人種差別撤廃委員会(CERD)は2024年8月5日から23日まで113会期を開催し、ベラルーシ、ボスニア・ヘルツェコビナ、イラン、イラク、パキスタン、イギリス、ベネズエラの審査を行い、これらの国に対する総括所見を採択した。委員会はまた、同会期中に人種差別と健康への権利の享有に関する一般的勧告37を採択した。
さらに同会期中、委員会は移住労働者権利委員会と共同で作成している、「移民に対する外国人嫌悪と人種差別に取り組むべき国家の義務と、それらが移民に及ぼす影響に関する共同一般的勧告」の作成に向け対話を行った。また、次の段階として、2024年9月、10月、11月に国際および地域レベルで協議を行う予定である。
閉会式において、委員会報告者の鄭鎮星委員は、 2024年6月29日、早期警戒・緊急措置手続きの下、ミャンマーからインドに逃れたロヒンギャの状況に関する声明を採択したこと、そして、この手続きの下で評価された両国に対して委員会の署名付きで書簡を出したことを報告した。鄭委員はまた、パレスチナがイスラエルに対して提出した国家間通報に関するアドホック調停委員会が、2024年2月19日、認定と勧告を含む報告書を正式に採択したことに言及した。
【各国の総括所見サマリー】
ベラルーシ
8月15日および16日に建設的対話が行われた。委員会は総括所見のなかで、過剰な武力行使、恣意的な拘束、庇護手続きへのアクセスにおける諸問題などの報告を引用し、移民、庇護希望者、難民が欧州連合とベラルーシの国境で生命の危機に脅かされていることへの懸念を強調した。委員会は締約国に対し、国境における人々の生命と安全を確保し、過剰な武力行使を予防し、法執行官と国境警備隊に人権研修を行うための措置を直ちにとるよう求めた。
庇護希望者、難民、移民を含む市民でない者の状況以外に、委員会がベラルーシに出した勧告は以下の通り:
ボスニア・ヘルツェゴビナ
8月12日および13日に建設的対話が行われた。委員会は総括所見のなかで、条約に基づく権利の完全な享有を妨げているロマに対する根強い差別と疎外について、特に劣悪な生活環境、公共サービスや正規雇用へのアクセスの制限、ロマの女性の保険医療へのアクセス、ロマの子どもたちの低い就学率や通学率に懸念を示し、ロマに対する制度的差別に取り組む努力を強化するよう促した。委員会はまた、ロマとの真摯な協議、雇用と職業訓練へのアクセスの確保、職場差別への対処、ロマの子どもたちの就学と通学の増加によって、ロマの住居と生活条件を改善することを求めた。さらに、ロマの女性と女児に対し、利用しやすくて生活習慣に適した医療サービスの提供も求めた。
ロマに関する勧告のほか、委員会がボスニア・ヘルツェゴビナに出した勧告は以下の通り:
イラン
8月7日と8日に建設的対話が行われた。委員会は総括所見のなかで、刑事司法制度に民族的あるいは民族・宗教的マイノリティが偏って登場し、イスラム刑法のもと広範に定められた犯罪や麻薬関連犯罪を理由に、不均衡に恣意的拘禁や死刑判決を受けているという報告に対して懸念を示した。イランに対して、法的枠組みを見直し、死刑に相当する犯罪の曖昧な表示の廃止、マイノリティに対する公平で適切な手続きの確保、廃止を目的とした死刑のモラトリウムを求めた。
刑事司法制度に関する勧告のほか、委員会がイランに出した勧告は以下の通り:
イラク
8月14日および15日に建設的対話が行われた。委員会は総括所見のなかで、2024年末までに国内避難民(IDP)のための全てのキャンプを閉鎖するという締約国の決定が、民族的および民族・宗教的マイノリティの非自発的かつ強制的な帰還につながる可能性があるという報告に懸念を示し、その人たちの多くは、十分なインフラもなく、武力衝突によって深刻な被害を受けた地域に戻らなければならないと警告した。安全かつ真に自発的な帰還あるいは再定住の保証を促した。
国内避難民に関する勧告のほか、委員会がイラクに対して出した勧告は以下の通り:
パキスタン
8月8日および9日に建設的対話が行われた。委員会は総括所見のなかで、冒とく罪に問われた人びとが有する公正な裁判を受ける権利を強調し、警察拘束中の死亡や長期の法律手続きなど、容疑者の扱いに関する懸念を示した。委員会は、個人や集団への暴力による報復の防止、冒とく法の廃止、公正な裁判の確保、あらゆる暴力行為の訴追を促した。
冒とく罪に関する勧告のほか、委員会がパキスタンに出した勧告は以下の通り:
イギリス
8月13日および14日に建設的対話が行われた。委員会は総括所見のなかで、さまざまなプラットフォーム上で、政治家や公人による、根強いヘイトクライム、ヘイトスピーチ、排外主義的事件に懸念を示した。委員会は、徹底的な捜査、人種差別的なヘイトクライムに対する厳しい罰則、被害者とその家族への効果的な救済措置の必要性を強調し、人種差別的なヘイトスピーチや排外主義的な言動を抑えるための包括的な措置をとるよう促した。
ヘイトクライムおよびヘイトスピーチに関する勧告のほか、委員会がイギリスに出した勧告は以下の通り:
ベネズエラ
8月6日および7日に建設的対話が行われた。委員会は総括所見のなかで、国家戦略開発地域「オリノコ鉱区」の状況を強調し、先住民族の土地と生活に及ぼす採掘の悪影響に関して深刻な懸念を示した。委員会は、関係する先住民族との事前協議なしに先住民族の領地での軍隊配置や軍事作戦を控えるとともに、軍事力の行使が必要不可欠な場合、起こりうる人権侵害に対する効果的な説明責任メカニズムを確立するよう促した。
先住民族の領地における採掘の影響に関する勧告のほか、委員会がベネズエラに出した勧告は以下の通り:
*次回114会期は2024年11月25日から12月13日に開かれ、アルメニア、エクアドル、ギリシャ、ケニア、モナコ、サウジアラビアの審査が予定されている。
総括所見および締約国やその他のステークホルダーからの報告はこちら、公開会合のビデオアーカイブはUN Web TVで閲覧できる。
*閉会式のサマリー(全文英語)はこちら、総括所見のサマリー(全文英語)はこちらから。
翻訳・抄訳:反差別国際運動(IMADR)