IMADR通信
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国際マイノリティアーティストコンテスト

11月27日、2024年国際マイノリティアーティストコンテストの授賞式がスイス・ジュネーブで行われ、200作品以上の応募の中から以下に紹介する5人が受賞し、3人が特別賞に選ばれた。2022年より、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、NGOのフリーミューズ、マイノリティ・ライツ・グループそしてジュネーブ市と提携してコンテストを開催している。2024年のテーマは「現在の記憶」(“Memory in the present”)であった。マイノリティの権利は、現在における歴史の理解や見方と深くかかわっている。マイノリティの排除は、マイノリティを合法な円の外に置いて「私たちの歴史」を理解してきたことから由来し、マイノリティは往々にして、是正されていない歴史的不正義の痕跡を背負わされている。
「現在の記憶」は、制作を通して記憶や追悼を探求するマイノリティアーティストの創造性と文化表現を称え、芸術を通じて表現する物語、歴史、記憶に光をあてる。

受賞者たちの「現在の記憶」

Bianca Broxton
米国のマイノリティ女性たちに、健康にも不平等があることを啓発することに重点を置く学際的アーティスト。Biancaの作品は、クィアのアフリカ系女性という自身のアイデンティティに影響を受けており、尊厳と修復的司法に焦点を置きながらマイノリティを描いた彫刻やコラージュを用いて、社会で周縁化された人びとの声を軸に歴史的な物語と記憶を表現している。父方の祖母を乳がんで亡くした喪失感を表現した作品には、歴史的に 「贅沢品」とされ、特定の階級の人々の描写にのみ使われてきたシルクなどの素材を使用した。「アフリカ系女性としての私の経験が、制度的抑圧に直面した人びとの歴史を伝え、人びとを肯定的に描く原動力となっています。被写体が制度化された差別の犠牲者としてのみ捉えられることを、私は拒否します」。

Joel Pérez Hernández
メキシコ、チアパス州ラカンドンのジャングルで生まれたマヤ系先住民ツェルタル族の視覚・造形アーティスト。長年、伝統的な技法やモチーフを自身のコミュニティの職人やクリエイターたちから学んできた。ある作品では、貨幣が流通し、あらゆるものに値段が付けられるようになったことで、かつては神々であった自然の要素が、今では商品へと還元されたことを表現した。「山には多くの知識が眠り、川には声が閉じこめられ、石の下には彩色が眠っている、そしてそれらは私たちの集団としての記憶の中にも眠っています。私の人びとは私を育て、それらすべてを作品のなかで目覚めさせるよう私に仕向けます。私は作品に自署をする必要はないと気付きました。私の人びと、私の家族、私の友人が、それぞれの作品の本質を構成しているからです」。

Francis Estrada
フィリピン生まれ。現在アメリカ在住の視覚アーティスト、教育者。文化、歴史、認識に焦点を当て、歴史的写真、マスメディア、政治的プロパガンダ、個人の記録が社会で語られる物語や集団の記憶に与える影響に疑問を投じている。ある作品では、「反乱軍兵士の死体」の歴史的な写真や、軍事演習の風景、民族誌のイラストを、1900年代初頭、アメリカの統治下にあったフィリピンに赴任していたアメリカ人教員たちが書いた本から抜粋した文面と組み合わせながら表現している。「私のアートは、文化に対する私たちの理解がどのように橋渡しされているのか、そしてどのような手法で歴史と記憶がつくられ、継承されていくのかということに向き合うためのツールです。私の作品は、見る人が自身の経験や思い出をもとに完成させる物語の一部にすぎません」。

Laowu Kuang
中国のチベット族のビジュアル・アーティスト。大きなキャンバスに描かれた色彩と質感が織りなす鮮やかな相互作用が特徴的で、伝統的なチベットのシンボルやモチーフを通して、現代中国における記憶と追憶を描いている。ある作品では、乾いた木の幹にチベット語、英語、中国語で「私は詩を書くために木を動かすことにした」と刻み、枝には尖った鉄線をいっぱい張り巡らした。「過剰なカラースケールの西洋画や、淡く上品な色彩表現をコンセプトとする漢民族の絵画とは異なり、チベット絵画には、強くて強烈な色彩のコントラストがあります。チベットの民芸品の石彫は、宗教と自然の完璧な融合であり、人間と神々、天と地の間の意思疎通であり、対話です」。

Jayatu Chakma
バングラデシュ、チッタゴン丘陵地帯の先住民族であるチャクマ族のアーティスト。「チッタゴン丘陵はバングラデシュの一部で、人びとや景観という点から、さまざまな文化を体現する地域です。しかし、チッタゴン丘陵の魅惑的な渓谷の裏には、物語が隠されています。私の作品は、家を追われ、所有物や家族を失った人びとの物語に影響を受けています」。インク、アクリル、水彩、そして泥や葉っぱの色といった自然の素材を使い、強制移動や土地の喪失に関連するチャクマ族コミュニティの生活を映し出している。ある作品では、痛みの感覚や水の色を表すさまざまな青を使って、1960年代の開発プロジェクトが先住民族に与える影響を表現した。「テレビで見るような自然の美しさや文化の多様性だけでなく、チッタゴン丘陵地帯の異なる一面を見せるような作品を作りたいです」。

Chuu Wai特別賞
ミャンマーで生まれ育ち、現在フランスに亡命中のシャン族のアーティスト。「私は作品を通して、歴史、文化、民族性、宗教を織りまぜながら、ミャンマーの織物の本質を探究し、苦闘の物語を伝え、織物がどのように糸を繋ぎあわせながらできているかを示そうとしています。織物は素材だけではなく、社会の闘いの場です。織物は伝統的な女性らしさを表現するために長い間使われてきました。そして、今、戦闘的で家父長的な権力への抵抗運動が起き始めています」。

André Fernandes特別賞
ブラジルのサルヴァドールで生まれたアフリカ系の写真家。黒人文化や宗教的慣習、特にアフリカ系の人口が多いことで知られる故郷のカンドンブレコミュニティの儀式を写真に収めている。「私の作品は、カンドンブレ*を、激しくそして逆説的ではあるが軽く描くことで、アフリカ起源のブラジル宗教に対する偏見に対抗するものでもあります」。

Maganda Shakul特別賞
ウガンダ農村部出身のアーティスト。ガンダ族の母親と、ヒマ族、ルオ族のダブルルーツの父親を持つ多様な文化的背景をもつ彼の作品は、そこから得たインスピレーション、音楽、パーカッション、ファッションデザインの融合である。「みなさんを、私のコミュニティの伝統、儀式、そして物語に込められた集団の記憶を探るノスタルジックな旅へと誘います」。

今後
2025年のテーマは「帰属・場所・喪失」。マイノリティの視点から見た、帰属、環境正義、文化の喪失について表現した作品を募集している。

*カンドンプレ:ブラジルの宗教儀式。
*本記事は、11月27日付のOHCHRのウェブ記事および 受賞作品集をもとにしている。

IMADR通信221号 2025/2/26発行