IMADR通信
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気候危機の裏で進む現代奴隷 ─ 南アジア

気候危機はリアルである。2024年、世界の平均気温が産業革命前と比べ初めて1.5度を超え、同年5月や2025年11月にはサイクロンが南アジアを襲った。多くの人が家や仕事を失い、避難を余儀なくされ、搾取や強制労働といった現代的形態の奴隷制(現代奴隷)にさらされやすくなっている。南アジアでは世系に基づく差別が根深く残っており、気候変動によって社会から周縁化されてきた人びとがさらに危険な状況に追い込まれている。Anti-Slavery International と環境開発国際研究所(IIE)のレポート「気候変動、移動、現代奴隷」より、南アジアに焦点をおき、気候危機と現代奴隷の関係を考える。

南アジアにおける気候変動の影響と現代奴隷
南アジアでは、気候変動による異常気象により、熱波、干ばつ、洪水、サイクロンなどによる被害が深刻化している。この20年間で7億5千人以上がこうした災害の影響を受けている。その多くは農業や漁業に従事しており、気候変動は人びとの生活を脅かしている。作物の収穫量の減少、食料不足の深刻化、生計手段の喪失により、多くの人が農村から都市または国境をこえた移住を余儀なくされている。2050年までには、バングラデシュ、インド、ネパール、パキスタン、スリランカの5カ国だけで、約6,300万人が気候変動によって移住せざるをえないと予測されている。一方、貧困、支援の不足、身体的・精神的な困難など、さまざまな理由で移住したくてもできない人や、移住を望まない人もいる。
移住せざるをえない、または移住できない状況に置かれた人びとは、生き延びる手段として、「現代奴隷」に陥りやすい。現代奴隷とは、強制労働、強制結婚、債務労働、人身取引を含む私的または商業的利益のために個人を搾取するさまざまな形態のことで、南アジアではすでに少なくとも1,500万人が現代奴隷にさらされている。特に強制労働や債務労働に陥っている人の多くはダリットやいわゆる低カースト出身の人びとで、農作業、レンガ作り、手作業による排泄物処理(マニュアルスカベンジング)に従事している。気候変動はそうした既存の不平等や不正義をさらに拡大させ、人びとを現代奴隷に陥りやすい状況においやっている。
例えば、バングラデシュでは、サイクロン、洪水、干ばつによって農地が被害を受け、農村部で暮らす多くの人が移住を余儀なくされた。しかし、安全な越境手段が確保されていないため、人身取引業者のネットワークにはまって移住することも多い。人身取引業者は、そうした人びとの脆弱性につけこみ、債務労働の罠にかけるのだ。
またネパールでは、ダリットの多くが土地を所有しておらず、地主への借金返済のために債務労働を強いられている。食物に事欠いたり、劣悪な住環境により災害に対する脆弱性も高い。気候変動による移住や生計手段の喪失によって季節労働に頼るしかなく、インドで強制労働に従事させられることもある。
さらにスリランカでは、紅茶産業で働く大半はタミル人であり、19世紀にイギリス植民地下の南インドから農園労働者として連れてこられた人びとで、主にダリットの子孫である。特に女性が多く、今日でも低賃金や劣悪な住環境などの搾取に直面している。昨年のサイクロンによって、紅茶農園や農園労働者のバラックが壊滅的な被害を受けた。それだけではない。収穫量の激減により、このままでは不安定で危険な別の仕事に従事しなくてはいけない状況である。

不平等を拡大する気候危機と、私たちの選択
このように、気候危機は社会に根強く残る不平等や差別をさらに深め、社会から周縁化されてきた人びとを現代奴隷の危険性にさらされやすくしている。一方で、この気候危機を加速させているのは、私たち一人ひとりの生活や行動でもある。

IMADR通信225号 2026/2/26発行