IMADR通信
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【報告】参議院選挙にあたり排外主義の煽動に反対するNGO緊急共同声明に関する記者会見

現在、日本社会において急速に外国人への不信感、敵視が広まり、6月におこなわれた都議選でも選挙運動として排外主義が煽動され、「日本人ファースト」を掲げる政党が議席を獲得した。そのような状況のなかで畳みかけるように、7月20日に投開票がおこなわれた参議院選挙の選挙期間に入ったが、各党が選挙公約として「違法外国人ゼロ」や「外国人優遇政策の見直し」を掲げるなど、排外主義を競い合う様相を呈した。

極めて深刻な状況であることを鑑み、人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)を含む8団体が呼びかけ団体となって「参議院選挙にあたり排外主義の煽動に反対するNGO緊急共同声明」を発出し、団体賛同を募った。
7月8日、衆議院第二議員会館多目的会議室にて、その共同声明を発表する記者会見を実施し、呼びかけ団体である、NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク、外国人人権法連絡会、外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会、人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)、全国難民弁護団連絡会議、一般社団法人つくろい東京ファンド、一般社団法人反貧困ネットワーク、フォーラム平和・人権・環境(平和フォーラム)の8団体から、代表者が出席し発言をおこなった。会見には会場・オンライン合わせて180名あまりが参加した。記者会見の様子を報告する。

外国人人権法連絡会の師岡康子さんは、参議院選挙にあたり、外国人が優遇されている、外国人が治安を悪化させているなどのデマに基づいて、日本社会に外国人・外国ルーツの人たちに対する激しい排外主義が急速に拡大していることに強い危機感を持っているとし、外国人・外国ルーツの人びとが置かれている厳しい状況を直接知っているNPOやNGOが声を届けなければならないと考え、共同声明を出したと説明した。また、2023年の夏以降、埼玉県南部に居住するクルド人へのヘイトデモ・ ヘイト街宣が毎月のようにおこなわれ、インターネット上では連日、「殺せ」などを含むヘイトスピーチが溢れる深刻な状況があること。そして、クルド人の子どもがスマートフォンで無断撮影され、「万引きをした」などのデマとともにネット上に動画をアップされる、公園で子どもたちが遊んでいるところで暴力を振るわれるといったヘイトクライムもおこなわれ、保護者の方々が心配して子どもたちを外で遊ばせないようにしている、といった過酷な差別の状況を伝えた。そのような中、参議院選挙では「違法外国人ゼロ」、「外国人優遇策の見直し」、「日本人ファースト」が掲げられるなど、各党が排外主義的な政策を競い合っている状況だとした。また、選挙運動の名のもとに、「黒人の人やイスラム系の人たちが集まっていると怖い」、「外国人労働者は日本人の物を盗む」などの露骨なヘイトスピーチもおこなわれていると指摘した。そして師岡さんは、外国人が優遇されているというのは根拠のないデマであると強調した上で、「日本人ファースト」というスローガンは、外国人というだけで「ファーストではない」、「蔑ろにしていい」というメッセージを含んでおり、排外主義につながると批判した。また、政府や国会などの公的機関は、人種差別撤廃条約に基づいてヘイトスピーチを始めとする人種差別を禁止し、終了させ、さまざまなルーツの人びとが共生する施策をおこなう義務があるとし、各政党・候補者に対し、「直ちに排外主義キャンペーンをやめ、排外主義を批判すること」、また政府・自治体に対して「選挙運動におけるヘイトスピーチは許されないこと」を徹底して広報することを強く求めると語った。

移住者と連帯する全国ネットワークの鳥井一平さんは、まず、多くの人に事実を知ってほしい、と言い、どのようにデータを見て「国民健康保険のタダ乗り」や「犯罪が多い」といったことが語られているのか、と疑問を呈した。鳥井さんは、国民健康保険の加入者に占める外国籍者の割合は4%(2023年3月)である一方、支出されている医療費は1.39%(2023年3月〜2024年2月)であるというデータを示し、外国人労働者は保険料を「払いっぱなし」になっている状況があると指摘。日本語が堪能ではないなど、さまざまな事情から気軽に地域の病院を利用できずに、薬局で薬を購入するなどしてやり過ごしている人が多くいると語った。また、鳥井さん自身も外国人労働者に「せっかく保険料を払っているのだから病院にいったほうがいい、もったいないよ」と声をかけることもあるというが、受け付けてくれる病院がないのが実態であるとした。こうしたミスマッチが起きているのは「歪んだ移民政策」に原因があるとし、日本社会では労働者の受け入れと多民族・多文化共生が別のものとして議論されていると指摘。「移民政策をとる、とらないではなく、現にいま移民がいる」と語り、日本社会はすでに外国人や移民なしでは回らないと強調した。そして、SDGsやビジネスと人権の行動計画などに真正面から取り組む必要があること、また、人びとが求めているのは「ヘイトの社会」ではなく違いを尊重する社会であり、その声を反映することこそが政治の責任だと訴えた。

つくろい東京ファンドの大澤優真さんは、冒頭、選挙に乗じて語られている「外国人問題」は、「あることないことというよりも、ないことばっかり、嘘ばっかり」であり、デマだということを強調し、「外国人の方が生活保護を受けやすい」といった声について、制度上あり得ず、統計上は在留外国人の半数以上が生活保護の準用措置を利用することができないと指摘した。また「外国人が生活保護を目当てに日本に殺到している」というネット上での主張についても、統計上は生活保護の利用者は減少傾向にあり、誤りだとした。大澤さんは、議論は開かれているべきだとした一方で、デマが元になっている議論はすべきでないと釘を刺し、それが許されれば社会を壊すことにつながると懸念を示した。そして、事実に基づいた冷静な議論と報道をするよう呼びかけた。
このNGO緊急共同声明には、記者会見の段階で260を超える団体からの賛同が寄せられ、7月17日の締め切りの際には団体賛同は1143団体となった。また7月

18日、声明本文と賛同団体の一覧を各政党と日本政府に提出している。
声明本文と賛同団体はwebサイトを確認されたい。

IMADR通信223号 2025/8/20発行