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人種差別撤廃委員会115会期終わる

2025.05.14

4月22日から始まった人種差別撤廃委員会(CERD)115会期は、5月9日に終了しました。今会期について、国連が発表した報告を基に、以下、概要を報告します。

♦︎ 今会期では、ガボン、キルギス、モーリシャス、韓国、ウクライナの定期報告書が審査され、最終日にその総括所見が採択されました。その内容は本記事の後半に掲載しています。↡ 
♦︎ クロアチア、ドイツ、モロッコ、ウルグアイ、タジキスタンのフォローアップ報告書が審査されました。
♦︎ 早期警戒・緊急行動手続きに基づき提出された16の事案のうち、13件について関係締約国に書簡が出されました。また、この手続きのもと、パレスチナ占領地における壊滅的な人道危機に関する声明が発表されました(5月9日)。
♦︎ 個人通報制度のもと受けた4つの事案を検討し、締約国ドイツに対する1件が正式に受理されました。
♦︎ 移住労働者権利委員会と進めている、移住者、その家族、およびその他市民でない者に対するゼノフォビアとレイシズムが及ぼす影響に対処する合同一般的勧告の策定に向けて、さらなる協議が行われました。
♦︎ 大西洋奴隷貿易による歴史的不正義への賠償に関する 一般的勧告 に関する 半日一般討論 が行われ、賠償のための法的枠組みと、制度的人種差別や制度的責任を含む奴隷制の永続的影響などについて検討されました。
♦︎ 2025年は人種差別撤廃条約採択60周年の年であり、人種差別撤廃委員会は通年のキャンペーンを行っています。
♦︎ 次回の会期は、2025年8月11日から29日に予定されており、ブルンジ、グアテマラ、モルディブ、ニュージーランド、スウェーデン、チュニジアの報告書が審査されます。

115会期で採択された総括所見の概要

ガボン

 委員会は、国内の法的枠組みに条約に完全に沿った人種差別の定義が含まれていないことに懸念を示した。ガボンに対し、直接的、間接的、複合的、交差的形態を含む人種差別の明確な定義を採用し、公的および私的領域のあらゆる分野を網羅し、人種、皮膚の色、世系、種族的・民族的出身を含むすべての差別事由を対象とする包括的反差別法を採択するよう勧告した。
 委員会は、先住民族の権利を促進するための取り組みを認める一方、具体的な法的枠組みがないことに懸念を表した。特に、自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意を欠いた強制移住やインフラ・資源事業が先住民族の土地と生活に与える有害な影響に関する報告に憂慮した。ガボンに対し、先住民族の認知、法的保護、無差別を確保するための措置をとるよう促した。また、生態系や生活様式に影響を与える事業に関して、自由意思による、事前の、十分な情報に基づいた先住民族の同意を得るための協議手続きに関する法律を制定し、これらの協議を行うための適切なメカニズムを構築するよう求めた。

キルギス

 委員会は2024年7月にオシュ市で起きた洪水後、所有権がないために、Mugat のコミュニティに対する代替住宅を含む、不十分な支援や補償を懸念した。また、適切なインフラや基本的な公共サービスのない地域に移住させるという再定住計画案にも懸念を示した。キルギスに対し、オシュ市での洪水の被害を受けたMugatの家族や個人が公正で十分な住宅や補償を受けられるようにすること、Mugat のコミュニティメンバーと十分協議すること、同コミュニティの所有地に法的権利を与えることを求めた。
 ヘイトスピーチの増加や、2025年5月に民間人による移民に対する暴力的攻撃が発生し権利が侵害され安全が脅かされたとの報告に懸念した。キルギスに対し、移民に対して行われたすべての申し立てについて、効果的で公正な調査を行い、加害者を訴追して適切な刑罰を科し、被害者に十分な救済や支援を提供するよう求めた。また、インターネットやソーシャルメディア上を含む、移民に対するヘイトスピーチや人種的憎悪・差別の扇動と闘い、モニターするために、効果的な措置をとるよう求めた。

モーリシャス

 委員会は、民族別に詳細な統計をとることは国の結束と相容れないとする締約国の立場に留意しつつ、民族グループに関する詳細なデータがないことや、チャゴスの人びとの強制移住の継続的な影響について懸念を表明した。
 委員会は特に、クレオールの人びと、チャゴスの人びと、その他アフリカ系の人びと、移民や無国籍者といった市民でない者たちに関する包括的なデータがないことは、これらのコミュニティに対する人種差別や社会経済的状況の効果的な評価を妨げていることに懸念を示した。モーリシャスに対し、自己認識に基づく包括的なデータ収集ツールを開発し、周縁化された集団の社会経済に関する統計数字を出し、受刑者の民族構成に関するデータを公表するよう勧告した。

韓国

 委員会は、オンライン・オフライン両方における、移民、難民や庇護希望者、ムスリム、中国朝鮮族の人びとに対する人種主義的ヘイトスピーチが増え続けていることに改めて懸念を表した。また大邱広域市でのモスク建設反対を含むヘイト事件の報告に警鐘を鳴らし、インターネットに投稿された在留資格のない移住労働者に対する虐待のビデオにも憂慮した。締約国に対し、刑法を改正して人種主義的な動機を加重要因と認め、ヘイトスピーチとヘイトクライムを明確に犯罪化することに加え、次の措置をとるよう促した。公人によるものも含むあらゆる形態のヘイトスピーチを非難する、これら事件にあたる法執行官の職務遂行に必要なトレーニング、一般市民への啓発キャンペーンを実施する、そしてメディアやネット空間におけるヘイトスピーチをなくすための取り組みを強化すること。
 移住労働者に対する賃金未払い(韓国人労働者の3倍)、劣悪な住環境、労働災害による死亡率(韓国人労働者の2倍)が示すように移住労働者に対する搾取が蔓延していることに関して懸念を示した。また、言語や在留資格の理由から、補償、法的支援、情報へのアクセスが限定的であるという問題にも直面している。移住労働者に対する適切な住宅の確保、労働安全基準の適用、労働権の侵害による損害に対する救済と賠償、より良い地域サービスの提供を求めた。

ウクライナ

 委員会は、今も続く戦争が締約国の条約の下での義務の完全履行に厳しい課題を突きつけていることを懸念した。また、アフリカ系、アジア系、中東系、ラテンアメリカ系の人びとが近隣諸国に逃れようとした際に直面した差別的扱い、人種主義的ヘイトスピーチ、暴力に関する調査、起訴、有罪判決、制裁に関する情報がないことに憂慮した。こうした行為には防空壕へのアクセスの拒否、国境通過時の妨害、移動手段を待つ長蛇の列の最後尾にまわされることなどが含まれるといわれている。ウクライナに対し、このような事案のすべてを調査し、責任者を訴追し、加害者を適切に処罰するよう求めた。
 自警団による殺害や財産の破壊を含み、2018年に発生したロマコミュニティに対するヘイトクライム、ハラスメント、組織的な攻撃の報告を懸念した。ウクライナに対し、ロマコミュニティを標的とした暴力のすべての申し立てについて効果的で公正な調査を行い、加害者を訴追して適切な刑罰を科し、被害者に十分な救済と支援を提供することによって、説明責任を確保し、不処罰を終わらせるよう求めた。