IMADR通信
NEWS LETTER
国際人権法から見た強姦による妊娠と出産
白根 大輔
IMADR国際人権上級アドバイザー
中絶が法律によって制限されている国は少なくない。法律で許容されていたとしても、実際的に安全かつ合法的な中絶に対するアクセスがほとんどない国もあるし、強姦や近親姦も含め、いかなる場合においても中絶が全面的に禁止されている国もある。2025年1月20日、自由権規約の監視機関である国連自由権規約委員会は、その個人通報制度*のもとで提出されていたエクアドル(1件)とニカラグア(2件)の強姦被害者である少女の妊娠に関する案件についての結論を発表した。
エクアドルのケース
エクアドルで起きた事件では、当時13歳の少女が、父親による近親姦・強姦により妊娠させられた(父親はすでに他の少女に対する強姦を当局に通報されていた)。しかし、エクアドルでは、妊婦の生命と健康を守るために中絶が法的に認められているにもかかわらず、治療による中絶は実際にはほとんど不可能であるため、被害者は、妊娠状態を続けることを余儀なくされ、出産した。また養子縁組の選択肢について誤った情報を与えられていたため、結局、貧困の中で、教育を受けることもできないまま子どもを育てることとなった。
ニカラグアのケース
ニカラグアの案件の一つにおける被害者は、1歳のときに実母に捨てられ、祖父母のもとで暮らすことになったが、彼女は実質的に隔離された状況の中で、強制的に働かされ、基本的な教育を受けることができなかった。被害者が6歳の時から祖父による性的虐待が始まり、12歳で妊娠するまでそれは続いた。祖母は当局から孫娘の保護と支援を得ようと試みたが、成功しなかった。ニカラグアでは、中絶は全面的に禁止され、犯罪化されている。出産の翌日、被害者は刑事告訴をし、虐待する祖父からの保護を求めた。逮捕状は発行されたものの、祖父はその地域を支配する武装集団の一員であるため、令状を執行することも、その他の保護装置を提供することもできないというのが当局からの報告であった。他に選択肢のないまま、生まれた子どもは祖母により育てられている。
ニカラグアのもう一つの案件では、被害者が13歳の時、地域の神父による強姦が始まった。加害者から緊急避妊薬を飲むようにも強要されていたが、数カ月にわたる性的虐待の後、被害者は妊娠した。被害者は重度の鬱病に苦しみながら、両親の支援を受けて中学校での勉強を続け、神父を刑事告訴した。被害者と家族は、加害者の社会的・宗教的地位のために告訴を取り下げるよう脅されたが、抵抗した。しかし、当局からは神父に対して何の措置もとられず、被害者は中絶という選択肢がないまま妊娠を余儀なく継続、さらに出産の間にも医療関係者から心理的・身体的虐待を受けた。子どもは現在、被害者の両親によって育てられている。
委員会の審査と決断
エクアドルやニカラグアでは、司法による効果的な救済を受けることが不可能であったため、3人の被害者は自由権規約に基づく権利の侵害にあたるとして委員会に通報した。そして委員会は、強姦の被害者である女性に妊娠を継続させ、さらに生まれた子どもを育てることを女性たちに強要することは、自由権規約6条に基づく被害者の尊厳をもって生きる権利の侵害であり、また被害者が押しやられた状況は拷問に相当すると認定し、規約7条の違反であるとも判定した。また、エクアドルとニカラグアの当局は、これらの強姦事件をしっかりと調査しておらず、加害者を裁判にかけるための行動もとっていなかったため、委員会は、この行動の欠如を「暴力の被害者である子どもに対する特別な保護義務に関する、締約国側の不作為」ともされている。この判定の中で、委員会はエクアドルとニカラグアに対し、被害者の救済措置を講じるとともに、強姦の結果生まれた子どもの教育と心理的ケアへのアクセスを保証するよう要請した。
*「個人通報制度」とは、個人が直接、 条約に定められた人権の侵害を主張して、人権条約機関に救済を求めることができる制度。日本はまだ導入をしていない。(日弁連HPより)
IMADR通信221号 2025/2/26発行