IMADR通信
NEWS LETTER

『マイスモールランド ─引き裂かれる家族─』

監督・脚本 川和田恵真
制作年 2022年
上映時間 1時間54分

「あなたの難民申請は却下されました。この在留カードは今から無効になります」─入国審査官が、難民申請が棄却されたことをクルド人家族に冷たく伝える。
冒頭のシーンは、動画配信サイト「Netflix」などで配信されている映画『マイスモールランド』の一場面だ。難民申請を却下された外国人は、それまでの在留資格を失い、入管施設に収容されたり、あるいは「仮放免」という極めて不安定な身分に置かれる。この期間中は、居住地の県から他県に出る際に入管への申請が必要となり、働くことも一切認められない。もしそれらの条件に違反すれば、収容施設に再び収容される可能性があり、いつ解放?釈放?されるか分からない。まさに“生きているのに自由を奪われる”状態だ。
映画に登場する家族も、何か犯罪を犯したわけではない。トルコ本国で政府から迫害されていた主人公(女子高校生・クルド人)の父親が、日本に逃れてきた。ところが、難民申請が却下された途端に、在留資格を失い、不安定な立場に突き落とされた。学費や生活費を稼ぐために働いていたところ、警察官に身分確認を求められ、不法就労が発覚。父親は収容されてしまう。
もちろん、法律を守ることは重要だ。しかし、仕事をしなければ生活が成り立たないという現実がある。フィクションであるとはいえ、家賃の支払いに困った主人公が、友人に誘われて「パパ活」に手を染めようと葛藤するシーンは、制度によって若者たちがいかに追い詰められているかを痛感させられる。
罪を犯したわけでもない子どもたちの生活までもが、制度の冷酷さによって脅かされる。難民制度という名のもとに、一家が理不尽に翻弄されていく本作を、胸を痛めずに見ることはできない。
インターネットの掲示板では、「法律を破った外国人の自業自得だろ」「自分の国に帰ればいいじゃないか」といった声も散見されるが、なぜ彼らがこのような状況に追い詰められたのか、その背景に目を向けなければ、問題の本質は見えてこない。
そもそも、日本の難民認定制度は、世界的に見ても異常に閉鎖的だ。2023年、日本で難民申請を行った約13,000人のうち、認定されたのはわずか303人。認定率はわずか2.3%にすぎない(参照:出入国在留管理庁「令和5年における難民認定者数等について」)。
これはドイツ(約50%)、カナダ(約60%)など、難民保護に積極的な国々と比べると、極めて低い数字だ。つまり、日本は事実上、「難民を受け入れない国」と言っても過言ではない。
さらに、2023年6月に施行された改正入管法は、そうした閉鎖的な制度にさらなる冷酷さを加えた。従来は「難民申請中は送還を停止する」とされていたが、改正法では「3回目以降の申請には、難民と認める相当な理由がなければ送還可能」とされた。どれほど迫害を恐れていようが、命の危機があろうが、それを丁寧に審査する余地すら狭めてしまう内容だ。
制度の冷たさが、人の尊厳を奪っている。改正法の廃止が望ましいのは言うまでもないが、まずは日本政府が、彼らの「助けてほしい」という切実な声に真正面から向き合い、制度の運用に人道的な柔軟さを取り戻すことが求められる。命より法律を優先するような制度であるならば、私たちの社会の在り方自体が問われているのではないか。
先日の国政選挙などで排外主義を唱える新興政党などが蔓延る中、在日外国人の方がおかれている現状などに関心のある方にぜひ見ていただきたい作品だ。私たちも海外に行けばその国では外国人だ。自分の身に置き換えてみることで決して他人事には思えない作品であると思う。

IMADR通信224号 2025/11/21発行