2021.06.1

部落に関するラムザイヤー論文に日米4人の研究者が非難声明

ラムザイヤー論文「でっちあげられたアイデンティティ・ポリティックス:日本の部落アウトカースト」に対して日米の研究者4人が共同で声明を出しました。声明は、研究の目的と方法論、学術的及び社会的波及効果、そしてマイノリティ研究の権力性の側面より、この論文がもつ重大で看過できない問題を論じ、結論として論文の再査読を求めるとともに、研究者の責任と倫理、特に周縁化され差別されている集団に対する研究についての議論を広く呼びかけています。 

声明は、藤岡美恵子(法政大学)、Joseph Hankins (カリフォルニア大学サンディエゴ校)、熊本理抄(近畿大学)、Suraj Yengde (ハーバード・ケネディスクール)の4人の研究者によるもので、5月1日付 亜細亜太平洋月刊誌(The Asia-Pacific Journal)Japan Focus のページのラムザイヤー論文と部落問題に関する特集ページで発表されました。

声明(英・日)の全文は亜細亜太平洋月刊誌のサイトでご覧いただけます。リンクはこちらです。リンク先では、英語のあとに日本語が続きます。声明の導入部を以下にご紹介します。

部落に関するマーク・ラムザイヤー論文に対する非難声明

Mark Ramseyerの論文“On the Invention of Identity Politics: The Buraku Outcastes in Japan”がReview of Law & Economics(Volume 16, Issue 2, 2019年)に掲載されました。

私たちは“On the Invention of Identity Politics: The Buraku Outcastes in Japan”と題するJ. Mark Ramseyerの論文掲載を強く非難します。この論文は、学術的な基準を満たしていません。さらに、部落民が被る抑圧の背景にある社会的状況を部落民の責任に帰するという論理的誤謬に基づいた主張が論文の根幹をなしています。これは浅薄で、明らかに反動主義的と言える行為であり、学術誌にはふさわしくありません。

2020年12月にThe International Review of Law and Economicsに掲載された、日本軍性奴隷制(「慰安婦」)に関するRamseyerの論文“Contracting for Sex in the Pacific War”が同様に、基本となる学術的基準を満たしていないとして、広く批判されている事実にも注意を喚起します。法学、経済学、歴史学など幅広い分野の学者が批判の声をあげています(批判表明の書簡や声明の多くは、Resources on “Contracting for Sex in the Pacific War” in the International Review of Law and Economicsで見ることができます)。

論文のなかでRamseyerは、差別に直面する集団として部落の指導者たちが「皮革労働者のギルドという架空の民族的アイデンティティを捏造し」(p.3)、自分らのために政府から金をゆすりとるようになったと主張します。Ramseyerはさらに、部落民が犯罪行為に関与し、また部落の家族が機能不全であるがゆえに、差別の対象になっていると断言しています。部落民集団はその後、部落コミュニティにとどまる若い部落男性のために、犯罪の「キャリアパス」をつくった、とする主張を展開しました。

イノリティの運動や周縁化された人々の闘争に関わってきた研究者として、私たちは著者の主張に懸念を表明します。著者の主張は、差別の継続を正当化することによって、マイノリティの運動や抑圧されたコミュニティを毀損する不当な攻撃です。部落史に関する著者の主張には多くの懸念がありますが、分析は歴史学者に委ねます。本声明では、以下三点に焦点を当てて問題を指摘します。 

<PDFでも公開されています。PDFはこちらから。*亜細亜太平洋月刊誌の該当ページへのリンクです。英語のあとに日本語が続きます。>

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