2024.06.22

「平和に戻る道を早急に見つけなくてはいけない」 人権理事会第56会期始まる

人権理事会第56会期が6月18日に開会しました。開会の挨拶でヴォルカー・ターク国連人権高等弁務官が行った演説の一部を紹介します。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のデータによると、2023年、武力紛争による民間人の死亡者数は前年より72%増加しました。恐ろしいことに、殺害された女性は前年の2倍、子どもは3倍になりました。  

ガザの紛争当事者による国際人権・人道法の軽視に愕然とします。昨年10月7日以降、ガザではイスラエルによる集中的な攻撃で12万人以上(圧倒的に女性と子どもが多い)が死傷しています。5月上旬にイスラエルがラファへの侵略をエスカレートさせて以降、100万人近いパレスチナ人が強制的に退去させられ、支援の提供や人道的アクセスはさらに悪化しました。

東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区の状況は著しく悪化しています。10月以降、528人のパレスチナ人(そのうち133人は子ども)がイスラエルの治安部隊によって殺されました。同じく、10月以降、8人のイスラエル治安部隊を含む23人のイスラエル人が、西岸地区で、あるいはイスラエルにおけるパレスチナ人との衝突や攻撃で亡くなりました。

イスラエルによるガザへの執拗な攻撃は、甚大な被害と破壊を引き起こしています。人道支援の恣意的な拒否と妨害が続いており、イスラエルは何千人ものパレスチナ人を恣意的に拘束し続けています。これは終わらせなければなりません。

パレスチナの武装グループは多くの人質を拘束し続けており、時には人口密集地域で、人質やパレスチナ市民をさらなる危険に追い込んでいます。人質は解放されなくてはなりません。

私たちの調査文書より、戦争犯罪やその他残虐行為が遂行されているという重大な懸念が見えてくる。私は、安全保障理事会と国際司法裁判所の拘束力ある決定が尊重されることを求めます。占領を終わらせ、説明責任を果たし、国際的に合意された2国家解決策を実現させなければなりません。

私はレバノンとイスラエルの間で高まっている緊張を懸念しています。レバノンではすでに、救急隊員やジャーナリストを含む401人が死亡したと報告されています。また、レバノンでは9万人以上が、イスラエルでは6万人以上が避難し、25人のイスラエル人の死亡が確認されています。数千もの建物が破壊されました。私は戦闘を止め、影響力を持つ全てのアクターが全面戦争を回避するためにあらゆる可能な措置をとることをあらためて求めます。

ウクライナの状況は悪化し続けています。ロシア軍の最近の攻撃でハリコフのコミュニティ全体が破壊されました。爆破兵器による激しい攻撃に晒されているため、住民たち(その多くは高齢者)は、電気や水、十分な食糧もないまま地下室に避難しています。

エネルギーインフラへの大規模な攻撃が繰り返され、ウクライナの電力生産能力の68%が破壊されました。特に冬を前にして、システムは危険な状況に陥っています。

また、以下の点にも触れました。

スーダンでは2つの勢力と関連グループが民族間の緊張を煽り、人道支援を拒否し、人権擁護者を逮捕し、自国民の権利を蔑ろにしています。アフリカ連合を含む現在進行中の調停努力が、この紛争に終止符を打つためには不可欠です。また、将来の移行に影響を及ぼす文民のイニシアティブへの支援も必要です。これらのプロセスは、紛争の原因である排除と差別に対処するために、包括的でなくてはなりません。

コンゴでは、 M23、連合民主軍(ADF)、CODECOなどの武装グループによる攻撃が続き、キャンプに住む国内避難民を含め、東部の市民は計り知れない苦しみを強いられています。説明責任が重要であり、採掘企業を含む民間部門もその責任を追わなくてはなりません。

シリア・アラブ共和国での紛争は、その激しさは過去数年に比べて減少しているものの、終結の見通しは立っていません。

ブルキナファソマリニジェールなど憲法を無視して政権交代が行われた国では、意味のある国民対話もなく、政権移行は長期化し、反対意見を封殺する規制がますます強化されています。前に進めるには、排除ではなく包摂が求められます。

南スーダンでは、部族間の暴力や報復殺人、住民への広範な攻撃、超法規的処罰、紛争に関連した性暴力、資源の不適切な管理、食糧不安、環境要因によるものを含む大規模な移住などが起きています。また、これらの問題は、選挙前の不安定な状況下で悪化しています。政府は説明責任を優先し、地元住民の暴力に対処し、民間人の保護を強化し、申し立てられた全ての暴力行為を調査し、加害者を裁判にかけなくてはなりません。

ハイチでは、数十年に及ぶ排他的で劣悪な政治、汚職そして武器の密売が、ギャングによる暴力をはびこらせ、保健所・学校・国家機関・戦略的インフラがギャングに襲われる状況を招いています。私は、国家警察を支援し、ハイチの人々に安全をもたらすために、人権保護装置をもつハイチに多国籍治安支援部隊(Multinational Security Support Mission) を緊急に派遣することを求めます。

国連憲章と国際法に則り、平和への道を取り戻すことが急務です。2024年5月末時点で、人道支援に必要な資金と利用可能な資金との差額は408億ドルに達しています。

戦争や紛争が環境に与える影響も否定できません。土地の焼失、大気・水・土壌の化学汚染、民間インフラの破壊、さらには核による大災害のリスクが起きています。これは、気候変動、生物多様性の喪失、公害といった、人類が現在直面している課題の上に成り立っているでしょう。

人権は早期警戒と予防のための最良のツールであると言われています。しかし、これは何を意味するのでしょうか?緊張や暴力、紛争の根本原因や加速化させている要因に真剣に向き合わなければならないということです。

アフリカ系の人々に対する制度的人種差別は、植民地主義と奴隷制の歴史に根ざした制度と構造により維持されてきました。それは、社会経済的不平等や法執行機関・刑事司法制度におけるアフリカ系の人々への差別的な態度など、様々な形で現れています。

悲劇的なことに、女性と女児の権利に対する反発は続いています。ジェンダーの平等に対する抵抗は、持続可能な開発目標の達成を遅らせ、さらには達成された成果を覆すことさえあります。2030年までに、極度の貧困層の大半を15歳以上の女性が占めるようになると予測されており、男女間の貧困格差は拡大しています。

人権擁護者やジャーナリストなどに対する攻撃は続いており、市民活動のスペースも狭められてきました。それらの人々の保護のために、私たちはもっと努力しなければいけません。

一方、進展もあります。ターク人権高等弁務官は以下の点を挙げました。

第1に、昨年の世界人権宣言75周年記念式典は、人権の普遍性と不可分性に対する私たちのコミットメントが確固たるものであることを示しました。

第2に、人権、平等そして正義を守るために変革を求める世界中の人々が国内、地域そして地球規模で数多く活動し続けていることです。

第3に、国際および地域人権システムは、大きな制約があるにもかかわらず、人々のために貢献し続けていることです。

第4に、人権アジェンダの促進に向けた各国のコミットメントが高まってきていることを歓迎します。地政学的な逆風にもかかわらず、私の事務所に技術支援を申し出てきた国々があります。

最後に、ターク人権高等弁務官は次のように述べて演説を結びました。

一つの重大な懸念を表明しなくてはなりません。国際連合全体、国連人権高等弁務官事務所、任務保持者である特別手続き、国際司法裁判所、国際刑事裁判所を含めた国際機関やメカニズムに対する言葉による攻撃、脅迫、報復そして悪質なソーシャルメディアキャンペーンが激化しています。

これは、容認できません。これらの機関は、まさにその重要な任務を遂行するために国家によって設立さたものです。国家はこれらの任務を促進し、不当な干渉や攻撃から保護しなければいけません。

どうすれば多国間システムの成果を損なうことなく保持できるのか、どうすれば私たちの任務遂行を確実にすることができるのか、私たち一人ひとりがよく考えなくてはなりません。

昨年12月、各国はまさにこの議場に集まり、多くの課題を認識し、人権が解決への一つの道筋であることを確認しました。

「未来のための協定(the Pact for the Future)」に焦点が当てられている今、私は、すべての国に、人権に対する私たちの共通のコミットメントが、サミットの成果に力強くそして具体的に反映されることになるよう促します。

強力で効果的な人権システムは、効果的な多国間協力、そして人々と地球にとってより良い未来を築く鍵です。

▶︎全文(英語)はこちら

                     <抄訳:反差別国際運動(IMADR)>

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