する。条約上、条約第4条(a)及び(b)の実施は、(世界人権宣言に具現された原則及び次条[第5条]に明示的に定める権利に十分な考慮を払って)すべての締約国にとって義務的である。
従って、委員会は、自国の立法がこの点で不十分である締約国が、自国の国内立法手続に従い条約第4条(a)及び(b)の義務に一致する規定を自国の立法に追加するという問題を考慮するべきことを勧告する。