2024.05.28

各国の取り組み:地方および地域自治体のキャパシティ・ビルディング強化

本記事では、人権理事会決議51/12に従って作成され2023年8月28日に開催された、地方自治体の業務に人権を取り入れるためのキャパシティ・ビルディング(能力構築)に関する専門家会合での議論を反映した報告書をもとに、各国の取り組みを紹介いたします。

いったいなぜキャパシティ・ビルディングが必要なのでしょうか?

地方自治体が住民の人権、特に経済的、社会的および文化的権利の保護を確実にするという役割を果たす際、 (a) 技術的専門性の欠如 (b) 資源不足 (c) 人権義務に関する意識の欠如 といった問題に直面します。そのため、地方自治体が人権を政策実施に取りこみ、国連の人権の枠組みを自治体レベルで活用することが一層困難になります。このような課題に対処するために、国家は物理的なインフラだけでなく、ヒューマン・キャパシティ(人的能力)にも焦点を当て、地方自治体のキャパシティ・ビルディングに力を注ぐ必要があります。

日本では? 

日本では例えば以下のような取り組みが行われています。

・人権教育啓発・推進法、人権のまちづくり条例の制定(例:川崎市)。

・(公財)人権教育啓発推進センターが法務省の委託で地方公共団体向けに人権啓発指導者養成研修会を実施。

・大阪市では、2009年に策定した「大阪市人権行政推進計画~人権ナビゲーション~」を実施するために、2023年に大阪市人権問題職員研修実施要綱を作成。

・人権週間(12月)における取り組み。例えば大垣市では人権週間に差別や虐待、パワハラなどのさまざまな人権問題に関わる人権擁護委員による特設人権相談を実施。

各国ではどのような取り組みが行われているのでしょうか?

アジア・太平洋地域

インド

・地方自治を担当する中央省庁が、人権の促進と保護において地方政府のエンパワーメントに寄与するキャパシティ・ビルディング・プログラムやイニシアチブを提供。

韓国光州市

・2007年、光州市は人権および平和条例を制定し、その後2012年に制定した人権憲章に沿って改定。

・5年ごとに改訂される人権基本計画、人権市民審議会および人権事務所の設立。

・全職員に人権教育を義務づける光州市の人権憲章。

・市民社会活動家による人権教育の提供、自治体関係者と市民社会との緊密な連携を育みながら実施。

・「世界人権都市フォーラム」を毎年開催し、世界中の自治体に、経験交流とネットワーク拡大のプラットフォームを提供。

Raoul Wallenberg 人権および人道法研究所アジア太平洋地域事務所を通じて、光州市、都市・自治体連合アジア太平洋支部(United Cities and Local Governments Asia-Pacific)、アジア民主主義ネットワーク(Asia Democracy Network)と協力し、アジア太平洋地域全体で地方自治体とそのアクターをエンパワーメントすることを目的とした一連のキャパシティ・ビルディングに関する取り組みを実施。

南アメリカ地域

コロンビア・ボゴタ市

・人権に関する公務員や行政職員のキャパシティ・ビルディングを実施(2016年に調印された和平協定によって枠付けられた)。

・野党代表者を含むボゴタ評議会内に人権委員会を設置。人権アジェンダに関する意思決定プロセスの強化に寄与。

ウルグアイ

・国際人権勧告および持続可能な開発のための2030アジェンダの部署レベルでの実施を促進することを目的とした “架け橋 II(Building Bridges II )” プロジェクトの実施。

・同プロジェクトの一環として “人権ベースのアプローチによる計画立案(Planning with a human-rights based approach )”という国家人権規約に関する公務員や行政官の研修を目的としたガイドを出版。

チリ

・地方レベルにおける人権意識、教育、促進の推進を担う地方自治体人権事務所の開設を奨励。すでに7つの自治体がこの事務所を設置。

・チリ国立人権研究所は、公務員のための研修プログラムを開発。

・地方・地域レベルでの人権促進のための国際センター(the International Centre for the Promotion of Human Rights at the Local and Regional Levels)が運営する国際的なオンライン・アカデミーと会議シリーズ “Human Rights Go Local – What Works” は、地方レベルでの人権の保護と促進における世界中の地方自治体から実践的な見識を集め、発信。

・自治体・地域研修アカデミー (Municipal and Regional Training Academy) を通じた、地方および地域自治体に適用される人権アプローチに関するディプロマ・プログラムなど、的を絞った研修の実施。

ヨーロッパ地域

スウェーデン

・スウェーデン自治体・地域協会は、Raoul Wallenberg 人権・人道法研究所と協力して、人権政策と業務開発のためのプラットフォームを開発。

・スウェーデンの子どものためのオンブズマンは、子どもの権利条約の実施を支援するオンラインツール(条約に関するオンライン研修、条約の実施を評価するためのツール、「子どもの最善の利益に関するインパクト評価」の実施ガイダンス、条約の解釈と適用のための法的ガイダンスなどを含む)を作成。

・当オンブズマンは定期的なネットワーク会議を調整し、様々な政府当局や地域・地方自治体の代表者の間で、話題性の高い問題についての議論や、経験・知識の交流を促進。

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