IMADR通信
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「近代化」した〈ロマの街〉シュトカ

7年振りのシュトカ
 ロマが多数派を占める北マケドニア・スコピエ市の1区域シュト・オリザリ(通称:シュトカ)をはじめて訪れたのが2011年9月、シュトカで「馬の臓モツ煮込みを一緒に食べた」とする日本人フォトジャーナリストの主張を検証したくて。それ以降ほぼ毎年シュトカへ通ったが、コロナ禍などでシュトカ参りは2017年9月から中断、2024年9月にシュトカを7年振りに訪れた。
 シュトカでいつもホームステイするキャミル家の家族構成がまず変わった。7年前にその家庭で泊まったとき母親ヌスリカは妊娠していたが、ヴァレリオという6歳の男の子が末っ子として加わった。長女のイルミヤも次女のアンジェリナもロム(ロマ男性)と結婚した。アンジェリナはベルギーの自動車販売業で成功したロムと結婚した。
 反差別国際運動も上映した映画『ヴァレンティナ』の主人公、シュトカの極貧地区ブルシュスカ・ブナで生まれた撮影当時10歳の少女ヴァレンティナは、17歳になった2020年にアルバニア系ロムと結婚、3歳と1歳の子どもがいるらしい。北マケドニア西部のアルバニア国境近くで暮らしているが、以前と変わらず幼い子どもを連れての物乞い生活をつづけている。

NGOアンブレラ
 シュトカ内にあったNGOアンブレラの事務所はもはや存在しない。アンブレラを立ち上げて主導したラティフェが 2021年に国会議員に選出され、NGO活動をつづけることが難しくなった。ラティフェの次男が母親の活動を引き継いだが、長つづきしなかったそうだ。2024年の選挙で落選したラティフェは、出生証明書やパスポートなどがないロマたちの支援活動を個人的につづけている。
 アンブレラの職員だったドイツ語堪能なアイダはガジョ(非ロマ男性)と結婚、スコピエ市内で暮らしており、娘が1人いる。アンブレラのもう1人の職員ムアレムは、午前中シュトカ幼稚園の助手として働いている。幼稚園の園長と先生の2人はロマ語が理解できないマケドニア人なので、ロマ語堪能な助手を必要とする。3年前からムアレムは午後、ロマ住民の健康維持に必要な啓発などを行うメディエイターとしても働いており忙しい。

建築ブームのシュトカ
 未婚のムアレムが母親と暮らす家は2階を増築中で、屋根の葺き替えが終わったところだった。ムアレムの家のみならずシュトカ中が建設現場になっており、多くの住民がその住居を修理・増築・新築していた。ムアレムによればシュトカは以前よりも仕事にありつく可能性が格段に増えたとのことで、その仕事内容は主に清掃関係だという。いずれにせよほとんどの住民はいくらか経済的余裕ができたようで、失業者は大幅に減り、不就学児童も激減したとムアレムは語ってくれた。

シュトカの市場
 もともとシュトカは1キロメートル以上もつづく市場が有名だった。商品が安価だったので、スコピエ市内のガジェ(非ロマの複数形)も買い物に訪れていた。もっとも変わったのがその市場だ。その市場は「近代化」された。ほとんどの店舗がショッピングモールのように小綺麗になり、市場の入口にSHUTO♥ORIZARIのネオンが夜は輝く。市場商たちはその変化を必ずしも喜んでいない。というのは商店の賃貸料が異常に値上がりしたからだ。以前は月に 30ユーロほどだった賃貸料が今ではその10倍以上に高騰した。そのために商品価格も値上がりし、スコピエ市内と変わらなくなったので、市場でスコピエ市民を見かけることもほとんどなくなった。シュトカは〈ロマだけの街〉に逆戻りした。数軒の屋台風店舗も残っているものの、〈ロマの街〉の市場は昔の活気と魅力を失った。

IMADR通信221号 2025/2/26発行