IMADR通信
NEWS LETTER
スポーツにおける人種差別と不処罰
人種差別に関する国連特別報告者アシュウィニ・K・Pは、人権理事会62会期に提出した「スポーツにおける人種差別」に関するレポート(A/HRC/62/55)で、構造的な不平等、差別的な規制、人種差別事件、スポーツガバナンスにおける代表性の欠如、対立、社会経済的排除などが、周縁化された人種・民族集団のスポーツへの参加や経験にどのような影響を及ぼしているかを分析した。また、国際人権法の枠組みや、スポーツにおける人種差別を防止・是正するための国およびその他の関係者の義務についても概説した。同レポートのなかで、「不処罰」に関する議論について、以下、抄訳して紹介する。
スポーツにおいて直面した人種差別や交差性差別をアスリートが申立てるとき、あるいは救済手段を利用しようとするとき、いくつかの障壁にぶつかることがある。これらの障壁は、ガバナンスの枠組みや文化的規範といった構造的なものと、利用できる救済措置の複雑さ、費用、利便性といった手続き的なものとの両者に関係する。
特に構造的・制度的な人種差別は、ガバナンスも含むスポーツそれ自体や文化に深く根ざしている場合があり、差別としては認識されず、明確な救済の道筋が示されないことがある。法的措置ではなく、競技結果の決定に重要性を説く主張が支配的となり、救済を求める選手に対してさらなる萎縮効果をもたらすことがある。声を上げたことにより、プロから外されるのではないか、報復を受けるのではないか、こうした懸念により、スポーツにおける人種差別の「不可視化」はさらに進む。
スポーツ運営機関の規則や規制の対象となる人種差別の発現に対して救済を求めようとする選手は、複雑な法的プロセスに直面することがある。それら運営機関が設ける仲裁メカニズムや委員会は、大抵の場合、選手にとって最初の救済手段となる。特別報告者に届いた多くの情報は、これら機関の独立性と公平性、ならびに人権基準に関する知識とその一貫した適用について、深刻な懸念を示している。スポーツ運営機関で苦情が解決されない場合、国際仲裁機関であるスポーツ仲裁裁判所(スイス、ローザンヌ)に問題を持ち込むという選択肢がある。しかし、多くの関係者は、同機関が人種差別禁止を含む国際人権基準を一貫して適用しているのかということについて懸念を表わしている。特別報告者は、人種差別事件に関する同機関の判例が限られているという報告に懸念をもつ。
スポーツにおける人種差別事件はスポーツ運営機関によって対処されるべきか、それとも国当局によって対処されるべきか、その判断は場合によっては複雑になる。スポーツの場で起きた人種差別の中には、憎悪、差別あるいは暴力を煽動するヘイトスピーチなど、対処の責任はイベント開催国の適切な法執行機関に委ねられる事件もある。これまで、スポーツイベントで起きた人種差別的ヘイトスピーチに刑事制裁が適用されたことはあった。しかし、差別をうけたアスリートが、救済を求めるのに最も適切で実効的な手段について困惑するリスクは依然としてあり、それこそが不処罰につながる。
デジタル空間で発生するスポーツ関連の人種差別は、多くの場合、さらなる不処罰の壁で防御される。オンライン環境は説明責任が限定的な空間と見なされることが多く、匿名性によって抑制が弱まり、人種差別的なコンテンツの拡散が助長される。こうした力学は、特にオンラインプラットフォームが世界的な影響力を持つことを踏まえると、人種差別的な言説の常態化に寄与している。オンライン上の差別に対するスポーツ運営機関、公的機関、プラットフォーム運営者の責任は、依然として不確かなままである。スポーツにおけるオンライン上の人種差別に対する具体的な対処のメカニズムはほぼ欠如しており、ユーザーからの通報があるにもかかわらず、スポーツ関連の人種差別的なコンテンツは、ソーシャルメディアのプラットフォーム上に残されたままの場合もある。
(IMADR抄訳)
IMADR通信227号 2026/8/20発行