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人種差別撤廃委員会116会期終わる

2025.12.11
写真:閉会の挨拶をするミハウ・バルチェザック委員長。委員長として最後の会期であろうと語った。
(写真:閉会挨拶をするミハウ・バルチェザック委員長。委員長として最後の会期であろうと語った。
©️UN Web TV)

11月17日から始まった人種差別撤廃委員会(CERD)116会期は、12月5日に終了しました。今会期について、国連が発表した報告をもとに、以下、概要を報告します。

◼️ 今会期では、モルディブ、グアテマラ、スウェーデン、ブルンジ、ニュージーランド、チュニジアの政府報告書が審査され、最終日にその総括所見が採択されました。その内容は本記事の後半に記載しています。
◼️ 日本とパナマの事前リストオブイッシュが採択されました。
◼️ ボリビア、メキシコ、モルドバ、サンマリノ、ベトナムのフォローアップ報告書が審査されました。
◼️早期警戒・緊急行動手続きのもと、チャゴスの人びとの人権状況に関するモーリシャスとイギリスに対しての決定とスーダンの人権状況に関する決定を採択しました。
◼️ 人種差別撤廃条約の国連採択60周年を記念したハイレベルイベントが開催されました。概要はこちらから。
◼️ 移住労働者権利委員会と共同で進めている、移民および移民とみなされる人びとに対するゼノフォビア/外国人嫌悪の根絶に関する共同一般的勧告38号と39号が採択されました。(先行未編集版 38号39号
◼️ 大西洋奴隷貿易による歴史的不正義への賠償に関する 一般的勧告の草案 に関する議論が行われました。
◼️ 2025年は人種差別撤廃条約採択60周年の年であり、人種差別撤廃委員会は通年のキャンペーンを行っています。
◼️ 次回の会期日程は、4月13日から5月1日を予定していますが、確定ではありません。

116会期で採択された総括所見の概要

モルディブ
 委員会は、すべての国民にイスラム教徒となることを求め、非イスラム教徒に市民権や公務就任権を認めないとする差別的な憲法規定が未だ改正されていないことに遺憾の意を表した。こうした規定は、締約国に住む異なる国籍や民族性を持つ人びとの国籍に関する権利や思想・良心・宗教の自由に不均衡に影響しており、とりわけ人口の25.7%が外国出身者であることを鑑みると影響は大きいと指摘した。締約国に対し、市民権や国籍取得へのアクセス、宗教の自由の権利を差別なく保障することに加え、差別的な憲法の規定を条約に沿う形で改正することを検討するよう求めた。
 委員会は、移住者に対する差別を撤廃する取り組みを認める一方、市民でない者、特に移住労働者が雇用、文化、宗教の脅威として表されるなど、外国人嫌悪の風潮があるとの報告に懸念を表し、市民でない者に対する負のステレオタイプと闘うための方策を開発、実施するよう勧告した。

グアテマラ
 委員会は、先住民族の権利に影響を及ぼす立法や行政およびその他の措置に関して、自由で事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)を保障する十分なメカニズムが不足していることに懸念を示した。また、インフラ事業や鉱業、パーム油、コーヒー、砂糖の生産を含む採掘および農産業活動が、マヤ、シンカ、ガリフナ、アフリカ系の人びとの土地、資源、伝統的な生活様式に対する権利に負の影響を及ぼしていることに懸念し、先住民族と協議をしながら、実効的な措置を策定、採用するよう求めた。そして、このような事業から発生する負の影響や汚染を防ぎ、緩和するための特別措置をとるよう勧告した。
 委員会は、先祖伝来の土地への所有権が法的に認められておらず、先住民族の強制退去が継続していること、法執行官による武力行使、民間警備会社、武装集団、土地所有者を含むその他の非国家アクターによる暴力の使用に関する申し立てに懸念を示した。また、不法侵入罪をのもと、伝統的な土地で暮らす先住民族が有罪判決を受けたり拘束されたりしていることに警鐘を鳴らした。締約国に対し、先住民族の権利、慣習、伝統、文化を十分に尊重し、強制的な立ち退きから先住民族を保護する実効的な措置を取ることを求めた。

スウェーデン
 委員会は、最近の警察法改正により、警察が「セキュリティゾーン」を指定し、明確な疑いなしに子どもを含み職務質問ができるようになったことに懸念を示した。また、アフリカ系、アジア系、中東系の人びとを標的としたレイシャルプロファイリングの報告にも懸念を示した。締約国に対し、差別法を含む法執行の法的枠組みを改正し、レイシャルプロファイリングを明確に禁止するとともに、職務質問が、厳格な監視と見直しの仕組みのもと、合理的な疑いに基づき、合法的で恣意的かつ差別なく行われるようにするよう勧告した。
 委員会は、2021年に先住民族サーミに対する歴史的で継続的な差別を調査し和解を促進するために設置された真実和解委員会を歓迎する一方、2024年末に辞任した3人の委員の後任が、サーミ議会1 が候補者を指名したにもかかわらず、依然として空席であることに懸念を示した。締約国に対し、サーミ議会と協議の上で、真実和解委員会がその任務を効果的に遂行できるよう、十分な人的・財政的資源の確保し、支援を強化することを求めた。

ブルンジ
 委員会は、バトワ族が依然として先住民族として法的に承認されていないことをはじめ、高い貧困率や非識字率、質の良い医療への限られたアクセス、脅かされる土地所有の権利などの不平等、差別、スティグマに直面していることに懸念を示し、締約国に対し、バトワ族を先住民族として認め、関連するこれら権利を保護する立法枠組みを改正することを求めた。さらに自由で事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)を保障するための協議メカニズムを設立するよう求めた。
 委員会は、国内法に条約第1条に沿った人種差別の定義が不足していることに懸念を示し、そうした欠如が人権保護に空白を作っていることを想起した。委員会は、締約国に対し、直接的、間接的、複合的、交差的形態を含む人種差別の明確な定義を採用し、公的および私的領域のあらゆる分野を網羅し、人種、皮膚の色、世系、種族的・民族的出身を含むすべての差別事由を対象とする包括的反差別法を採択するよう求めた。

ニュージーランド
 委員会は、2019年にクライストチャーチで起きた2つのモスクに対するテロ攻撃について深刻な懸念を表明し、王立調査委員会の勧告の実施が限定的な進展に留まっていることを遺憾とした。
 委員会は、特に政治家や公人による人種主義的なヘイトスピーチが根強く残っていることに懸念を示した。また、マオリ、太平洋諸島の人びと、その他の民族的・宗教的コミュニティに対する人種を理由とした攻撃が、継続的に報告されていることにも懸念を示した。締約国に対し、オンライン、オフラインを問わず、あらゆる形態のヘイトスピーチを非難し、実効的な捜査、起訴を確保し、寛容と社会的結束を促進するための教育・啓発を拡充することを求めた。
 委員会は、ワイタンギ条約(1840年締結)が長年、王室とマオリ族の関係を規定する基礎的枠組みとして認識されてきたにもかかわらず、同条約を再解釈する最近の取り組みが、マオリ族の自由で事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)や実質的な関与なしに進められており、これにより条約の原則が弱体化し、和解が損なわれ、歴史的・制度的な差別が固定化され、マオリ族の慣習的権利が制限され、自己決定権が弱まるリスクがあると指摘した。そして、ワイタンギ条約へのコミットメントを堅持し、枠組みの見直しが、マオリとの完全な協議のもと、自由で事前の十分な情報に基づく同意に沿って実施されることを確保するよう求めた。

チュニジア
 委員会は、黒人のチュニジア人や市民でない者を含む、民族的マイノリティの権利を促進し保護する国内および国外の人権団体が活動停止を余儀なくされていることに懸念を示した。人権擁護家、市民社会組織のメンバー、活動家、法律家、ジャーナリストに対する脅迫、監視、ハラスメント、報復、恣意的逮捕が広がっている。締約国に対し、人権活動が自由に行える環境を確保するため、法的枠組みの見直しを含む実効的な措置を取るよう求めた。また、人権擁護家および団体に対する脅迫や報復のすべての報告に対し、徹底的かつ公正な調査の実施を求めた。
 委員会は特に、一万千人以上のサハラ以南のアフリカの国々からの移住者や庇護希望者たちが、生命の危険にさらされながらアルジェリアとリビアの国境に集団的に追放され、その結果死傷者が出ているという報告に深刻な懸念を示した。締約国に対し、問題の差別的な性質を認め、人種差別やヘイトスピーチの根本原因に対処し、サハラ以南のアフリカの国々からの非正規の移住者の権利を保護し、集団的追放を差し控え、ノン・ルフールマン原則を遵守するとともに、そうした行為について調査を行うよう求めた。


  1. 北欧(ノルウェー、スウェーデン、フィンランド)に住む先住民族サーミの言語・文化・社会生活を守り発展させるため、各国の政府が設置した代表機関 ↩︎