IMADR通信
NEWS LETTER
IMADRアソシエイツに会いにいく
ビーナ・パリカリ
全国ダリット人権キャンペーン(NCDHR)事務局長、IMADR理事
Beenaについて
NCDHRの事務局長を務めるビーナ・パリカリは、連邦および州政府の政策決定にダリット女性の声が反映されるよう働きかけている。また、経済的公平性とジェンダー平等を重視した連邦政府の予算編成や財政運営を求め、毎年省庁交渉を行っている。アジア・ダリット権利フォーラムに参加し、女性の経済的エンパワメントをめざした活動を、インド、ネパール、バングラデシュ、スリランカのダリット女性たちと共に行っている。人権活動家でなかったらダンサーになっていたと語った
Q:今、インドのダリットが直面している課題は何でしょう?
制度的な壁は依然としてあり、多くのダリットは公的給付や公共サービスへのアクセスを制限されています。債務奴隷もなくなっておらず、サプライチェーンの下流にある企業でも差別的な慣行が行われています。暴力も横行しており、1年前には、9歳のダリット少年が他の生徒たちと同じ水差しから水を飲んだという理由で教員に殴られ死亡しました。しかし、世論は教員の暴力を責めるのではなく、逮捕されたことに抗議をしました。昨年の国の統計によれば、暴力事件は約57,000件起きていて、そのうち約7,000件がダリット女性に対する暴力(強姦など)でした。法律があるにもかかわらず、ダリット女性たちはその存在やどう活用できるのかを知りません。その一方で、加害者の大半はお咎めなしで放免されています。これは何十年も前から指摘されていますが、今も変わりません。特に女性は、ダリット(カースト)、女性(ジェンダー)、そして貧困(階級)に基づく差別の交差に深刻な影響を受けています。さらにそのコミュニティのなかに、性的マイノリティ、障害などにより差別にさらされている人たちがいます。
結婚:「インドにカーストなんて存在しない」、カースト差別やダリット差別について一般市民に尋ねると、たいていこのような答えが返ってきます。しかし結婚になると話は別で、ほとんどの人は同じカースト内での結婚を求めます。つい1ヶ月前も、支配カーストの女性と結婚したダリットの男性が女性の親族に殺されるという事件が起きました。男性は切り刻まれて殺されました。殺害をそそのかした人たちのなかに警察官がいたとも言われています。
学校:学校の給食調理員がダリットの場合、「うちの子には食べさせないでくれ」と言う親が多くいます。なかには、「調理員を解雇しろ。でないと子どもを学校に行かせない」と抗議する親がいます。教員のなかにもダリットの子どもに「後ろの席に座れ」と言うことがあります。子どもたちは幼い頃から周囲の大人からそういうふうに教え込まれ、差別意識を持つようになります。今、インドでは公立学校がどんどん閉鎖され、代わりに私立学校が増えています。これは私たちダリットにとって重大な問題です。大抵、ダリットの子どもたちは学費を払えないため私立には行けません。このまま私立への依存が続くと、公立学校はだんだんと細り、ダリットの子どもたちは教育からも見放されるのではと心配します。
就職:留保制度(特別措置)のもと、高等教育や公的機関ではダリットのための枠が用意されていますが、現在、その留保制度を理由とした反ダリット感情が高まっています。「お前たちはすべてを無料で手に入れ、大量の留保枠をもらっている」と言う反感です。
Q:こうした問題に政府はどう対応していますか?
女性の権利:たいてい、男性が女性を代表して女性に関する政策を決定しています。私たちは、ダリット女性の政策決定への参加を求める運動をしています。たとえば、2012年のデリーのバス車内で起きたレイプ殺害事件後、女性に対する暴力の被害者のための「ニルビャヤ基金」が設立されました。ダリット女性への暴力が増加しているにもかかわらず、この基金にはダリット女性のための枠はありません。ダリットへの暴力に対して、政府は、「で、どうした?法律があるじゃないか?」と答えます。国連に提出するインド政府の報告書は、常に、「ご存知の通り法律・政策がある」、「すべて順調だ」です。ダリットに対する暴力の実態を尋ねられても、「残虐行為防止法がある」と言うのが返答で、その法律が実際にどう運用されているのかについては言及しません。
全国ダリット人権キャンペーンは、「残虐行為追跡モニター(ATM)」というシステムを開発しました。他団体とも協力し、事件が発覚したら情報がアップロードされ、監視プロセスを経て処理・登録されます。例えば、登録された事件が警察に届け出られたものの受理されていない場合、このシステムから警察署へSMSが送信され、「当団体が事件を届け出たが、警察署はFIR(第一情報報告書)を発行していない」「起訴状が未提出である」などと通告をします。これは監視システムとして非常に優れており、2年前に政府に提案したところ、社会正義省が同様のシステムを採用し、省内に「残虐行為追跡モニター」を設置しました。これは評価すべきことです。私たちはシステム開発や庁内での導入面でも協力しました。しかし、それを使う側の意識が欠如しているため、普及は進んでいません。
効果的な実施の問題:警察官や福祉担当者も含めて、現場で法律や政策を施行する人びとにとって、ほとんどの場合、ダリットのための法律や政策は優先事項ではありません。むしろ、「ダリットには十分恩恵が与えられている。なぜさらに与える必要があるのか?」、「留保制度があり予算も配分されている。だから充分だ、それ以上に尽力する必要はない」というのが政策を実施する側の代表的な意見です。
Q:NGOの取り組みはどうでしょう?
警察官への啓発プログラムが必要です。ダリットの人権保護のために獲得してきた法律の施行を、警察官は怠ってはならないことを理解させるための教育が必要です。一方、私たちには、当事者自らが立ち上がり要求するようになることが求められます。コミュニティが声をあげればあげるほど、政府は「コミュニティが要求している」と認識します。ダリットを巻き込む事件の通報も増えてきました。ただ、最終的に有罪判決の結果に至るのはごく一部です。有罪判決の率が極めて低いという問題も私たちは訴えています。もしコミュニティが要求を続ければ、政府は、「コミュニティが要求している、より強い圧力がかかっている」と認識し、これらの法律がより効果的に施行されるようになると思います。
市民社会への圧力:NGOにとって、市民活動のスペースが縮小され活動への監視が強化されていることは大きな問題です。資金提供が打ち切られたり、活動許可がでなかったりするため、コミュニティへの支援継続が著しく阻まれています。10年、15年前なら、大臣の家の前で抗議し、直接面会することも可能でしたが、今はその道も閉ざされ、対話の場はなくなりました。約2万のNGOが海外から資金を得る許可を取り消され、多くの人権団体が閉鎖を余儀なくされています。単に人権活動を行っているというのが理由です。許可がなければ、資金を受け取れなくなり、活動もできなくなります。代替手段は皆無に等しく、ほとんどの団体は活動停止を余儀なくされています。
若者に託す希望:課題は多く、現状は厳しいです。しかし、この国の若者には希望があります。異カースト間の結婚が若者の間で増え、カーストの壁を打ち破ろうとしています。私の希望は、こうした若者たちが、私たちの世代では成し得なかった課題を引き継ぎ、闘い、変化に結びつけてくれることです。支配カーストや主流派の若者たちからの支援も増えています。これら若者はカーストをはじめとした差別の構造、抑圧や排除のシステムを打破しようとしており、ダリットの女性や男性との恋愛、結婚など、カーストを越えた関係を持つ人たちがいます。まだ数は少ないですが、こうした変化が確実に生まれていることを強調したいです。
(2025年12月15日)
インタビュー・文:白根大輔
IMADR通信225号 2026/2/26発行