人種差別撤廃委員会によるパキスタン政府報告書の審査が8月8・9日に行われました。委員会は、パキスタンの国内人権委員会が最近、国内人権機関世界連合 (GANHRI) より「A」ステータスの認定をうけたことを評価する一方、冒とく法や不法滞在外国人送還計画の実施、ダリットやハザラを含むマイノリティへの対応、ジンガスなどについて質問しました。
パキスタン審査の報告者である Yeung Kam John Yeung Sik Yuen 委員は、パキスタンでは、宗教を侮辱した人を罰する法律である冒とく法の下、民族的マイノリティが冒とく罪の濡れ衣を着させられたり、公平な裁判を受けずに殺されたり攻撃を受けたと指摘した。一例をあげれば、2023年1月にイスラム教の聖典であるコーランの改変版とされるものを出版・販売したとして、冒とく罪の容疑でアフマディーヤ・コミュニティ(イスラム改革派)のメンバー5人が逮捕された。
また、共同報告者である Pela Boker-Wilson 委員は、パキスタンは 2023年9月26日に、国内にいるアフガニスタン人の送還を3段階に分けて行うという不法滞在の外国人送還計画を打ち出したと述べた。この計画が実施されて以降、推定 9,000 ~ 10,000 人のアフガニスタン人が毎日強制送還されているといわれている。委員は、人身取引でパキスタンに連れてこられた女性や子ども、帰国したら迫害の恐れがある女性たちが送還リストに含まれないよう、被送還者一人ひとりの評価をしているのかと政府代表団に尋ねた。
これら質問に対し、パキスタン代表団は、「正義が守られるよう、パキスタン警察は冒とく事件の捜査のために標準的な作業手順を策定しており、無実の人が濡れ衣を着せられることはない」と答えた。また、「不法滞在外国人送還計画はアフガニスタン出身者に特化したものではない」と述べ、 その目的は不法滞在、オーバーステイの外国人を特定し、段階的に送還することであると主張した。
さらに委員会は、アフマディーヤ、ハザラ、ダリットなどのマイノリティが隔離され続けていること、そして、非イスラム教徒のマイノリティ、特にキリスト教コミュニティの人びとが、制度的な障壁のために清掃労働に従事せざるを得ないという報告があると指摘した。2017-2018年版の連邦政府職員統計年報によると、マイノリティグループに属する有資格の職員は3%未満であることについても質問をした。
委員会は、また、民族的マイノリティであるハザラに対する大規模な攻撃について、債務奴隷の防止策とその効果について、そして未だ解決されていない児童労働の問題について質問をした。さらに、一部の州におけるカースト制度に基づくダリットへの差別を、パキスタンは未だに国内の問題として認知していないようだと述べた。
その他、正式な法的手続きを伴わず、裁判官や陪審員の立会いもなく、伝統的に紛争を解決する男性だけの評議会「ジルガス」の慣行に関しても政府代表団に質問をした。2019 年に最高裁判所が非合法であると宣言したにもかかわらず、ジルガスは今も国内各地で機能していることについて質問をした。
パキスタン上院人権常任委員会委員長であり、代表団の団長を務める Samina Mumtaz Zehri は、パキスタンは人種差別撤廃条約の最初の署名国の一国として、人種差別の撤廃に引き続き全面的に取り組んでいると述べた。最後に、Yeong Sik Yuen委員は、対話の間、すべての当事者が率直かつ協力的であったと感謝の意を述べた。
▶︎サマリー全文(英語)はこちら