実践ガイドを平たく読み解き、その内容を多くの人びとと共有し、包括的反差別法実現をともに目指すため、IMADRは実践ガイドのワークショップを連続で開催します。その基本編の2回目として、実践ガイドの翻訳チーム代表の林陽子さん(弁護士、元国連女性差別撤廃委員会委員長)を講師に迎え、「なぜ必要なのか、実現には何が必要なのか」を中心に話をしていただきました。
なぜ今包括的反差別法が必要?
包括的反差別法の必要性について、以下のようなことが挙げられました。
・差別は構造的であり、複合的な形をとるため。
・差別は今後も予想しなかった新しい形態で現れるため。
・各国における実践で共通して効果があったものがある。
・差別禁止の実体規定、司法へのアクセス、平等機関(救済機関)の三者を連結させる。
・個別法も必要。個別法があることで差別の対処に相乗効果が期待できるため。
国際基準とのギャップ
日本にも差別を扱う法律がないわけではありません。憲法や個別法、日本が批准している国際条約などさまざまなフレームワークが存在します。しかし、罰則規定がなかったり理念法に留まっている法律が多いです。
そのため、日本はさまざまな国際人権条約機関から 1) 国内人権機関の設置 2) 差別の包括的な定義 3) 多様な差別形態に応じた包括的な法律・国内戦略の制定 4) 差別の防止と措置 などの勧告が出されています。
地方議会の役割
日本:地方自治体では、人権尊重条例から部落差別に特化した条例、障がい者差別に関する条例、性の多様性に関する条例、 ヘイトスピーチ条例、新型コロナウイルス感染に関する条例、インターネット上の誹謗中傷に関する条例などが存在します。なかには、苦情処理機関の設置を含む条例をもっている自治体もあります。
アメリカ:女性差別撤廃条約を批准していないアメリカでは、Cities for CEDAWといい、女性差別撤廃条約の内容を州法や市条例の中に盛り込んでいく取り組みがあります。ワシントンD.C.では、D.C.内のすべての自治体が2年毎にジェンダー分析を行ない、このために創られたコミッションに報告をします。また、賃金、婚姻の地位、職位、性的指向、ジェンダーアイデンティティ、障がいなどに基づいたジェンダー格差を分析します。そして、ジェンダー格差をなくすためのアクションプランをコミッションが首長に提言します。
日本における包括的反差別法の未来
日本で制定する場合、平等・無差別に対する権利や差別禁止条項などを入れる必要性があります。また、ポジティブアクションや差別に対する賠償や制裁を含む救済措置が必要です。国内人権機関の設置が必要です。国や自治体の義務を明確にし、広い意味での司法へのアクセスを確保する必要があります。
コメント・Q&A
コメンテーターの三浦まりさん:
「日本社会には差別についての共通理解が理解が成立していないと思います。法的定義を明確に定める必要があります。差別は意識、態度、そして行為と段階を踏みますが、それを丁寧に議論して語彙を豊かにして共有していく必要があるでしょう。 差別事由を「限定しない」法律はどういう形をとるのでしょうか?いくつもの被保護特性を列挙することは、ある意味限定している側面があります。司法上の効果を持たせるにはどういう文言を法律に入れれば良いのでしょうか?最後に、国内の社会運動の連携ももっと強化していかなければと思いました。」
コメンテーターの原由利子さん:
「マイノリティ女性たちが、女性政策や人権政策から抜け落ちてしまっている現状があり、国連から包括的差別禁止法制定の勧告も受けました。世界各国が長年差別との闘いの末に行きついたのが包括的差別禁止法です。基本的な(女性・人種・民族などの)差別禁止法すらなく、救済法もない日本は、世界に学び、包括的差別禁止法の制定を一気に進める時です。日本で包括法を制定するには、人権や差別禁止に忌避感がある政治状況の壁を突破する必要があります。そのためには、さまざまな立場の人が共通の声を持って立ち上がり、市民社会の大きな声にしていくことが大切だと思います。」
林陽子さん:
「法律を作る場合、差別の定義は、人種差別撤廃条約と女性差別撤廃条約が規定をしているので、それを採り入れることになると思います。司法上の効果を持たせるための規定として、例えば、雇用機会均等法は「事業主は措置をとる義務がある」と規定しているので、行為規範として、ハラスメントはしてはならないという条文を入れることができるのではないでしょうか。」
その他、日本の歴史的な植民地支配や国内人権機関と反差別法に関する質問が出ました。
>>より実践的な内容は 7月からの実践編 をお楽しみに!
実践編の詳しい内容はこちらから