IMADR通信
NEWS LETTER
映画の紹介『ソマイア・ラミシュ詩集 私の血管を貫きめぐる、地政学という狂気』
山田 直保子
カトリック大阪高松大司教区 シナピス
Somaia Ramish
編訳:岡和田晃
2024年11月
2021年8月15日、米軍撤収後にタリバンがアフガニスタン全土を実効支配して以来、国民、とりわけ女性の権利を過剰に制限する政策が敷かれるなかで、ヘラート州議会議員であり、詩人であるソマイア・ラミシュさんはオランダに亡命しました。2023年1月、タリバンによる詩作が禁止されると、ソマイアさんは全世界の詩人に連帯を呼びかけました。2023年12月、日本に招かれたソマイアさんは、横浜で開催された『アフガニスタンと日本の詩人による知性対話』で、次のように述べました。
「アフガニスタンでは若い女性は学校へ行く事が許されない。着るものの色を選ぶこと、幸せの表明、笑顔や希望までが禁止されてしまっているのです。」
「女性が組織的に排除されている、女性を性奴隷とし、人間としてのアイデンティティを完全に奪い去るシステム。不幸なことに我々は、暴力や戦争、差別の常態化に直面しています」
(詩集から抜粋)
この本を開き、最初に彼女の詩に触れたとき、いきなりとても気分が重くなったというのが正直な思いです。戦争や紛争を経験したことがなく、想像でしか考えられない私にとって、言葉がとても重く心の中に入ってきたからです。でも読むことをやめられませんでした。私はシナピスで戦争を忘れてはいけないと言い続けています。だからこそ、平和な日本で育って、危険な目にあったことのない日本人が、読むべき本だと思います。女性というだけで何もかも制限され、自由がないアフガニスタンの女性のことを知り、声を上げていくことが私たちに与えられた使命です。でも、女性としての喜びや純粋な気持ち、私たちと同じ人間なんだなと思える愛らしい一面が見える詩があり、救われました。
私もアフガニスタンの女性と仲良くなったことがあります。支援者と当事者という立場でしたが、支援者の私のほうが助けられていたことが多々ありました。私たちが体験したことのない苦しみを経験し、苦労して生きてきて、その強さと優しさがあるのではないかと感じさせられています。そしていつも光が見えているのです。辛いことよりも希望を口にする彼女は、そうせざる得ない環境で生きてきたからこそ光に包まれ神々しく生きていました。「肉片が飛び散っている場所から逃げた」と彼女からアフガニスタンの現状について何度も話を聞いてきた私は、この20篇の詩を読んで、言葉をとても大事にしている作者は、言葉で世界に発信し、言葉で抵抗し、言葉で抗議する強さをもっていると感じました。
アフガニスタンでは、日常生活で強い差別や弾圧にあいながらも、詩を詠んだり作られたりしてきました。詩が生活の中に溶け込んでいる社会では、詩は優れて政治的な意味を持つことがあり、そのため禁止されてきました。抑圧者は常に詩の力を恐れているという言葉は、いかに詩(言葉)が影響力を持つかを教えてくれます。
最後に心に響いた詩の一篇を紹介します。
「私の詩とは発見でも、比喩でも、幻想でもなく、ただこう言っているだけ。
わたしはアフガニスタンから来た。そして、あなたたちは悲鳴をあげている」
この詩はとても深く、解釈は人それぞれ違うでしょうが、厳しい現実を言葉に乗せた、祖国への想いや、無関心な私たちへの怒りも読み取れます。
私と同じ女性、同じ感覚をもつ女性が、愛しい祖国を大事に思い、大事だからこそ抵抗し、居続けることができなかった虚無感と闘いながら、祖国を誇りに想っていることが胸に刺さりました。誇り高きアフガニスタン女性の詩に触れてみてはいかがでしょうか?
IMADR通信223号 2025/8/20発行