女性差別撤廃委員会（CEDAW）90会期におけるネパール政府定期報告書審査に向け、 フェミニスト・ダリット協会（FEDO）と国際ダリット連帯ネットワーク(IDSN) が共同で委員会に提出したレポートの一部を紹介します。
ネパールにおけるダリット
ネパールのダリットは、ヒンドゥー教の4つのカースト階層の下位カーストに属する集団です。ネパールの全77県に160万人のダリットが居住しています。ダリット女性はネパールの全女性人口の15％を占めています。
◉ダリット女性・女児に対する差別
私的・公的領域において、障がいのあるダリット女性・女児、LGBTIQ+や宗教的マイノリティに属するダリット女性・女児、独身の高齢ダリット女性、マデシ・ダリット女性・女児は、カースト、階級、ジェンダー、宗教、身体的状態、職業、言語的および文化的アイデンティティに基づく交差的で複合的な差別や隔離に直面しやすいです。 しかし、そのような交差的で複合的な差別に対処するための方策、資源、政府の能力、特に地方政府や州政府の能力が著しく不足しており、包括的反差別法もありません。
また、カースト差別の事件は、差別の被害者であるダリット女性や女児の脆弱な社会的・経済的状況に関連する理由により、しばしば報告されないままになっています。 さらに、ダリット女性・女児に対する差別的で不公平な態度は、警察や司法機構に蔓延しています。そもそも権力者にダリット女性の声は届きにくく、権力者たちは目に見えない形で司法のプロセスに権力を行使しています。選挙で当選したダリット女性への差別も多数報告されています。
実例：選挙で当選したダリット女性への差別
・2020年7月、シラハ郡でダリット女性が学校運営委員長に選出された際、ダリットでない人びとが学校に南京錠をかけた。
・カリコート郡の郡調整委員会で、ダリットの女性副委員長が郡スポーツ大会に主賓として参加するのを拒否された。
◉政治的および公的生活への参加
クオータ制*によって、2022年の地方選挙では、753の地方自治体の6,743の区で6,567人のダリット女性が当選しました。しかし、ダリット女性の意思決定プロセスや計画実施への参加は限られています。また、公務員枠の45％（33％を女性に、9％をダリットに）を周縁化されたコミュニティ出身の人びとに割り当てているものの、男性と比べ、ダリット女性の公務員が圧倒的に少ないです。さらに、女性、特にダリットや周縁化された女性は、災害管理（予防、軽減、準備、対応、復旧）への参加から排除されてきました。
実態：ダリット女性の政治参画
・ 国家ダリット委員会に一人のダリット女性が委員になっていることを除き、その他の憲法機関にダリット女性は代表されていない。
・ネパール連邦上院議員59人にダリット女性はいない。
・全国77の地区調整委員会において、ダリット女性の委員長はいない。
・全国276市町村と460農村自治体の市長あるいは議長のなかに、ダリット女性はいない。
・ダリット女性に指定されている全国の区議会議席6,743のうち、6,567をダリット女性が占めている。残りの176議席は空席か、他の女性が占めている。
・外交官を含むネパール政府代表の地位にダリット女性はいない。
◉結婚および家族生活に関する権利
法規定があるにもかかわらず、カーストに基づく差別はダリット女性が配偶者を選ぶ権利に深刻な影響を与えています。ダリットと異なるカーストとの結婚は、ほぼすべて、カーストに基づく差別、暴力、不可触制にさらされます。大抵の場合、夫あるいは妻の家族に反対されたり、村からの立ち退きや別居、離婚を余儀なくされたり、烙印を押されたりします。差別とスティグマが蔓延し、家父長的な考え方に支配されているネパール社会において、ダリット男性よりダリット女性・女児の方が異カーストとの結婚の影響をより強く受けます。
実例：異なるカーストとの結婚
・非ダリットの村長の村で、23歳のダリットの青年が非ダリットの女性と結婚したことで、村人たちはその青年と数十名のダリットの村人に殴る蹴るの暴行を働き、青年の飼っていた水牛を取りあげた。村長は、村会議員のいる前で、非ダリットの女性と結婚したことに対して15万ルピーの罰金を命じた。
・2020年、ルクム郡において、非ダリットの村人が、ダリットの青年と非ダリットの女性の恋愛を理由に、４人のダリットの青年を殺害した。
*ネパールでは、あらゆるレベルの選挙において33％以上の女性の選出を義務付けている。2015年憲法は、地方行政の最小単位である区委員会における女性の留保枠として、ダリット女性１議席を含む2議席を女性に割り当てるよう規定している。
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