IMADR通信
NEWS LETTER
「共生」社会を目指す 韓国の市民社会組織と人種差別撤廃
キム・ジーニー
DUROO事務局長
韓国は、数十年にわたり「血族」という神話の上に国民的アイデンティティを築いてきました。日本にもそう信じたいと思っている方が多くおられるのではないでしょうか。しかし、現実は大きく変化しました。2025年現在、韓国には265万人を超える外国籍の居住者がいて、総人口の5%近くを占めています。わずか30年で、この数字は11倍以上に増えました。韓国はより活気にあふれ多様な国になりました。しかし、法制度や社会の意識は旧態依然としています。今日は、このギャップに挑み、人種差別撤廃のために闘ってきた韓国の市民社会の活動と役割についてお話しします。
人種差別撤廃条約と韓国
韓国が1978年に批准した人種差別撤廃条約は、国内における人種差別撤廃の重要な法的手段となってきました。政府は定期的に人種差別撤廃委員会に報告書を提出し、審査を受けてきました。私は2018年と2025年の2回、韓国審査に参加しました。ご存知のように、どの国であれ政府は往々にして現実を「美化」して報告します。韓国政府の報告書は外国人向けの文化体験プログラムや支援センターを強調していますが、私たち市民社会組織は、それは人権政策というよりは「同化」政策の一つであると主張しています。市民社会組織は重要な監視役として、いわゆる「シャドーレポート」を作成し提出してきました。
2025年4月、韓国の市民社会組織は一つになってジュネーブに行き、人種差別撤廃委員会に働きかけをしました。市民社会組織は、意図的とは言わないまでも、政府がしばしば見過ごしている生のデータや情報を持ち込みました。例えば、移民労働者や外国人が、コロナ・パンデミック時の政府災害支援金から系統的に排除されていた事実や、韓国政府の国内行動計画が、政治的な摩擦を避けるために、最近になって差別に関する表現を骨抜きにしてきた事実を明らかにしました。国連と直接対話をすることで、市民社会組織は、政府が隠そうとする構造的な欠陥を国際社会に示すことができます。
ここで出てくるのが「立法の空白」という最大の障壁です。韓国の国内法は人種差別をどう定義しているのか?残念ながら定義はありません。1981年以来、国連は韓国に対し包括的な反差別法の制定を繰り返し勧告してきました。20年以上にわたり、市民社会組織は制定を目ざし、通算11回国会に提出された法案を支持してきました。しかし、どれも可決には至っていません。その時の政治家たちの言い訳は「社会的合意の欠如」です。しかし、市民社会組織はこれに真っ向から異議を唱えています。韓国では、「社会的合意」という言葉は差別団体の盾として利用されてきました。包括的な法律がなければ、人種差別の被害者は正義を主張する法的足場を持つことができません。市民社会組織は、人権は合意や多数決の問題ではなく、国家が果たすべき普遍的な義務であることを証明しようと取り組んでいます。
入国管理と子どもの最善の利益
今日は、私が深く関わってきた分野である、入国管理における収容と移民の子どもたちの権利の問題についてお話します。これらの問題は、韓国における人権侵害の暗部を浮き彫りにしています。まず、入管の収容問題について話します。何十年もの間、入国管理法には収容期間の上限が定められていませんでした。私たちの粘り強い提言活動により、韓国憲法裁判所は、この慣行は違憲であると裁定しました。画期的な勝利です。その結果、9ヶ月(事例によっては20ヶ月)という上限が設けられました。最大収容期間が20ヶ月というのは決して満足いくものではありませんが、これは転換点とも言えます。人種差別撤廃委員会の審査に先立ち、韓国の市民社会組織連合は、特に移民収容に焦点を当てた専門的なシャドーレポートを提出しました。この報告書には、収容施設内での残忍な処遇を示す写真や、胸が締めつけられる移民の子どもたちの画像など、生きた証拠が含まれていました。国会審議において人種差別撤廃委員会からの度重なる勧告を引用することで、私たちは政府に行動を迫りました。今、私たちはこれらの上限規制が厳格に遵守されるよう行政を監視すると同時に、この非人道的な慣行を完全に終わらせるために「収容の代替措置」の確保に取り組んでいます。
次に、移民の子どもたちの権利と収容の禁止について述べます。最も悲劇的なのは、子どもでさえも収容の対象になっていることです。これは「いかなる子どもも移民を理由に収容されてはならない」という国際原則に違反しています。収容問題に加え、私たちは子どもたちの在留資格を求めて闘っています。韓国では、法的地位を持たない移民の子どもたちには―居住の年月やどれほど深く社会に根を下ろしているかに関わらず―合法的滞在の道が一切閉ざされています。子どもたちは、事実上、法の影に置かれてきました。この危機を国際レベルで明らかにするため、市民社会組織は、移民の子どもたちの権利に特化した報告書も提出しました。私たちは、安定した法的地位がなければ、これら「不可視化された子どもたち」の未来への権利は否定されていると強調しました。私たちは、優先すべきは移民の管理ではなく子どもの最善の利益であり、すべての子どもが、自分の唯一の場である家で安全に暮らし、成長する権利を保障されるよう求めています。
「均質」社会か「共生」の未来か
最後に、移民労働者と就労許可制度(EPS)について述べます。これは収容問題と密接に関連しています。転職の自由を持たない労働者は、酷い労働環境から逃げようとする途中に、しばしば違法な状態に陥り、その結果、収容と強制送還の悪循環に引き戻されてしまいます。市民社会組織は、この脆弱性の連鎖を断ち切るために就労許可制度の抜本的な改革を求めています。
私たちのこうした提言活動にもかかわらず、障壁は立ちはだかったままです。韓国の裁判官が国際人権条約を援用することは稀です。1979年から2019年の間、裁判所の判決において人種差別撤廃条約が引用されたのはわずか3回に過ぎません。収容関連の事件において、司法は一貫して、国際人権基準よりも行政上の便宜を優先させています。統計上の格差もまた大きな障壁となっています。韓国政府は、「均質」な社会という主張を理由に民族や人種に基づくデータの収集をしばしば拒否しています。しかし、実態が適切に把握されていない問題を解決することができないのは周知の事実です。収容施設内での虐待や子どもの成長の権利の侵害に関する公式データの欠如は、制度上の欠陥を覆い隠します。私たちは、戦略的訴訟や粘り強い提言活動を通じて、独立した調査とその結果の公開を求め続けています。
日本も韓国も人口減少と移民への依存度の高まりに直面しており、ともに重大な岐路に立っています。私たちは今後も移民を「他者」として排除し続けるのでしょうか、それとも人間としての共生の未来を受け入れるのでしょうか。突き詰めれば、弱者の置かれた状況こそが、その国全体の人権基準を測る真のバロメーターです。人種差別に立ち向かう韓国の市民社会組織の取り組みが、時代の同じ課題に直面している日本の皆さまにとって、何らかの意味ある示唆になることを願っています。
DUROOについて
難民、移民、障害者、子どもなど社会的に不利な立場にある人びとの人権を守るために、2014年9月に設立された韓国の公益弁護士団体
** 3月16日「人種差別撤廃の多角的アプロ―チ 国際協議」での発言より
IMADR通信226号 2026/6/3発行