IMADR通信
NEWS LETTER
深海鉱物開発にモラトリアム 先住民族ネットワークが要請
採掘産業・エネルギーに関するアジア先住民族ネットワーク(AIPNEE)注1は2026年7月7日、世界37カ国の先住民族組織、市民社会・環境団体、および32名の個人を代表して、国際海底機構(ISA)注2およびその加盟国に対し、深海鉱物資源開発(DSM)のモラトリアムまたは予防的な一時停止を求める共同書簡を提出しました。この書簡は、2026年7月13日から31日まで開催されたISA加盟国会議に先立ち提出されたものです。
日本からは、拙速な深海鉱物資源開発に反対し、先住民族の権利を支持する立場から呼びかけに応じたアジア太平洋資料センター(PARC)と、PARCの呼びかけを知ったIMADRが、この要請に賛同しました。AIPNEEはウェブサイトでこの要請について以下のように報告しています。
書簡では、先住民族、科学、国際法の視点から、なぜ深海鉱物資源開発(DSM)のモラトリアムあるいは予防的な一時停止が不可欠なのかに力点を置いている。
さらに、先住民族は世界の陸地と海域の25%を管理・保全していること、そして沿岸部の先住民族は、海を「母、祖先、親族、あるいは命ある繋がり」という独自の捉え方をしており、それゆえ、海は、文化的なアイデンティティ、統治システムそして管理・保全の伝統の基礎となる互恵的関係と系譜的つながりのネットワークの一部であると強調し、次のように述べた。
先住民族は慣習上の沿岸・海洋領土の権利保有者であり、海洋環境の持続可能な管理者として行動する知識の保有者である、それゆえ、海上における搾取的な活動による影響を、最前線で最も直接的かつ深刻に受ける存在である。
深海鉱物資源開発(DSM)は、沿岸の先住民族コミュニティに現実的で潜在的な脅威をもたらす。すなわち、DSMは、廃棄物、騒音、採掘に伴う攪拌により、生物多様性を脅かし、伝統的な漁法による収穫を低下させる恐れがある。それは、先祖代々暮らしてきた生活拠点からの都市部への望まない移住を招くかもしれず、最終的には「先住民族の権利に関する国連宣言」を含む国際法に規定された先住民族の自己決定権をはじめとする諸権利に対する脅威となる。さらには、国連海洋法条約(UNCLOS)に基づく公平性の問題を引き起こすかもしれない。
各国政府、市民社会、先住民族組織は、国際自然保護連合(IUCN)などの国際機関において、先住民族の自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)が得られるまで、あるいは得られることを条件として、DSMのモラトリアムを求める決議を圧倒的多数で採択してきた。しかし、採掘企業はDSMの探査を積極的に拡大させている。そのため、今、深海とそれに依存するすべての人々を守るために団結することが、かつてないほど重要となっている。
私たちは、深海鉱物資源開発(DSM)のモラトリアムまたは予防的な一時停止をすでに公に支持している43の国際海底機構(ISA)加盟国を歓迎する。そして、ISAおよび支持を未だ表明していない加盟国に対し、書簡にて次のように要請した:
1.支持を未だ表明していない加盟国に対し、直ちに公に支持を表明し、ISAにおいてDSMのモラトリアムまたは予防的な一時停止が実施されるよう確保することを求める。
2.ISAに対し、組織内に先住民族諮問機関を設置し、DSMおよび広範な海洋ガバナンスに関する世界的な対話において、先住民族が包括的かつ有意義に関与できる場を創出することを求める。
海洋ガバナンスは国際法に基づいていなければならない
清潔で健康的かつ持続可能な環境に対する人権に関する特別報告者、先住民族の権利に関する特別報告者を含む6人の国連特別報告者と、ビジネスと人権作業部会の5人の専門家は、各国に、新たに深海底を規制する規則を作る際は、国際人権法を含む国際法に厳格に根ざしたものにすること、そして予防原則を実施するよう求める以下の声明を出した。(OHCHR news 2026/02/24より)
「深海を産業開発のための空き地のように使ってはならない。深海には地球上で最も傷つきやすく、まだ十分に把握されていない生態系が広がっている。国際司法裁判所(ICJ)と国際海洋法裁判所(ITLOS)が最近出した勧告的意見に示されているように、各国は、国際法と人権法に基づき、深海やそこに関係する人びとを守る責任を負っている。いかなる規制の枠組みも、環境と気候システムを保護し、人権および環境への被害を防止するという各国の法的拘束力のある義務を反映したものでなければならない。
また、国連ビジネスと人権に関する指導原則に基づき、企業にも環境および気候システムの保護、ならびにそれらが人権に及ぼす影響に関して義務と責任がある。
深海には、推定100万種にのぼる海洋生物の大部分が生息しており、地球規模の生物多様性を支えるとともに、地球最大の炭素吸収源を構成している。それゆえ、気候調節においても極めて重要な役割を果たしている。
さらに、重要鉱物の争奪戦と結びついた深海採掘は、環境、気候、人権の面で深刻なリスクをもたらす。科学的研究により、こうした採掘は、海洋生物多様性に深刻で潜在的に不可逆的な損害を与え、有毒汚染物質を拡散させ、海底の生息地を破壊し、蓄積された炭素を放出させ、海洋の炭素固定プロセスを阻害する可能性があることが示唆されている。さらに、採掘作業は極めてエネルギー集約的であり、温室効果ガスの排出に加勢することで、気候危機と人権への影響を悪化させる。
深海に対する脅威は人権に対する脅威である。先住民族、小規模漁業者、沿岸コミュニティは、そのサバイバルを健全な海洋に預けている。食料、健康、そして安全な気候や健全な生態系・生物多様性を含む健全な環境に対する権利、さらには文化的権利など、これら人びとの人権の享有が危機に瀕している。
深海底のガバナンスは、透明性、包摂、参加型、科学的根拠を確保し、将来世代にわたる人権保護を目的としたものでなければならない。人類に重大なリスクをもたらす海洋活動は決して許可されてはならない。深海底は人類共通の遺産であり、適切な管理のもと一貫して保護されなければならない。
注1 AIPNEEは、海洋を含む環境の公正かつ持続可能な保全を追求し、先住民族の権利の保護というミッションのもと結束するネットワーク。バングラデシュ、 カンボジア、インド、インドネシア、マレーシア、ネパール、パキスタン、フィリピン、スリランカ、西パプアに拠点を置く先住民族の権利擁護者およびその組織からなる地域プラットフォーム。https://aipnee.org/
注2 国際海底機構(ISA)は、国連海洋法条約(UNCLOS)に基づき、同条約のすべての締約国を構成国として、1994年11月16日に設立された。日本は設立以来、理事国を務めている。AIPNEEによる要請の時点では、アジア地域の加盟国はいずれもDSMのモラトリアムを支持表明していない。
* PARCの報告はこちらからご覧いただけます。
IMADR通信227号 2026/8/20発行