IMADR通信
NEWS LETTER
【報告】IMADR第37回総会を開催
IMADR事務局
第1部:総会
2025年6月9日午後1時より2時45分まで、IMADR第37回総会を日比谷図書文化館コンベンションホールで開催した。始めるにあたり、去る3月11日、無念のうちに亡くなった石川一雄さんに参加者一同より黙祷を捧げた。開会の挨拶で、組坂繁之共同代表理事は、「戦争が続き、世界では深刻な人権侵害が起きている。自国の利益だけを考えるリーダーが増えている。平和を唱えることは無力ではない。戦争は最大の人権侵害である。戦争に反対し、人権を守りぬこう。」と述べた。その後、1号から9号まで、各議案が提案され、それぞれ満場一致で採択された。昨年度は「包括的反差別法」の概要を広める活動に力を注いだことが報告された。今年度はそれを具体化する活動に取り組むと同時に、人種差別撤廃条約採択60年、日本加入30年の機会を捉えて、差別撤廃にさらに取り組んでいく。2025年3月末時点でのIMADRの会員は、団体正会員16、個人正会員30、団体賛助会員37、個人賛助会員87である。総会には団体あるいは個人会員として87人が参加した。
第2部:記念講演「ビジネスと人権―マイノリティの視点から」
尾家康介さん(弁護士、IMADR特別研究員)の講演を以下要約して報告する。
「国連ビジネスと人権に関する指導原則」は、人権を守る国家の義務、人権を尊重する企業の責任、救済措置へのアクセスを3本の柱にしている。決して「ビジネスと人権」という新しい分野ができたわけではない。では何が新しいのか?ビジネスのグローバル化に伴い、公権力による人権の保障という関係だけでは捕捉できない人権侵害が拡大していった。1990年代のナイキが一例である。同社の製品を作るアジアの工場での劣悪な労働環境が国際問題になったが、ナイキはその責任を回避しようとした。当時、企業はそれぞれの国の法律さえ守っていればよいとされ、グローバルな企業活動を実効的に規制する制度はなかった。そうして、2005年に国連から任をうけたジョン・ラギーの提案による「ビジネスと人権に関する指導原則」が2011年に採択された。指導原則の国内実施を促す要請に応じ、日本政府は「『ビジネスと人権』に関する国内行動計画(2020 – 2025)」を策定し、企業が尊重すべき人権として、労働(ディーセントワークの促進)、子どもの権利の保護・促進、新しい技術の発展に伴う人権、消費者の権利・役割、法の下の平等、外国人材の受け入れ・共生を掲げた。
昨年、私が参加した第13回国連ビジネスと人権フォーラム(ジュネーブ)や国連責任のあるビジネスと人権フォーラム(バンコク)では、気候変動、オンラインでの人種差別、先住民族の土地に対する権利、グローバルサプライチェーンにおける職業と世系に基づく差別、LGBTI+、子どもの権利と企業の責任、移住労働者の権利侵害の救済など、多岐にわたる分野で議論が行われており、日本と国際潮流とのギャップを感じた。日本にもそうした問題はあり、国連ビジネスと人権作業部会訪日調査(2023年)において、健康、気候変動、被差別部落出身者への差別、アイヌ民族とサケ漁の権利制限、メディアとエンターテイメントなどさまざまな問題が明確にされ、勧告が出された。
政府は法律がカバーしている人権問題はビジネスと人権の領域においても取りあげるが、それ以外は施策として取りあげていない。それらには、先住民族の権利、移住労働者の権利など、マイノリティが直面している人権問題が含まれる。企業の皆さまには、「知らない人権問題」「気づかない人権問題」がありうるという意識をもっていただきたい。そして、「各企業が人権を尊重する」ことが根本的な解決になることを忘れないでいただきたい。
IMADR通信223号 2025/8/20発行