IMADR通信
NEWS LETTER
【報告】国連人種差別撤廃委員会事前質問事項(LOIPR)に関する政府との意見交換会
IMADR事務局
2026年6月17日、参議院議員会館にて、人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)が主催し、国連人種差別撤廃委員会の事前質問事項(LOIPR)に関する政府との意見交換会を開催した。意見交換会では、2025年12月に人種差別撤廃委員会より示されたLOIPRに沿って日本政府が2026年末までに提出する予定の第12-14回政府報告書に向け、市民社会からの課題提起や差別の被害者の声を届けることを目的とした。
当日は、各省庁の担当者、国会議員、およびERDネットに関わる団体のメンバーが参加し、多岐にわたる人権・差別課題について質疑応答が行われた。2018年の審査以降、勧告が示す問題の多くが放置されマイノリティの現状が悪化しているという強い危機感のもと、政府側の現状認識を問い、実効性のある対策と、充実した報告書の作成を求めた。
外国人の社会保障・労働実態(LOIPRパラ13、28、30、31)
厚生労働省に対して、SNS等で拡散される「外国人は生活保護を受けやすい」といった根拠のないデマへの対策や統計データを求めた。厚労省側は、国籍による優先はなく日本人と同要件であることをHPのQ&A等で発信し啓発に努めていると説明した。在留資格別のデータについては、生活保護に関する被保護者調査の項目になく、未把握であると回答した。無保険の外国人に対して本来の医療費の200%〜300%にのぼる法外な医療費が請求されている問題に対しては、自由診療であるため診療価格は医療機関の裁量だとしつつ、約5600病院の約14%が、通常の1点10円を超える診療価格を設定していると答えた。ERDネット側からは、通訳等が不要な場合でも高額な請求が行われており、未払い防止を目的として困窮している患者の排除が起きていると指摘した。
また、LOIPRで提起されている質問に対しては、外国籍住民の生活保護利用は権利として認められていないといった現状を踏まえ、審査での建設的な対話のために政府の措置が抱えている課題も含めて回答するよう求めた。
永住、定住する外国人の政治的・市民的権利(LOIPRパラ24、11、30)
特別永住者・永住者等の地方公務員や公立学校教員の採用実態について、総務省は外国籍に限定した統計や職種別の実態は把握していないと回答した。ERDネット側からは、これまでも人種差別撤廃委員会からデータ提出を再三求められてきた事実を重く受け止めるよう要求した。2023年改定入管法による難民申請中の送還件数について、入管庁は送還停止効の例外を適用し、2024年に19名、2025年に59名(うちトルコ国籍30名、スリランカ国籍12名)を強制送還したと回答した。そのうち、子どもの数についても回答を求めたが、未成年者の統計は取っていないと説明した。難民申請者が国民健康保険に加入できないなど、社会保障制度から排除されている現状について、ERDネットからは健康への権利の侵害であると指摘した。
民族的マイノリティの子どもたちの教育機会(LOIPRパラ29)
ERDネットからは、外国人学校への支援の実態、高校無償化からの朝鮮学校除外等の問題を指摘した。省庁側は、2025年5月時点の外国人学校数は125校で横ばいとし、公立学校では日本人と同等の教育機会を無償で保障しているが、外国人学校への補助金交付は各自治体の判断であり、国から直接再開等を要請することはできないとの見解を示した。ERDネットからは、「日本人と同等の教育」では民族的マイノリティの言語、文化、歴史教育の保障にはならず、こうした公教育の中で保障されていない課題をどのように捉えているのか、政府報告書の作成にあたって誠実に回答するよう求めた。
ヘイトスピーチ、ヘイトクライムに対する政府の措置(LOIPR10、18、19、21)
ERDネットからは、ヘイトスピーチ解消法に基づく具体的なガイドラインの作成やネット上の実態調査を強く要望した。法務省は、文脈等の総合的考慮が必要であるとして一律の解釈指針を示すのは困難だとしつつ、ネット調査では侮辱・脅迫・排除の3類型以外も含め幅広く事案を収集・分析する予定であると述べた。ERDネット側は、明白な差別言動は前後の文脈や状況に関係なくそれ自体で特定できるとし、指針作成を改めて求めた。また、災害時の差別的デマに対しては政府や行政機関による即時発信を求めたが、法務省はSNSでの発信を行っていると述べるにとどまった。ヘイトクライムについても、刑事裁判で差別的動機が言及された事件等を踏まえ、組織的な方針による調査・対策を求めたが、法務省は個別の検察官が同種事案の収集・分析を通じて対処していると回答した。
部落差別の問題に関して(LOIPRパラ2、12)
ERDネットからは、地方交付税の算定基礎等を用いた被差別部落の実態調査の統計数値を求めたが、総務省は2001年までは、特別交付税で、同和関係人口や同和地区数を算定して交付を行っていたが、地対財特法が失効し、地方交付税でそのデータは使わなくなり、今は手元にないと回答した。また、条約上の「世系(descent)」について、外務省は人種や民族的出身に着目した概念であり、社会的出身である部落問題は含まれないとの従来の解釈を維持した。ERDネット側は、「世系」は「皇統譜」など血統を示す概念として使われており、本籍地と氏に関連する部落問題を含むべきだと解釈の変更を求めた。さらに、戸籍の「本籍地」が要配慮個人情報に該当するかについても、法務省は非該当であると説明し、ERDネットからは差別に直結する情報への認識が不足していることを指摘した。
国内人権機関の設立(LOIPRパラ9、41)
パリ原則に沿った政府から独立した国内人権機関の設立について、法務省は過去の廃案の経緯も踏まえ「不断に検討している」と答えるにとどまった。ERDネットからは、世界の多くの国に設置されており、民間でも必要性が広く認識されている現状の早急な改善を訴えた。
「複合差別」の観点(LOIPRパラ36、37)
部落、アイヌ、在日コリアン女性など複数の属性が重なる「複合差別」について、包括的な視点からの調査や研修を求めたが、法務省は個別の事案ごとに多面的・多角的な視点で対応しているとの見解を示した。ERDネットからは、政府の男女共同参画社会や人権教育・啓発などの基本計画に複合差別の視点が乏しく、深刻な被害実態が理解されていないと危惧を表明した。
琉球/沖縄の人々への健康への権利(LOIPRパラ33)
米軍基地周辺で検出されたPFAS水質汚染に対し、沖縄県は浄水場に高機能活性炭を導入しているが、国からの更新費用補助は得られていない。防衛省は、既存の補助は米軍への安定的な水の供給を目的とした民生安定施設整備事業であり、PFAS対策目的ではないと説明した。ERDネットからは、汚染源の可能性が高い米軍基地への県の立ち入り調査再申請に対し政府の具体的措置を求めたが、防衛省・環境省は「関係省庁と連携して協力する」と述べるにとどまった。また、普天間飛行場代替施設の緊急時滑走路について、防衛省は新田原・築城基地での整備を挙げつつ、事態に応じた緊急対応を想定しているため、具体的な内容を定めることは困難であると説明した。ERDネット側は、明確な代替施設が定まらない場合、将来的に那覇空港が使用される懸念を強く示し、米側との具体的な合意形成を求めた。
閉会にあたり、ERDネットからは、2018年の委員会からの総括所見に対して根本的な改善が見られないことへの強い懸念を示した。また、在留資格手数料引き上げ、永住資格取り消し制度導入など、この間、急速な勢いで進む政策決定において当事者の声を直接ヒアリングする必要性を強調した。政府報告書の作成に向けて、委員会の事前質問に対し、具体的なデータと課題認識を含んだ実効性のある政府報告書が提出されることを強く要請し、意見交換会を締め括った。
本記事の事前質問事項(LOIPR)の日本語訳全文は、IMADRのウェブサイトから閲覧できます。
IMADR通信227号 2026/8/20発行