2021.12.22

国連人種差別撤廃委員会105会期報告 (2021年12月)

【国連人種差別撤廃委員会(CERD)は第105会期を12月3日に閉会し、下記の文書を採択しました。】

・総括所見‐チリ、デンマーク、シンガポール、スイス、タイ
・報告書作成のための事前質問リスト(LOIPR)‐サンマリノトリニダード・トバゴ
・フォローアップ書簡‐モンテネグロ
・早期警告・緊急行動手続き‐オーストラリア、カザフスタン、アメリカ合衆国
NGONHRIとの協力に関するガイドライン
・個人通報制度‐Kotor vs. France (65/2017) に関する意見。トーゴで生まれたフランス国籍の申立人が受けた雇用における差別に対し、フランスが条約第6条に基づく救済と保護の権利を侵害したとする見解。

また、パレスチナがイスラエルに対して提出した国家通報に関して、委員会は無記名投票によりシェパード委員(ジャマイカ)、クット委員、(トルコ)、トゥラクラ委員(南アフリカ)、鄭委員(韓国)、バルセルザック委員(ポーランド)を特別調停委員会のメンバーとして選出しました。

総括所見、締約国やその他ステークホルダーの報告書は、OHCHR のウェブサイトからアクセスできます。会期のビデオはUN Web TV にアーカイブされています

各国審査

チリ

委員会は、現在同国で進んでいる憲法起草プロセスにおける先住民とマイノリティの参画、細分化された人口統計、差別禁止法を含む人種差別に対する制度的および法的枠組みについて質問しました。ヘイトスピーチに関連する裁判例、メディアの規制、立法措置について委員会は詳しく質問しました。先住民族の権利については、「自由意志による、事前の、十分な情報を得た上での合意(FPIC)の原則」、当局による過剰な力の行使、人権擁護者の状況、土地の軍事化、企業活動の影響までと多岐にわたる質問がありました。また、レイシャル・プロファイリング、テロ対策法の適用、無国籍者の救済についても質問がされました。マイノリティに関して、ロマをマイノリティとして正式に認識することや、アフリカ系の人びとが前回の国勢調査から漏れたことなどについて委員会は質問しました。難民や庇護希望者を含む移住者の状況については、迫害の恐れがある国への送還を禁止するノン・ルフールマン原則の違反や、特にハイチ出身者をはじめとする移住者に対する人権侵害について委員会は懸念しました。委員会の総括所見では以下の分野に関して勧告が出されています。(※印はフォローアップ勧告)

・統計
・憲法の整備
・人種差別対策措置(反差別法(No.20.609))
・複合・交差性差別の形態
・制度的枠組み
・国内人権機関
・人種主義に基づくヘイトスピーチとヘイトクライム*
・人種差別と法執行
・レイシャル・プロファイリング
・テロ対策法
・人権擁護者の状況
・先住民族の状況*
・アフリカ系の人びとの状況
・移住者、庇護希望者、難民の状況*
・アフリカ系の人びと、先住民族、移住者に対する人種的ステレオタイプ
・司法へのアクセス

デンマーク

委員会は人種差別撤廃条約の国内法への適用と細分化された統計の収集を促し、人種差別の被害者の救済に関する判例や苦情の数、待遇平等委員会などの役割について情報を求めました。また、レイシャル・プロファイリングの禁止や法執行官の人権研修、ヘイトスピーチに対する措置などにも質問がだされました。締約国の「ゲットー・パッケージ(パラレル社会パッケージ)」と呼ばれる一連の法律と政策について委員会は懸念し、そこで使用される「非西洋人」の定義や、これに基づく強制立ち退き、高校の閉鎖、刑事罰やその他の罰則の強化について質問しました。難民・庇護申請者を含む移住者に対する所有物の没収、本国への送還などに関する報告について委員会は懸念しました。ロマやアフリカ系の人びといったマイノリティについて、委員会はさらなる情報を求めました。委員会の総括所見では以下の分野に関して勧告が出されています。(※印はフォローアップ勧告)

・データ収集
・国内法における条約
・人種差別禁止規定の実施と政策の評価
・「西洋」と「非西洋」という用語の使用
・「パラレル社会」計画
・グリーンランド
・フェロー諸島
・ヘイトクライムおよびヘイトスピーチ*
・レイシャル・プロファイリング
・労働市場における差別
・医療における通訳
・COVID-19パンデミックの状況*
・ロマの状況
・アフリカ系の人びとに対する差別*
・難民と庇護希望者
・市民権
・救済措置

シンガポール

委員会は独立した国内人権機関(NHRI)の設置、人種差別に対する国内行動計画の策定、そして差別禁止法を制定するよう同国に促しました。また、人種差別事件、ヘイトスピーチ、ヘイトクライムの申し立てに関する細分化されたデータの提供を委員会は求めました。司法の運営に関し、法律家の研修、勾留条件、被害者への法的支援、レイシャル・プロファイリング、死刑の適用などについて委員会から幅広い質問がありました。移住労働者についても労働条件、救済へのアクセス、およびパンデミック下における寮生活と移動の自由などに関する質問がありました。さらに、移住家事労働者たちの雇用法からの除外、彼女たちが抱える債務、医療保健へのアクセスの欠如、雇用者によるパスポートの没収といった状況について懸念しました。マイノリティについて、住居や教育への権利から、職場におけるスカーフ着用に関する規制、公的機関への参画と多岐にわたる質問がだされました。委員会はまた、市民社会の活動が制限され、移住者やマイノリティの権利のために活動する人権擁護者が起訴されている報告について強い懸念を示しました。委員会の総括所見では以下の分野に関して勧告が出されています。(※印はフォローアップ勧告)

・データ収集
・人種差別の定義と法律
・国内人権機関
・人種主義に基づくヘイトスピーチとヘイトクライム
・レイシャル・プロファイリング
・マイノリティの状況
・健康への権利*
・公的・政治生活におけるマイノリティ
・刑事司法制度
・移住労働者
・無国籍者、難民、庇護希望者
・人種差別に関する申し立て
・司法へのアクセス*

スイス

委員会は同国が独立した国内人権機関の設置を決定したことを歓迎しつつ、十分な予算を確保することと人種差別の被害者からの申し立てを取り扱う権限を付与するよう促しました。ヘイトクライムのモニタリング、法律家の研修、被害者の救済へのアクセスなど司法の運営に関する様々な質問がだされました。さらに、法執行当局による特に北アフリカ出身者に対するレイシャル・プロファイリングの報告について委員会は懸念しました。反ユダヤ主義をはじめとする人種主義に基づくヘイトスピーチについて、委員会は個別の事例や政治やメディア、インターネットにおける対策措置に関する情報を求めました。また、委員会は人権教育にマイノリティの歴史を含んでいるかどうか質問しました。移住者の状況に関して、パンデミック下における健康への権利、子どもの教育へのアクセス、移住女性に対する家庭内暴力(DV)、人身売買の被害者支援など幅広い質問がだされました。委員会は同国に人口の詳細な統計とることを促しました。シンティ、イェニッシュ/マヌーシュ、ロマといったマイノリティについて、停留場の削減や物乞いの禁止の差別的影響などについて懸念しました。委員会の総括所見では以下の分野に関して勧告が出されています。(※印はフォローアップ勧告)

・国内法における条約の適用
・留保
・国内人権機関
・制度的枠組み
・人種主義に基づくヘイトクライムとヘイトスピーチ*
・人種差別的な警察による暴力
・レイシャル・プロファイリング*
・イエニッシュ、シンティ/マヌーシュ、ロマ
・移民、難民、庇護希望者、無国籍者を含む市民でない者の状況*
・人種差別と闘うための教育と訓練

タイ

委員会は、世界遺産に登録されたケーン・クラチャン国立公園を含めた先祖伝来の先住民族の土地での開発プロジェクトについて、「自由意志による、事前の、十分な情報を得た上での合意(FPIC)」が欠如していることを懸念しました。また、マイノリティに関し、治安維持や環境保全に関する法律や政策の差別的影響、宗教・信仰の自由の制限、強制失踪や超法規的処刑の報告について委員会は懸念しました。企業活動による人権問題に取り組む先住民族やマイノリティの人権擁護者の状況についても質問がされました。難民や庇護希望者を含む移住者の状況について、難民条約の批准、LGBT+の難民、人身売買の被害者、拘留条件、強制送還、無国籍の問題など多岐にわたる質問がありました。委員会は条約の留保を撤回し、条約を国内法に適用し、人種差別の定義を採用するよう同国に促しました。人種主義に基づくヘイトスピーチとヘイトクライムについて、裁判例や取られた措置に関する情報を委員会は求めました。イスラム系マレー人の DNA データの収集や顔認識技術の使用など、レイシャル・プロファイリングに関して同国は質問されました。委員会の総括所見では以下の分野に関して勧告が出されています。(※印はフォローアップ勧告)

・統計
・留保と宣言
・国内法体系への条約の適用
・人種差別の禁止
・交差性・複合差別
・国内人権機関
・ヘイトスピーチとヘイトクライム
・レイシャル・プロファイリング
・人権擁護者*
・戒厳令・非常事態下の民族および民族的・宗教的マイノリティの状況*
・民族的・宗教的マイノリティと先住民族の状況
・先住民族の土地、領土、資源
・人身売買
・移住労働者
・難民および庇護希望者
・無国籍者
・COVID-19および人種差別*
・司法へのアクセス

早期警戒・緊急措置手続き

オーストラリア

委員会は、西オーストラリア州政府のアボリジニ文化遺産法案(2020年)による先住民族アボリジニに対する影響に関するレターを送付しました。委員会は、法案で規定される協議プロセス、アボリジニ省の裁量権、効果的な救済措置や法的救済などについて懸念を共有しました。委員会は懸念への回答、法案の現状、西オーストラリア州のアボリジニの協議の権利を保証するために採用された措置に関する情報を求めました。

カザフスタン

委員会は、マイノリティであるドゥンガンに対して2020 年 2 月に起きた民族間の暴力についてフォローアップの書簡を送付しました。委員会はこの事件の調査と、刑事手続きの対象となったドゥンガン人の公正な裁判を確保するために採った措置について、2022年4月に予定されている報告書審査での情報に含めることを同国に要請しました。

アメリカ合衆国

委員会は、アラスカの先住民族グィチンの状況に関するフォローアップの書簡を送付しました。委員会は新たな包括な分析が完了するまでの間、北極圏野生保護区の沿岸平原石油・ガス租賃プログラムのすべての活動が停止されたことを歓迎しました。委員会は、締約国に対し、「自由意志による、事前の、十分な情報を得た上での合意(FPIC)の原則」を含む条約の下での人権義務について同国に喚起しました。

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