2024年11月25日から27日の3日間にわたり、第13回国連ビジネスと人権フォーラムがジュネーブで開催されました。IMADRでは、活動に関連のある以下のセッションに参加しました。この簡易レポート(更新版)は、それらセッションで議論された内容と結果を要約したものです。第1弾の記事はこちらから。
◉開会セッション
開会セッションは、「ビジネスにおける人権のためのスマートミックスの効果的な活用」と題し、今回のフォーラムの主要テーマについて、さまざまなステークホルダーからの視点が提供されました。ステークホルダーが、ビジネス活動における人権の保護と尊重を強化するために、国内、国際、自主的、義務的などの措置の「スマートミックス(賢い組み合わせ)」が具体的には何を意味するのかを考える場となりました。特に、何がうまくいき、何がうまくいかなかったのか、また、スマートミックスによる変化を効果的なものにするために、特に権利保有者にとって何がまだ達成されなければならないのかについて意見が交わされました。
セッションの中では、ビジネスや国家の政策について、どんな決断も人権へのインパクトを考慮に入れて行う必要があり、そこでいうインパクトとは、現在のものだけではなくて将来の世代にわたるインパクトも含まれるという話がありました。また、企業は、そうした決断を通じて世界を形作る力を持っているとのメッセージがありました。さらに、スマートミックスは、個々の施策を単に並べるのではなくて、施策どうしを統合するアプローチで行う必要があるとの意見が出ました。
「ビジネスと人権」や「スマートミックス」といっても、完全に新しいことをゼロから始めるというわけではなく、例えばOECDのナショナルコンタクトポイントにおける紛争解決事例のように先例は多数存在しており、こうした先例を参照しながら、変革へのモチベーションをもって粘り強く進めて行く必要があるとの意見がありました。ビジネス側からの取組みは、個々の会社での取組みだけでは足りず、業界として、あるいはビジネス全体としての取組みが必要であるとの訴えもありました。さらに、先住民族やマイノリティの人々にとっては、ビジネスと人権の考え方やこうしたフォーラムの場は、国家に対して問題の存在を認識してもらい、同時に、理解を深めて問題を解決に結びつけるためのキャパシティビルディングをする場にもなるとの話がありました。
◉ビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)はアジア太平洋地域で機能するか
このセッションは、ビジネスと人権に関する作業部会と国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)東南アジア地域事務所の共催、国連開発計画(UNDP)の後援で開催されました。
アジア太平洋地域でも、これまでに日本など9カ国がビジネスと人権に関する国家行動計画(NAP)またはこれに類する文書が策定され、ビジネスと人権の推進に向けた取り組みの主軸となりつつあります。しかしながら、同地域では市民の自由が後退し続けている現状もあり、ビジネスに関連する人権侵害が体系的に対処され、防止されることを確実にするために、NAPは本当に十分なのかという疑問もあります。NAPが単に国家と企業のためのチェックリスト的な作業となる「人権ウォッシング」が起こらないように、NAPを「困難な」地域でどのように実施すればよいのか、また、人権デュー・ディリジェンスの義務化は有用なのか、救済へのアクセスを効果的に組み込むにはどうすればよいかを議論しました。各スピーカーやフロアからの発言においては、各国・地域におけるベストプラクティスの紹介や、NAPが持つ効果、その実施における進捗状況と残された課題について意見が表明されました。
日本では、NAPが策定されたものの、NAPの中に施策の具体的な進捗状況を測定するための明確な指標が示されなかったため、どこまで実施が進んでいるのか、次のNAPで何を決めるべきかについて議論がしにくいことが紹介されました。また、義務的人権デューディリジェンスの法制化は、日本企業がグローバルスタンダードに準拠し、同じ出発点に立つために役立つだろうとの意見が示されました。
韓国では、ビジネスと人権に関するNAPが独立の文書としては存在せず、既存の人権全般に関するNAPの中の一つの章として作られており、人権課題で影響を受ける人の立場からすると、企業の責任を明らかにするためにも、独立した文書とその実施がなされることが必要であるとの意見が出ました。また、特にステークホルダーエンゲージメントが重要であり、むしろステークホルダーエンゲージメントのない議論は意味がないとの指摘がありました。
マレーシアでは、ビジネスと人権の指導原則や、国連機関との連携について、時の政権によって、指示・不支持にばらつきがあり、取組みが遅れたことが紹介されました。また、マレーシアのような東南アジアの国々では、非正規滞在の人々は、公式の苦情処理を利用することは考えにくく、また、人権デューディリジェンスについて任意の実施を求めるのでは足りないため、法律によって強制する必要があるという意見が出されました。
◉スナップショットシリーズ:危機に瀕したグループ
グローバルサプライチェーンの中で職業と世系に基づく差別を受けるコミュニティに対する対応策のスマートミックス ― ダリット、ロマ、ハラティン、キロンボラ、他
本セッションは、ビジネスと人権に関する作業部会、職業と世系に基づく差別を受けているコミュニティのグローバル・フォーラム(GFoD)、国際ダリット連帯ネットワーク(IDSN)の共催により開催されました。
世界中で、およそ2億7000万人が、現在の職業または先祖代々の職業、カーストなどの世襲的地位を理由に差別されています。 彼らは総称して「職業と世系に基づく差別を受けているコミュニティ」(**部落差別も同様である) と呼ばれています。 ビジネス活動と差別が交錯する状況下では、政治的、社会的、経済的発展の中で疎外されている彼らの状況はさらに悪化し、無力なまま、債務労働、現代奴隷、児童労働、危険な労働に従事をさせられるリスクにさらされています。
その隠れた性質のため、特に複雑なグローバルなサプライチェーンの中では、多くの企業、特にグローバルな事業展開を行っている企業は、職業と世系に基づく差別が自社のサプライチェーンにどれほど影響しているかについて、十分に認識していない可能性があります。
職業と世系に基づく差別に対処することを目的とした、国内、国際、自主的、強制的なレベルでの措置のスマートミックスは、より広範な人権デューデリジェンスプロセスや公正な移行(ジャスト・トランジション)戦略の一部として、優先的に取り組むべき、というのが本セッションのテーマです。
セッションの報告やディスカッションの中では、ダリット、ロマ、ハラティン(アフリカの旧奴隷階層)、キロンボラ(アフリカ系ブラジル人)などの最も周縁化された人たちが、グローバルサプライチェーンの中で生産や製造の底を支えており、かつ、その存在が見えなくなっていることが議論されました。職業と世系に基づく差別は、それ自体が人権問題であるというだけではなく、「ビジネスと人権指導原則」の文脈で、サプライチェーンに関わっている企業が認識し対処すべき人権問題であるということが明らかにされました。
これは、日本での部落差別や先住民族に対する人権問題と共通するテーマでもあり、IMADRの代表理事であるニマルカ・フェルナンドがフロアから部落解放運動について紹介する発言を行いました。
▶︎ 簡易レポート(更新版)のダウンロードはこちら
▶︎ 第13回ビジネスと人権フォーラムのウェブサイトはこちら