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刑事司法制度の運営および機能における人種差別の防止に関する一般的勧告31(2005 年、第 67 会期)

人種差別撤廃委員会は、
あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約第1条に掲げられた人種差別の定義を
想起し、
条約第5条 ( の規定に基づき、締約国が、とくに裁判所その他のすべての裁判および審判を行なう機関の前での平等な取り扱いについての権利の享有において、人種、皮膚の色または民族的もしくは種族的出身による差別なしにすべての者が法律の前に平等であるという権利を 保障する義務を有していることを想起し、
条約第6条が、締約国に、自国の管轄のもとにあるすべての者に対し、権限のある自国の裁判所およびほかの国家機関を通じて、この条約に反して人権および基本的自由を侵害するあらゆる人種差別の行為に対する効果的な保護および救済措置を確保し、ならびにその差別の結果として被ったあらゆる損害に対し、公正かつ十分な賠償または救済を当該裁判所に求める権利を確保するよう求めていることを想起し、
人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容に反対する世界会議(南アフリカ・ダーバン、 2001 年)で採択された宣言の 25 項において、「刑事制度の機能および法律の適用ならびに法執行を担当する諸機関および個人の行為および態度において一部の国で根強く残っている人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容に対し、とくにこれによって一部の集団が人口比に照らして過剰に拘禁または収監されている状況が助長
されている場合について、深甚なる拒絶の意」が表明されていることを参照し、
刑事司法制度における差別についての人権委員会ならびに人権の促進および保護に関する小委員会の活動( E/CN.4/Sub.2/ 2005/7 参照)を参照し、現代的形態の人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容に関する特別報告者の諸報告に留意し、1951 年の難民の地位に関する条約、とくに「難民は、すべての締約国の領域において、自由に裁判を受ける権利を有する」と定めた第 16 条を参照し、
締約国が提出した報告書に関する委員会の所見、ならびに、ロマに対する差別に関する一般的勧告 27 2000 年)、世系に基づく差別に関する一般的勧告 29 2002 年)および市民でない者に対する差別に関する一般的勧告 30 2004 年)で表明 された司法制度の機能に関する見解に留意し、
たとえ司法制度は公平であり、人種主義、人種差別および外国人排斥の影響を受けることはないと見なされている可能性があるとしても、刑事司法制度の運営および機能において人種差別または民族差別が存在する場合、それは、司法がそもそもの役割として保護しなければならない集団に属する人びとに直接の影響を及ぼすことを通じ、法の支配、法の前の平等の原則、公正な裁判の原則および独立のかつ公平な裁判所に対する権利をとりわけ深刻に侵害するものであることを確信し、
適用される法または設けら れている司法制度の態様(弾劾主義、糾問主義または混合主義のいずれがとられているか)にかかわらず、いかなる国も刑事司法制度の運営および機能における人種差別から自由ではないことを考慮し、移民および人口移動の増加によって住民の一部の層および一部の法執行官のあいだで偏見および外国人排斥の感情が喚起されたこと、および、多くの国でとられた安全保障政策およびテロリズム対抗措置により、とりわけ反アラブ人感情もしくは反イスラム教徒感情または反動としての反ユダヤ人感情の台頭が多くの国で刺激されたことを部分的要因として、近年 、刑事司法制度の運営および機能における差別の危険が高まってきたことを考慮し、
人種的または民族的集団に属する人びと、とくに市民でない者(移民、難民、庇護希望者および無国籍者を含む)、ロマ/ジプシー、先住民族、避難民、世系を理由に差別されている者、および、排除、周縁化および社会における非統合にとりわけさらされている脆弱な立場に置かれたその他の集団が世界のすべての国で被害を受けている可能性のある、刑事司法制度の運営および機能におけるあらゆる形態の差別との闘いを、人種および性別または年齢を理由として複合差別を受 けやすい、前述の集団に属する女性および子どもの状況に特段の注意を払いながら進めていくことを決意し、締約国を対象とする以下の勧告をとりまとめる。

I.一般的措置

A.刑事司法制度の運営および機能における人種差別の存在および程度の判定を向上させるためにとるべき措置/このような差別を立証する指標の探求

1.事実的指標
1.締約国は、人種差別の存在を示している可能性がある以下の指標に最大の注意を払うべきである。
(a) 暴行その他の犯罪の被害者に占める、前文最終段落で言及した集団に属する者の人数および割合(とくに当 該犯罪を行なったのが警察官その他の国の職員である場合)。
(b) 国内で行なわれた人種差別行為にかかわる苦情、訴追および有罪判決が存在しないか、または少数であること。一部の国の考え方に反し、このような統計は必ずしも前向きなものと見なすべきではない。それは、被害者が自分の権利について不十分な情報しか有していないこと、被害者が社会的非難もしくは報復を恐れていること、限られた資源しか持たない被害者が司法手続の費用および複雑さに恐れをなしていること、警察および司法機関が信頼されていないこと、または人種主義関連の犯罪に対する公的機関の警戒
感もしくは意識が不十分であることの表われである可能性もある。
(c) 前文最終段落で言及した集団に属する者との関係における法執行官の行動について情報が不十分にしかまたはまったく存在しないこと。
(d) とくに軽微な路上犯罪ならびに薬物および売買春に関する犯罪とのかかわりで、これらの集団に属する者によるとされる犯罪の率が人口比に照らして不相応に高いこと。これは、このような者が排除され、または社会に統合されていないことの指標である。
(e) 収監または予防拘禁(抑留所、行刑施設、精神医学施設または空港の一時収容区域におけるものを含む)の対象とされている者に占める、これらの集団に属する者の人数および割合。
(f) これらの集団に属する者を対象とする、裁判所によるいっそう厳格な刑または不適切な刑の言い渡し。
(g) 警察、司法制度(裁判官および陪審員を含む)その他の法執行部局の職階においてこれらの集団に属する者が不十分にしか代表されていないこと。
2.これらの事実的指標が周知および活用されるようにするため、締約国は、守秘義務、匿名性および個人データの保護に関する基準を尊重しながら、警察、司法機関、行刑機関および出入国管理機関から定期的に情報を 収集し公開することに着手するべきである。
3.締約国はとくに、人種主義および外国人排斥の行為にかかわる苦情、訴追および有罪判決、ならびに、そのような行為の被害者に対して行なわれた補償(当該保障が犯罪の加害者によって支払われたか、公的資金による国の補償計画に基づいて支払われたかは問わない)に関する包括的な統計的その他の情報にアクセスできるべきである。

2.立法上の指標
4.以下のような状況は、人種差別の原因となっている要因の指標と見なされるべきである。
(a) 人種差別に関する国内法にいずれかの欠陥が存在すること。 これとの関連で、締約国は、条約第4条の要件に全面的に従い、同条に定められたすべての人種主義行為(とくに、人種的優越もしくは憎悪に基づく思想の流布、人種的憎悪の扇動、暴力もしくは人種的暴力の扇動ならびに人種主義的宣伝活動および人種主義団体への参加)を犯罪とするべきである。
(b) 一部の国内法、とくにテロリズム、出入国管理、国籍および市民でない者の入国拒否または退去強制に関する法律、ならびに、一部の集団または一定のコミュニティの構成員を合理的な理由なく実質的に処罰する法律が、実質的な間接差別につながる可能性があること 。国は、このような法律の差別的効果を解消し、かつ、いかなる場合においても、前文最終段落で言及した集団に属する者にこれらの法律を適用するにあたり、比例性の原則を尊重するよう努めるべきである。


B.刑事司法制度の運営および機能における人種差別を防止するために策定されるべき戦略
5.国は、以下のものを含む目的を有した国家的戦略を追求するべきである。
(a) 人種差別的効果を有する法律、とくに、一部の集団に属する者しか行ない得ない行為を処罰することによって間接的に当該集団を標的としている法律、または、合理的な理由なく市民でない者にしか適用されない法律もしくは比例性の原則を尊重しない法律を解消すること。
(b) 警察官ならびに司法制度、刑務所、精神医学施設、社会サービスおよび医療サービスで働く職員等の法執行官を対象として、適切な教育プログラムを通じ、人権、寛容および人種的または民族的集団間の友情に関する研修ならびに異文化間関係に対する感受性強化を発展させること。
(c) 偏見と闘いかつ信頼関係をつくり出すため、警察および司法機関と、前文最終段落で言及したさまざまな集団の代表者との対話および協力を醸成すること。
(d) 人種的および民族的集団に属する者が警察および司法制度において適切に代表されることを促進すること。
(e) 国際人権法に従い、先住民族の伝統的司法制度が尊重および認知されることを確保すること。
(f) 前文最終段落で言及した集団に属する受刑者を対象とした収監体制に必要な変更を加え、このような受刑者の文化的および宗教的慣習が考慮されるようにすること。
(g) 大規模な住民移動が生じている状況においては、避難民が置かれているとくに脆弱な状況を考慮に入れる目的で、とくに避難民が滞在している場所に裁判所を分散して設置することまたは移動裁判所を組織することにより、司法制度 の運用のために必要な暫定的措置および体制整備を導入すること。
(h) 紛争後の状況においては、とくに関連の国連機関が提供する国際的技術援助を利用することにより、当該国の領域全体で法制度を再建しかつ法の支配を再確立するための計画を策定すること。
(i) 構造的人種差別の撤廃を目的とした国家的戦略または行動計画を実施すること。このような長期的戦略には、具体的な目標および行動ならびに進展を測定するための指標が含まれるべきである。このような戦略には、とりわけ、人種主義的または外国人排斥的事件の防止、記録、調査および訴追、警察および 司法制度との関係に関するあらゆるコミュニティの満足度の評価、ならびに、司法制度におけるさまざまな人種的または民族的集団に属する者の採用および昇進に関する指針を含めることが求められる。
(j) 独立の国家機関に対し、人種差別に対抗するための国家行動計画および指針に基づいて達成された進展を追跡、監視および測定し、気づかれていない人種差別の表われを特定し、かつ改善のための勧告および提言を行なう任務を委ねること。

II.人種主義の被害者との関連で人種差別を防止するためにとるべき措置

A.法律および司法へのアクセス
6. 条約第6条に従い、締約国は、自国の管轄のもとにあるすべての者に対し、いかなる種類の差別もなく、人種差別行為の加害者(当該行為を行なった者が私人であるか国の職員であるかは問わない)を相手どった効果的な救済措置を求める権利、および、被った損害に対する公正かつ十分な賠償を求める権利を保障する義務を有する。
7.人種主義の被害者による司法へのアクセスを容易にするため、締約国は、自己の権利について知らないことが多い、最も被害を受けやすい立場に置かれた社会的集団に属する者に対し、必要な法的情報を提供するよう尽力するべき である。
8.これとの関連で、締約国は、そのような者が住んでいる地域において、無償の法的援助・助言センター、法律情報センターおよび仲裁・調停センターのような機関が運営されることを促進するべきである。
9.締約国はまた、法律家団体、大学機関、法的助言センター、ならびに、周縁化されたコミュニティの権利の保護および差別の防止を専門とする非政府組織との協力も拡大するべきである。

B.苦情受理の権限を有する公的機関への事件の報告
10.締約国は、前文最終段落で言及した集団に属する者からの苦情が迅速に受理されるよう、 そのような者が居住する区域、地方、集団施設、キャンプまたはセンターにおいて、警察が十分にかつアクセスしやすい形で存在することを確保するために必要な措置をとるべきである。
11.苦情がただちに記録され、調査が遅滞なくならびに効果的な、独立したかつ公正なやり方で行なわれ、かつ、人種主義的または外国人排斥的事件に関する書類が保存されかつデータベースに編入されるよう、権限のある機関に対し、警察署において人種主義行為の被害者を満足のいくやり方で迎えるよう指示が行なわれるべきである。
12.人種主義行為にかかわる苦情を 警察官が受理しなかったときは常に懲戒または刑事的制裁の対象とされるべきであり、汚職がかかわっているときはいっそう厳しい制裁が加えられるべきである。
13.その逆に、人権侵害、とくに人種差別に基づく人権侵害を行なうよう要求する命令または指示に従うことを拒否することは、すべての警察官または国の被用者の権利および義務であるべきである。締約国は、処罰を恐れることなくこの権利を援用するすべての職員の自由を保障するべきである。
14.拷問、不当な取り扱いまたは処刑の疑いがあるときは、「超法規的、恣意的および即決処刑の効 果的防止および調査に関する原則」 iならびに「拷問その他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取り扱いまたは処罰の効果的調査および記録に関する原則」 iiに従って調査が行なわれるべきである。

C.司法手続の開始
15.締約国は、検察官および検察機関の構成員に対し、人種主義的行為(人種主義的動機によって行なわれた軽微な犯罪を含む)を訴追することの一般的重要性を想起するよう求めるべきである。人種主義的動機に基づくいかなる犯罪も、社会的結合および社会全体を損なうからである。
16.締約国は、手続の開始前に、被害者の 権利を尊重する目的で、紛争解決のための準司法的手続(人権と両立する慣習的手続、調停または仲裁を含む)を活用することを奨励することもできる。これらの手続は人種主義行為の被害者にとって有益な選択肢となる可能性があり、かつスティグマもそれほどともなわない場合がある。
17.人種主義行為の被害者が裁判所に提訴することをいっそう容易にするため、とられる措置には以下のものが含まれるべきである。
(a) 人種主義および外国人排斥の被害者ならびにそのような被害者の権利保護団体に対し、刑事手続(または刑事手続において自己の権利を主張 することを可能にするような他の類似の手続)に何らの費用負担なく参加する機会のような、手続上の地位を与えること。
(b) 被害者に対し、効果的な司法協力および法律扶助(弁護人および通訳者による無償の援助を含む)を提供すること。
(c) 被害者が手続の進展に関する情報を得ることを確保すること。
(d) 被害者または被害者の家族に対し、あらゆる形態の脅迫または報復からの保護を保証すること。
(e) 苦情申立ての対象となっている国の関係者を、調査が行なわれている期間中、職務停止にできるようにすること。
18.被害者を対象とする援助および補償の計画 が設けられている国においては、締約国は、これらの計画を、差別なく、かつ被害者の国籍または在留資格にかかわらず、すべての被害者が利用できることを確保するべきである。

D.司法制度の機能
19.締約国は、司法制度が以下のように機能することを確保するべきである。
(a) 苦情の申立人が、審理手続および裁判所における聴聞中に裁判官から意見を聴かれ、情報にアクセスし、相手方証人と対決し、証拠に異議を申立て、かつ手続の進展について情報を得られるようにすることにより、手続全体を通じ、被害者およびその家族ならびに証人に適切な立場 を認めること。
(b) とくに聴聞、尋問または対決が人種主義にかかわる限度において必要な配慮をもって行なわれることを確保することを通じ、人種差別の被害者を、その尊厳を尊重しつつ、差別または偏見なく処遇すること。
(c) 被害者に対し、裁判所の判決が合理的期間内に言い渡されることを保障すること。
(d) 被害者に対し、人種差別の結果として被った物質的および精神的損害に対する公正かつ十分な賠償を保障すること。

III.司法手続の対象とされている被告発者との関連で人種差別を防止するためにとるべき措置

A.職務質問、尋問および逮捕
20.締約国は、実際にはある者の身体的外見、皮膚の色、またはその者がいずれかの人種的または民族的集団の特徴を有していることもしくはその構成員であること、またはその者をいっそう疑わしく思わせるようないずれかの犯罪者像分析に基づいて行なわれる職務質問、逮捕および検査を防止するために必要な措置をとるべきである。
21
.締約国は、前文最終段落で言及した集団に属する者に影響を及ぼす暴力、拷問行為、残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取り扱いおよびあらゆる人権侵害であって、国の職員、とくに警察および軍の関係者、税関当局、 ならびに、空港、行刑施設および社会・医療・精神医学サービス機関で働く者によって行なわれるものを防止し、かつ最も厳しく処罰するべきである。
22.締約国は、「法執行官による有形力および火器の使用に関する基本原則」 iiiに従い、前文最終段落で言及した集団に属する者に対する有形力の行使に際して比例性および厳格な必要性の一般原則が遵守されることを確保するべきである。
23.締約国はまた、逮捕されたすべての者に対し、その者がどの人種的、国民的または民族的集団に属しているかにかかわりなく、関連の国際人権文書(とくに世界人権宣言ならびに市民的および政治的権利に関する国際規約)に掲げられた基本的防御権、とくに、恣意的に逮捕されまたは拘禁されない権利、逮捕の理由を告げられる権利、通訳の援助を受ける権利、弁護人の援助を受ける権利、裁判官(または司法職務を遂行する権限を法律によって与
えられている他の公的機関)の面前に速やかに連れて行かれる権利、領事関係に関するウィーン条約第 36 条で保障されている領事保護を受ける権利、および、難民の場合には国連難民高等弁務官事務所に連絡する権利を保障するべきである。
24.行政収容所または空港の一時収容 区域に収容されている者に関しては、締約国は、被収容者が十分に人間らしい生活条件を享受できることを確保するべきである。
25.最後に、前文最終段落で言及した集団に属する者を対象とする職務質問または逮捕に関して、締約国は、女性および未成年者に対応する際、これらの者がとくに被害を受けやすい立場に置かれているがゆえに特別な配慮を行なわなければならないことに留意するべきである。

B.未決拘禁
26.締約国は、裁判までの期間中収容されている者に、市民でない者および前文最終段落で言及した集団に属する者が過剰に多く含まれ ていることを示す統計に留意し、以下のことを確保するべきである。
(a) いずれかの人種的もしくは民族的集団または前述の集団の一つに属しているという事実のみで、ある者を未決拘禁の対象とする法律上または事実上の十分な理由があると判断されないこと。このような未決拘禁を正当化できるのは、逃亡のおそれ、証拠隠滅もしくは証人への影響力行使のおそれ、または深刻な公序紊乱のおそれのような、法律に定められた客観的理由に基づく場合のみである。
(b) 裁判前に釈放を認められるために保証金または担保金を寄託しなければならないという要件がこのよう な集団に属する者に対する差別につながることを防止するため、当該要件が、経済的に窮乏していることの多いこれらの者の状況にふさわしい方法で適用されること。
(c) 裁判まで身柄を拘束されないままでいるための条件として被告発者に対して求められることの多い保証(定められた住所、申告された雇用、安定した家族的つながり)が、とくに女性および未成年者の場合において、このような集団の構成員であることから生じている可能性がある不安定な状況に照らして衡量されること。
(d) このような集団に属する者であって裁判までの期間中収容されている者が、 関連の国際的規範に基づいて被拘禁者に認められているすべての権利およびとくにこのような者の状況に合わせて特別に修正された権利(宗教、文化および食事に関して自己の伝統を尊重される権利、家族との関係を維持する権利、通訳の援助を受ける権利、および、適切な場合には領事機関による援助を受ける権利)を享受できること。

C.裁判および判決
27.締約国は、適切な場合には、とくに先住民族に属する者の事案において、加害者の文化的または慣習的背景を考慮に入れ、裁判の前に、犯罪に対応するための非司法的または準司法的手続を優先させることができる。
28.締約国は、全般的に、前文最終段落で言及した集団に属する者が、他のあらゆる者と同様に、公正な裁判および法律の前の平等にかかわるあらゆる保障を、関連の国際人権文書に掲げられているとおりにかつ具体的に享受できることを確保しなければならない。

1.無罪推定に対する権利
29.この権利は、警察当局、司法当局その他の公的機関が、裁判所が決定に達する前に被告発者の有罪にかかわる見解を公的に表明すること、ましてやあらかじめ特定の人種的または民族的集団の構成員を疑うことは禁じられなければなければならないことを含意する。これらの機関には、マスメディアが、一定のカテゴリーの人びと、とくに前文最終段落で言及した集団に属する人びとへのスティグマにつながる可能性がある情報を流布しないことを
確保する義務がある。
2.弁護人の援助に対する権利および通訳に対する権利
30.これらの権利を効果的に保障するということは、締約国は、前文最終段落で言及した集団に属する者を対象とする法的援助または助言および通訳のサービスとあわせ、弁護人および通訳者が無償で選任される制度を設置しなければならないということである。
3.独立のかつ公平な裁判所に対する権利
31.締約国は、裁判官、陪審員その他の司法職員の側にいかなる人種的または外国人排斥的偏見も存在しないことを確保するため、断固たる努力を行なうべきである。
32.締約国は、一定の集団に差別的効果を及ぼす可能性がある、司法制度の機能および裁判官の決定に対する圧力団体、思想、宗教および教会のあらゆる直接的影響を防止するべきである。
33.これとの関連で、締約国は、 2002 年に採択された「裁判官の行為に関するバンガロール原則」( E/CN.4/2003/65, annex )を考慮に入れること ができる。同原則は、とくに以下のことを勧告している。
- 裁判官は、社会の多様性および背景、とくに人種的出自と関連した差異を認識しているべきである。
- 裁判官は、言葉または行動により、個人または集団に対し、人種的その他の出自を理由とするいかなる偏見も表明するべきではない。
- 裁判官は、正当化されない差異化を図ることなく、当事者、証人、弁護士、裁判所職員およびその同僚のようなあらゆる者に対して適切な配慮をしながら職務を遂行するべきである。
- 裁判官は、その指揮下にある者または弁護士が、いずれかの者または集団に対し、その皮膚の色、人種的、国民的、宗教的もしくは性的出自またはその他の無関係な理由に基づいて偏見を表明しまたは差別的行動をとることに反対するべきである。

D.公正な処罰の保障
34.これとの関連で、国は、裁判所が、被告発者が特定の人種的または民族的集団の構成員というだけでより厳しい処罰を適用しないことを確保するべきである。
35.これとの関連で、一定の犯罪に適用される最低刑および義務的収監の制度ならびに死刑が廃止されていない国においては死刑に対し、特別な注意が払われるべきである。その際、このような刑罰は特定の人種 的または民族的集団に属する者に対していっそう頻繁に科され、かつ執行されているという報告があることに留意することが求められる。
36.先住民族に属する者については、締約国は、とくに独立国における先住民および種族民に関する国際労働機関第 169 号条約に留意しながら、収監に代わる手段、および先住民族の法体系によりよく適合するその他の形態の処罰を優先させるべきである。
37.退去強制、追放または当該国への入国禁止など、普通法に基づく処罰に付加する形で市民でない者のみを対象として設けられている処罰は、法律に定められた、 公の秩序にかかわる重大な理由がある場合に、例外的状況下でかつ比例性を維持するやり方でのみ科されるべきであり、かつ、関係者の私的な家族生活を尊重する必要性および対象者が受ける資格のある国際的保護が考慮に入れられるべきである。

E.刑の執行
38.前文最終段落で言及した集団に属する者が収監刑に服しているときは、締約国は以下の対応をとるべきである。
(a) 当該受刑者に対し、関連の国際規範に基づいて受刑者が認められているすべての権利、とくにその状況に合わせて特別に修正された権利(宗教的および文化的慣習を尊重される権利、 食事に関する慣習を尊重される権利、家族との関係を維持する権利、通訳の援助を受ける権利、基礎的な福祉手当を受給する権利、および、適切な場合には領事機関による援助を受ける権利)の享受を保障すること。受刑者に提供される医療サービス、心理サービスおよび社会サービスは、その文化的背景を考慮に入れたものであるべきで
ある。
(b) 権利を侵害されたすべての受刑者に対し、独立のかつ公平な公的機関の前で効果的救済を求める権利を保障すること。
(c) これとの関連で、この分野における国連規範、ならびにとくに「被拘禁者の処遇に関する最低基準規則 」 iv、「被拘禁者の処遇に関する基本原則」 vおよび「あらゆる形態の拘禁または収監のもとにあるすべての者の保護に関する諸原則」 viを遵守すること。
(d) 当該受刑者に対し、適切な場合には、外国人受刑者の移送に関する国内法および国際条約または二国間条約の規定から利益を受けることを認め、出身国で収監刑に服する機会を与えること。
39.さらに、行刑施設の監督を担当する締約国の独立機関には、人種差別の分野における専門性、および、人種的および民族的集団ならびに前文最終段落で言及したその他の脆弱な立場に置かれた集団の問題についての 確固たる知識を有する者が含まれるべきである。必要なときは、そのような監督機関は訪問および苦情申立てに関する効果的機構を備えるべきである。
40.市民でない者が退去強制、追放または自国の領域への入国拒否を言い渡されたときは、締約国は、難民および人権に関する国際規範から派生するノン・ルフールマン〔送還禁止〕の義務を全面的に遵守し、かつ、そのような者が重大な人権侵害を受けるおそれのある国または領域に送還されないことを確保するべきである。
41.最後に、前文最終段落で言及した集団に属する女性および子どもに関して、締約国は、一部のコミュニティ、とくに先住民族コミュニティに属する家族の母親および女性が直面する特段の困難に留意しながら、そのような女性および子どもが刑の執行に関して対象とされる資格のある特別体制から利益を得られることを確保する目的で、最大限可能な注意を払うべきである。