7月下旬から始まるパリオリンピックに向け、フランス当局は長期的な住居の選択肢を提供することなく、路上で寝泊まりしている人びと、多くは移民や庇護希望者、を一掃し始めた。その多くがフランス語圏のアフリカ諸国出身者と言われている。EU諸国、EU議会内でも右派の勢力が近年勢いを増している。フランスの現状について、来日中のパリ政治学院博士課程の研究者、モハメド・ウムラティさんにお話を伺った。
─オリンピック開催に向けたフランス政府の移民に対する対応に関してどう思いますか?
正直、私は政府の対応に驚きませんでした。移民に関する問題だけでなく、多くの面でオリンピック反対の運動が活発です。フランスは長い歴史のある移民国です。しかし近年、非常に反移民のスタンスをとっています。また、フランスにおいて「移民」と言われる人々の大半は非正規滞在者であり、路上で生活している人も多いです。そのため、政府にとって良い印象はありません。極右の運動は広がっています。昨年は移民の基本的権利(家族呼び寄せ条件や諸手当受給など)を厳格化する新たな法律が通りました。条文のほとんどが憲法評議会によって却下されましたが、国家内の反移民スタンスが浮き彫りになったと思います。
―移民反対のナラティブの大きな要因はなんなのでしょうか?
人種的、文化的、経済的側面が交差していると思います。まず、「人種」という概念は奴隷制の歴史に根ざしており、複雑です。現在のフランスにおける人種観は他国と異なると思います。「人種」という言葉は禁止されており、人種について話したくありません。なぜなら、フランスではすべてのフランス人は平等であり同じであるとする「ユニバーサリズム」の考え方を重んじているからです。そのため、異なる文化的・民族的アイデンティティを持つ移民(大半がイスラム教徒)は社会に「同化」しなくてはいけません。ヒジャブの着用禁止が一例です。政府は「統合政策」という名前をつけていますが、実質的には同化です。最後に、貧困が挙げられます。人々が経済的に苦しくなっているため移民を敵視するのだと思います。
―イスラム教徒に対する偏見(Islamophobia)も関係していますか?
イスラム教徒に対する偏見もあります。フランスは他の先進国と比べ、メディアの自由度が非常に低いです。メディアやイスラム教の名の下に行われたテロ攻撃によって煽られ、イスラム教は非常に危険な宗教というイメージが生まれました。移住した親たちが実際に定住し、子どもたちがフランスの文化ではなく、自分のルーツの文化を取り入れ始めると、宗教が問題になりました。「統合」や「同化」といった問題とも関係しています。
―フランスは抗議活動の数が世界で一番多いですが、どのように「人権」について学びますか?
私たちは幼い頃から権利(droit)を主張するように教えられます。もちろん、小さい頃は法律など分かりません。しかし、子ども同士であってもやってはいけないことを理解しています。私は中学生の頃から抗議活動を始めました。幼い頃から「権利」の大切さを知っているからこそだと思います。
(IMADR事務局)
IMADR通信219号 2024/8/8発行