IMADR通信
NEWS LETTER
【報告】第34回ヒューマンライツセミナー
IMADR事務局
10月27日、第34回ヒューマンライツセミナー「やっぱり必要!国内人権機関 ― ビジネスと人権の視点から」を中央区立銀座ブロッサムにて開催した。寺中誠さん(元アムネスティ日本事務局長、東京経済大学講師)を講師に迎え、420人が参加した。
開会に先立ち主催者を代表して、西島藤彦(IMADR 専務理事)が次のように挨拶をした。国内人権機関の設置を市民運動は長年求めてきた。ビジネスと人権の課題のもと、人権デューディリジェンスが進められてきたが、問題は多数残る。狭山事件に示されるように、権力に有利となる法整備が改善されていないため、多くの人権課題が生じている。政府から独立し、被害者の視点に立って実施される救済が必要である。以下、セミナーの概要を報告する。
国内人権機関は人権を守るためのものである
国内人権機関は、国際的なメカニズムとして機能し、国際的なネットワークとして動く。そうである以上、本来はすべての国が主体的に設置しなくてはいけない。国内人権機関の役割は人権を守ることであり、ビジネスを守ることではない。パリ原則で定められている国内人権機関の機能は政策提言(監視)、国際協力、調査・研究・広報、個別救済機能(補完的)である。中でも重要なのは政策提言だが、日本では、廃案となった人権擁護法案を含む3つの法案は、その機能を政策提言ではなく「意見の提出」に留めた。
これら機能を果たすために、国内人権機関には独立性と多元性が求められる。独立性は、政権からの影響との葛藤に直面しやすい国内人権機関にとって、最も重要で難しい要件である。多元性は、当事者抜きで話が進まないよう、社会のさまざまな構成員を反映した参加、代表を確保することを要求している。
国内人権機関とは別に、ビジネスと人権の苦情受付窓口として「OECD 多国籍企業行動指針」のもと国内連絡窓口(NCP)がある。ビジネスに関してはNCPがあれば十分だという意見があるが、政府の府省だけからなる日本のNCPは独立性がなく、問題解決に向けた手段や権限をもちあわせていないため、十分機能しない。かつてカナダ・アルバータ州において日本の製紙各社による大規模な森林伐採が進み、先住民族の権利侵害が起きた。そのとき、カナダのNCPが日本のNCPと連携を試みたが、日本側に進展がなかったため、結果、カナダ国内で先住民族の権利をめぐる訴訟となり、日本の製紙産業は大きく評判を落とした。問題解決手段として国内人権機関を設置する必要がある。
市民が動けば人権は前進する
「なぜ日本に国内人権機関ができないのか?」、参加者から多数だされた質問であった。それに対して寺中さんは次のように答えた。
東アジアでは、韓国、台湾、モンゴルに国内人権機関があるが、中国、朝鮮民主主義人民共和国、日本にはない。韓国と台湾では、市民社会からの強い働きかけがあり実現した。日本に対しては国連をはじめ外からのプレッシャーはあるが、なかなか前に動かない。台湾は国として認められていないため、逆に国連などからのプレッシャーはない。台湾の市民はそうした立ち位置を逆手にとって、「国として認められていないけれど、私たちにはある。そう国際的に誇れるよう、国内人権機関を作ろう」と、市民社会が働きかけた。韓国も、時の政権の影響を受けて国家人権委員会の存在が歪められそうになったとき、市民が抗議のプラカードをもって一人でデモをした。それが広がって大きな声になったことで持ち直した。
市民一人ひとりが声をあげ、つながり、道を切り開いていく。重要なメッセージを共有して、ヒューマンライツセミナーは閉会した。
IMADR通信224号 2025/11/21発行