CERD第90会期閉会 スリランカ、イギリスなど8カ国の審査を終える
8月26日に終了した人種差別撤廃委員会の第90会期では、
ギリシャ、レバノン、パキスタン、パラグアイ、南アフリカ、スリランカ、ウクライナ、イギリスの審査が行われ、それぞれ総括所見が採択されました。以下、各締約国の審査の概要を報告します。なお、総括所見はOHCHR 以下のウェブサイトで見ることができます。
https://tbinternet.ohchr.org/_layouts/treatybodyexternal/SessionDetails1.aspx?SessionID=1073&Lang=en
・ギリシャ
委員会は締約国の人種差別に対する近年の取りくみに留意しつつも、締約国における進歩を評価できるよう実施された政策のデータや数字、結果を示すよう求めた。とりわけ、反人種主義と不寛容協議会が策定した「人種主義と不寛容に関する国内行動計画」のドラフトについて質問が出た。委員会は反人種差別法が改善されたことを歓迎した。マイノリティとロマやマケドニア人、ポマク人などのその他民族グループに関するいくつかの質問が出た。さらに、難民や庇護希求者の状況、特に収容所の状況や同伴者のいない未成年者の状況に関する問題について何度も言及があった。
・レバノン
委員会は締約国に対して、異なるグループの人権状況が分かるよう細分化されたデータを提出するよう求めた。条約に基づいた人種差別を明確に規定する法律制定の必要性が強調された。人種差別主義者によるヘイトクライムとヘイトスピーチに関して、委員会は悪化する攻撃に対処する条文がないことを懸念した。委員会はメディアにおけるヘイトスピーチに言及しつつ、人種優越の考えを普及することを罰し、レイシスト団体がそのような考えを広めることを禁止する法律制定の欠如について懸念を表明した。委員会はレバノンが難民と庇護希求者を受け入れ、彼・彼女らに必要な支援を提供することを促進する取り組みに留意し、現在起きている人道的危機を解決するために、国際社会が役割を果たさなければいけないと述べた。
・パキスタン
締約国による人権理事会への貢献、新しい国内人権行動計画と国内人権委員会の創設を大いに歓迎しつつ、委員会は同国の数々の人権に関する懸念を述べた。委員会は、条約に基づいた人種差別の定義が存在していない事に懸念を表明した。さらに委員会は、ビハリ、ベンガル、ハザラ、アマディヤのコミュニティを含む民族・宗教マイノリティグループに対する起訴、差別を深刻に捉えた。委員会は、脆弱なグループに属する子どもへ起こり得るマドラッサ(イスラム神学校)の悪影響を懸念した。委員会は締約国に対し、マイノリティグループに属する女性と少女を、強制的な幼児婚、名誉殺人などの人権侵害から保護する措置について尋ねた。また、ダリットの状況に関する情報も求めた。その他、難民、庇護希求者、国内避難民、移民、テロ対策、人種差別主義者によるヘイトスピーチとヘイトクライムについての情報も求めた。
・パラグアイ
委員会は、条約実施の主な妨害になっている、人種差別の定義が存在していない事を指摘した。先住民族の状況に関して、委員会は先祖代々の土地の問題、適切な先住民族代表との自由で事前の、十分な情報を与えられた上での合意のための協議に取り組む必要性を強調した。パラグアイの異なる民族グループについて多くの質問が出たが、アフリカ系住民の状況は特に委員会の興味を引いた。
・南アフリカ
委員会は、締約国によるアパルトヘイトの負の遺産を根絶する取り組みを歓迎した。委員会は、条約が国内法に取り入れられていないため、裁判で引用されることがないことに懸念を表明した。委員会は、締約国による差別是正措置、特に土地の再分配などの政策によって得られた結果に関心を示した。何人かの委員が、人口集団によって公的機関や経済関連機関の高い地位に格差が存在し続けていることを指摘した。委員会は、外国人嫌悪の存在を強調し、締約国にさらなる措置を講じるよう促した。先住民族の状況は委員会の注目を集め、締約国はそれらのコミュニティの先住民族としての地位の認定について尋ねられた。
・スリランカ
委員会は、市民社会からの報告による締約国における人種差別の実態が報告書に反映されていないことに懸念を示した。委員会は、土地の再分配のプロセスに関して質問をし、締約国に民族別の土地の占有状況に関する情報を求めた。委員会は、雇用率を含め細分化されたデータを求めた。現在の移行期における人権侵害究明に関する質問が多く出た。委員会は、憲法制定評議会に対する懸念を共有し、締約国に司法の独立を確実にする条文を設けるよう促した。締約国は、パリ原則に沿った新しい国内人権委員会に十分な資源を提供するよう求められた。
・ウクライナ
委員会は、締約国による人権国家戦略や2020年までの行動計画などの進展を認めた。ロシア語とその他のマイノリティ言語の使用範囲を広げた2012言語法にも留意した。しかし委員会は、人種差別主義者によるヘイトクライムの調査の欠落に懸念を表明した。メディアでのヘイトスピーチ問題では、委員会は国の対策の効果を調べた結果を共有するよう締約国に求めた。委員会は、ヘイトクライムに関する告発が少ないから事件発生が少ないのではなく、むしろ制度が不十分であり、制度への信頼の欠如を表していると強調した。難民に関して、委員会はすべての難民は難民条約に沿った手続きが利用できるよう締約国は保障すべきだと強調した。
・イギリス
委員会は、条約がまだ締約国の国内法秩序の一部になっておらず、イギリス領インド洋地域には適用されていないことを想起した。委員会は特に、EU離脱後の増加する人種差別主義者によるヘイトクライムとヘイトスピーチに懸念を表明した。アフリカ系住民に関して、委員会は警察による人種プロファイリングや、公職に就く人が少ない一方で刑事裁判や精神病の施設に多数の人がいることに懸念を表明した。委員会は、ロマとトラベラーズの移動の自由、居住の自由に関して懸念を表明した。その他、チャゴス、難民、庇護希求者と移民の状況、収容所でのコンディションについて言及があった。