IMADR通信
NEWS LETTER

ハーバート・ホイスさんに聞く ドイツ、スィンティ・ロマの多様な状況

ー IMADRアソシエイツに会いにいく

今号から始まった「IMADRアソシエイツに会いにいく」。その第一弾は早くからIMADRメンバーであるドイツ・スィンティ・ロマ中央委員会で長年にわたり国際連帯を担当したハーバート・ホイスさんです。世界では特に人種的マイノリティに対するヘイトスピーチや排外的な攻撃が拡大しています。ドイツにおいても、スィンティやロマは従来以上にそうした差別にさらされています。ドイツの現状についてホイスさんに約60分のインタビューを行いました。その要約を報告します。聞き手は白根大輔(IMADR国際プログラム上級アドバイザー)です。

Q:ドイツのスィンティとロマの人口は?
ドイツには民族別の人口統計はないため、スィンティやロマの人口は正確にはわからない。ドイツ・スィンティ・ロマ中央委員会は、昔からドイツにいるスィンティは推定8万人、ロマは推定2~3万人と考えている。スィンティの間では、我々は600年以上も前からドイツにいるから「土着マイノリティ」だと主張する人もいる。これに加えて、ドイツ国外から移住してきたロマがいる。70年代に旧ユーゴスラビアから労働のために移住してきたロマは15~30万人いると思われる。この集団は2、3世代に渡りドイツに住み、多くはドイツ国籍を得て社会に統合し「成功している」。しかし、特に古い世代の多くはあえて我々はロマだとは主張しないようだ。この他、80年代、90年代以降にもコソボやルーマニア、ブルガリアから多くのロマが移住してきた。ここ数年はウクライナ難民の中にロマが含まれている。これら異なる背景のロマを合計すると、50万人近くになるだろう。

Q:スィンティやロマの生活状況は?
多様であり、誰もが差別や人権侵害を受けているわけではない。教育を受け、仕事に就き、「社会で成功した」人たちも大勢いる。アイデンティティを隠している人もいれば、若者を中心にロマというアイデンティティやルーツを明らかにしている人もいる。極度の貧困や露骨な差別に直面している人もいる。労働のために移住してきたロマの中には、労働搾取や人身取引に近い犯罪の被害にあっている人もいる。報道や報告されていない差別事件も多くある。

Q:差別や人権侵害に対する政府の対応は?
政府が個々の問題を把握し、その背景にスィンティやロマに対する構造的差別の存在を問うという基本的な姿勢が、ドイツやEUにはある。問題の認識は調査につながり、その結果に基づいて適用する政策や機関あるいは基金等が準備されている。ドイツでは、国および州レベルでそうした体制が整っている。だからこそ市民社会にはそれらの資源を活用する能力が求められる。

Q:マジョリティとの連帯は?
マジョリティの役割も重要だ。差別をするのも、排他的・差別的な構造を作ったのもマジョリティだ。だからこそ、マイノリティと協力し、差別に立ち向かわなくてはならない。しかしそうした「協力」や「連携」は簡単ではない。マジョリティ側の人間として、スィンティやロマの運動に長年関わってきた私にはよくわかる。政府の助成金を使ってスィンティやロマのために活動している支援団体は、当事者団体から、「我々から仕事や資金を横取りしている」と非難されることがある。部外者と関わることを頑なに拒む当事者団体もある。資金や主導権をめぐって、団体間の「競争」や衝突もある。運動は一枚岩ではない。
極右が台頭し、マイノリティの状況はより複雑で困難になると懸念される。今ある資源を最大限活かして反差別を進めていくためには、「強くまとまった声」が必要だ。スィンティやロマが直面する問題は多様であり、当然ながら意見もさまざまだ。一方、運動がそうした多様性や違いをうまくまとめることができず、それぞれが自分たちのことを優先させたら、「分裂してしまう」。そしてバラバラになったら「マイノリティは弱体化してしまう」。そんな課題に今、ドイツのスィンティ・ロマの運動は直面している。

インタビュー・文: 白根大輔

IMADR通信224号 2025/11/21発行