IMADR通信
NEWS LETTER
実践ガイドに書かれていること
クロード・カーン
国連人権高等弁務官事務所 人権オフィサー
ワークショップにおけるクロード・カーンさんの報告を要約する。
参加者の皆さま、ありがとうございます。優れた活動家、また非常に優秀な皆様と一緒にいられることを嬉しく思っています。
私からの報告を始める前に一つつけ加えたいと思います。
このガイドの作成にあたって、私とジム、そして先ほどジムが言及したサム・バーンズが中心的な役割を果たしましたが、そこには、OHCHRの同僚たちや、条約機関、特別手続きなどの専門家たちのサポートがありました。そうしたサポートを受けられたことも素晴らしいことでしたが、そのプロセスの中でさまざまな議論ができたこともまた意義のあることだったと考えています。ガイドの作成にあたって、私たち自身もあらためて包括的な平等とは何か、差別のない世界に向かってすべての国家を前進させるためにどう支援するかについて話すことができました。素晴らしい旅のような時間を過ごせたと思っています。日本でも、同じような旅を過ごされることを祈っています。
私の今日の役割は、ガイドになにが書かれているかということです。今、IMADRが翻訳されているので、皆さまも間もなく日本語でご覧になれるでしょう。
この実践ガイドは6つのパートで構成されています。
第1部には、包括的反差別法を制定する国家の義務をまとめています。
第2部では、包括的反差別法の内容について述べています。国際的な基準に合致するものにしようとしたとき、国のレベルで包括的反差別法に入れなければならないこと、パズルの1つ1つのピースをここに入れました。このパートがこのガイドの主要部分だと言ってよいでしょう。
そしてその後のパートでは、さまざまな協議を経て、私たちがこのガイドに入れる必要があると考えた周辺情報として、4つのエリアを扱っています。
第3部では、差別の禁止と関連してマイノリティの権利をどのように理解するか、ということについて述べました。平等の権利と、マイノリティ保護の国際的義務の関係を調べたものです。
そして、第4部では、差別的暴力とヘイトクライムについて扱っています。ここは実際の法的な議論としては刑法の改正に関連する分野となります。一方、私たちが包括的反差別法について議論するとき、主に語られるのは民法や行政法の分野です。このことにはさまざまな理由がありますが、刑法については立証や証拠について高いハードルがあるということが1つの理由です。しかし、差別には当然のことながら、暴力や差別を動機とした悪意ある行為など、刑法で対応すべきことも含まれます。そのため、このセクションでは、包括的反差別法、刑法それぞれの議論の区別や、留意すべきことについて言及しています。
第5部は、差別と表現についてです。ご存知のように、しばしばヘイトスピーチと関連して議論になる点です。包括的反差別法と表現をどのように両立させるのか、法的に機能させるのかについて述べています。これは国際的な表現の自由と差別扇動の議論にも関連するものです。
最後のパートとなる第6部は、国際的な条約が国家に対して積極的な義務をどのように課しているか、たとえば開かれた社会の雰囲気を醸成すること、多様性を尊重し、包摂を進めることについて述べています。差別の禁止やそれに関連する法制度というのはえてして、否定的な行為やその結果に対してどう対応するのかという議論になりがちですが、ここでは国際条約が、よりよい世界を目指すためにどのようなポジティブなアクションを求めているかを述べています。
以上がこの実践ガイドの構成です。
この日本語版がいま編集されていると聞いています。加えて、私はアジア数カ国を回る計画を立てており、11月中旬には日本にも行こうと思っています。ジュネーブとIMADRで協力して計画しているところです。皆さんと実際にお会いすることもあるでしょう。皆さんのご意見を直接聞く機会を非常に楽しみにしています。
差別のない世界に向けて、皆さんとともに一歩先、五歩先に歩みを進めていきたいと思っています。
要約:IMADR事務局
質疑応答
ワークショップでおこなわれた質疑応答の一部を紹介する。
質問:包括的反差別法を制定している国は何カ国あるのでしょう?また、今後ガイドに沿った反差別法を制定する国が出てきた場合、そうした情報を国連の方で可視化するプランはありますか?
ジム:現時点での正確な数は把握していませんが、少なくとも45~50ヶ国で包括的反差別法と呼べる法律が制定されていると思います。
クロード:ERTとOHCHRの現地事務所で制定の動きがあるか、前進しそうなところはどこかという調査をしました。ERTとこの結果を公表するかどうかを話し合います。また、あまりアクセスしやすい方法ではないですが、各人権条約委員会の国別審査では各国の積極的な法的側面も評価しているので、総括所見を参照することはできると思います。
質問:反差別法制定は国際的潮流なのでしょうか?
クロード:包括的差別法は世界中の波になっていると思います。UPRでも言及されています。多くの政府でも話題が出ています。
ジム:すでに制定されている反差別法の多くは、ここ25年間で制定されていることから、国レベルの動きが盛んになっていると言えると思います。また、来週はブラジルの国内人権機関とお話しする予定です。ほかにもさまざまな政府や市民社会の人々と包括的反差別法のニーズについて話しています。関心は高まっていると思います。
質問:日本では人権に関する基本インフラができていない状況ですが、現状を好転させるためには何が必要でしょうか?
ジム:必要なのは、なぜ法律が必要なのかを明確にしておくこと。すべてのステークホルダーが声を一つにすることです。この会議で皆さんがすでにその要素を共有されていることが印象深かったです。皆さんも課題を乗り越えられるのではないかと思います。
クロード:国によっては制定を目ざした取り組みが長期間進んでいないところもあると思います。私たちのガイドの役目はそこを推し進めることです。また、困難に直面しても、市民社会が団結してさらに運動を高めることができます。法律制定のプロセスが遅いとしても、市民社会が一致団結する、そしてさまざまな団体がお互いを支え合うという強い意志をもつ、共通の声をもつ。さまざまな困難はありますが、その運動そのものがとても生産的だと思います。
IMADR通信216号 2023/12/1発行