実践ガイドを平たく読み解き、その内容を多くの人びとと共有し、包括的反差別法実現をともに目指すため、IMADRは実践ガイドのワークショップを連続で開催します。その第1回として、実践ガイドの翻訳・監訳者の李嘉永さん(近畿大学准教授)を講師に迎え、「何が書かれているのか」について話をしていただきました。
李嘉永さんの報告
包括的反差別法の「包括的」とは?
2つの点が挙げられます。まずは、差別の規制対象が「包括的」です。差別事由を限定しません。その他の事由を含む」などと明記し、範囲を広くすることが推奨されています。また交差性差別やみなし差別、合理的配慮の拒否など、多様な差別の形態に対応しています。さらに、生活のあらゆる空間やレベルで起きるものを含みます。
次に、差別への措置が「包括的」です。差別への措置として3つのポイントが挙げられます。1つ目は、ポジティブアクションです。不平等の軽減や克服、平等を実現するために行う、対象を絞ったあらゆる立法や行政、政策上の措置のことです。2つ目は、平等義務です。差別を撤廃し、参加の平等を確保するための積極的な義務を指します。平等義務には、1) アクセシビリティの確保 2) 予防的義務 3)制度的義務 4) 主流化義務が含まれます。3つ目は、救済です。制裁や賠償、差別の認定、制度的・社会的救済などを通して、差別の被害者に対して、被害からの回復を目指します。司法へのアクセスや第三者の参加の促進、立証責任の転換、国内人権機関の設置などを通して、被害者が救済され、再発が防止される仕組みも構築する必要があります。
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コメント
コメンテーターの師岡康子さん:
「現在、外国人人権法連絡会が2022年に作成した人種差別撤廃法モデル案を包括的反差別法ガイドブックも参考にしてバージョンアップ作業中です。合理的配慮の拒否を人種差別の文脈で差別の一形態として追加し、また、差別の被害者の立証責任を軽減する規定も組み入れる予定です。さらに、今回李さんが紹介された、アクセシビリティの確保などの平等義務は、差別をなくしていくには重要なアプローチであり、かつ、差別の刑事罰規制には懸念を示す人たちにも受け入れやすいもので、意義があると思います。」
Q&A
Q:「合理的配慮は司法も対象に含まれていますか?障害者差別解消法では、合理的配慮の対象に司法が含まれていないため、裁判の口頭弁論で手話通訳が必要な場合、原告側でその費用を全額負担しなくてはいけません。」
A:「実践ガイドの枠組みの下では、司法へのアクセスをきちんと確保する必要があるので、裁判所は特に、当然、合理的配慮も提供すべきです。」
その他、受刑者の人権に関するコメントもありました。
>>より実践的な内容は 7月からの実践編 をお楽しみに!
実践編の詳しい内容はこちらから