IMADR通信
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死刑制度と人権

2025年2月24日から4月4日まで開催された国連人権理事会第58会期で死刑制度と人権の向上に対する司法の貢献に関するパネルディスカッションが開催された。この中で国連人権高等弁務官である、フォルカー・テュルクは「死刑制度は21世紀にはあってはならない行為だ。犯罪学者や専門家たちは、死刑制度が無実の人々の処刑につながることを疑う余地なく示している」と発言し、死刑廃止の動きは世界的に勢いを増しているとした。さらに高等弁務官は、死刑制度は自国の主権に属すると主張する国も多いが、彼の立場からすれば、それは人間の尊厳や生きる権利と相容れないものであり、国連は政策として、あらゆる形で死刑制度に反対している、とした。

死刑廃止の動き
死刑を廃止する国は増加の傾向にあり、アムネスティ・インターナショナルによれば、2024年、死刑執行を行なった国は総数15で、2年連続最小となっている。また国連総会では2007年から死刑執行停止に関する決議が定期的に採択されているが、この決議を支持する国は増加し続け、最近、2024年12月に10度目の採択を迎えた決議には、アンティグア・バーブーダ、ケニア、モロッコ、ザンビアの4か国が初めて賛成票を投じ、国連加盟国の3分の2以上が明確な支持を表明した。ちなみにザンビアは2023年に死刑を廃止し、2024年12月には、死刑廃止を目的とした自由権規約第2選択議定書も採択している。アフリカでは他にジンバブエが2024年に死刑廃止を決定、年末にはそのための法案が大統領によって署名されている。アジアではマレーシアが死刑廃止に向けて前進を続けており、2023年の法改定で死刑が課される犯罪の数が減らされた後、2024年にかけて、裁判所による1,021件の死刑判決事件の見直しが行われ、減刑が適用されている。

2024年、過去10年で最多の死刑執行数
死刑を停止・廃止する国が増加する一方で、死刑の執行数は減少していないという現実もある。2025年4月のアムネスティ・インターナショナルによる報告書によれば、2024年に世界中で執行された死刑の数は1500を超え、1634人の処刑が記録された2015年以来、過去10年間で最高レベルに達したとされている。上記の通り、アムネスティの調査によれば、2024年に死刑を執行した(または執行したことがかなりの確率で推定されている)のは世界で15カ国のみ(中国、イラン、サウジアラビア、イラク、イェメン、ソマリア、アメリカ、エジプト、シンガポール、クウェート、オマーン、アフガニスタン、北朝鮮、シリア、ベトナム)だが、これら限られた数の国での死刑執行数が増加したことを表している。確認された死刑執行のうち最も多くはイランで少なくとも972人、次いでサウジアラビアが345人、イラクが63人、イエメンでは38人、ソマリア34人、そしてアメリカでは25人の死刑が執行された。加えて中国では死刑に関する情報が国家機密として扱われているため、データは非公開であり具体的な数字は分からないが、千人以上が処刑されたと推定されている。さらにアフガニスタン、ベトナム、北朝鮮、シリアも同様で、データはないものの、死刑が執行されたことが推定されている。また、アムネスティの記録には入っていないものの、ミャンマーその他紛争地域でも何らかの形での死刑が執行されたという別の報告もある。そのため、実際に執行された死刑の数はアムネスティの記録よりも大幅に多いと言っていい。

分断された対応
上述の通り、自由権規約第2選択議定書は死刑廃止を目的としたもので、1989年に国連総会で採択された。この選択議定書に加盟している国は2025年4月時点で92カ国で国連加盟国の半数には至っていない。国連総会の死刑執行停止に関する決議には賛成をしているものの、死刑の廃止に向けて、国際人権法の下、加盟国としての履行義務、コミットメントを伴うこの選択議定書の批准にまでは至っていない国が多くある。ちなみに日本は国連総会決議には反対票を投じ、自由権規約第2選択議定書も批准していない。

IMADR通信222号 2025/5/27発行