2024.05.7

ネパールにおけるダリット女性の権利促進活動の紹介

IMADRのパートナー団体であり、長年、ネパールのダリット女性のエンパワメントのプロジェクトを一緒に行ってきた FEDO(Feminist Dalit Organisation ) から、2023年の年次報告書が届きました!FEDOはカーストおよびジェンダーに基づく差別を撤廃するために、ダリット女性により1994年に設立されたネパールの非政府組織です。今回はFEDOの活動について少しお伝えします。

FEDOは「公正で公平な社会」を目指し、権利保持者であるダリット女性を中心に据え活動を行っています。人権に基づくアプローチを駆使しながら、FEDOは次のような5つの分野に焦点をあてています。

  1. 経済的エンパワーメント

(写真:生計向上のために家畜を飼育する女性)

ネパールでは、資金へのアクセスが限られていることが経済的エンパワーメントの大きなハードルの1つになっています。国民の多くがインフォーマル・セクターに従事し、不安定な労働環境で働いています。FEDOのプログラムの1つである女性起業家育成プログラム(Women’s Entrepreneurship Development Program)は、女性起業家に対しビジネスキルや金融リテラシー、マーケティングスキルを教え、エンパワーメント行っています。同様に、青年雇用基金(Youth Employment Fund) では、資金援助や研修、指導を提供することで若い起業家を育成しています。さらに、シードマネー助成金により、多くの起業家の事業開始を可能にしています。

  1. リーダーシップと参加

ネパールには多様な文化や民族、複雑なカースト制度が存在します。公平な代表と意思決定プロセスを保障するためには、包括的なリーダーシップの育成が必須です。そのためのプログラムの1つが、ネパールの7つの州における州レベルでのダリット女性ネットワークの形成です。ダリット女性が直面している具体的な課題に取り組むことを目的とし、州政府と協力しながら、「ネパールにおけるダリット女性の正義、平等、尊厳に関する州会議 (Conference on Justice, Equality and Dignity of Dalit Women in Nepal) 」を開催しました。また、FEDOは文書作成能力や人権侵害に取り組むストラテジーに焦点をあて、ジャーナリストや市民活動家を含む人権活動家のトレーニングも行いました。

  1. 人権と司法アクセス

(写真:市民社会の地域ネットワーク会議の様子)

ダリット女性はカーストとジェンダーによって制度的差別や疎外に直面し続けています。特にダリット女性は法制度のなかで疎外され、司法へのアクセスが制限されており、救済を受けるのが困難です。特にダリット女性の中で広がる非識字率と法的権利に関する知識不足により、さらに司法へのアクセスに制限がかかります。FEDOではこうした問題に向けた様々なプログラムを行いました。その1つがダリット女性最前線指導者フォーラム(Dalit Women’s Frontline Leaders Forum)で、暴力や差別の影響を受けているダリット女性に法的支援とアドボカシーを行うためのフォーラムです。また、効果的なチームマネジメントや効率性の向上、対立解決のためのトレーニングも行いました。

  1. 包括的なガバナンスと社会正義

ダリットや先住民族、女性、性的少数者などのマイノリティが直面してきた歴史的不公平は、ネパールの社会正義に深く影響を及ぼしてきました。FEDOはロビー活動を行い、ダリット女性関連の政府計画やプログラム、政策への予算分配の増加やキャパシティ・ビルディングに寄与してきました。合計723人のダリット女性が地方レベルの社会的説明責任運動(公聴会、GESI監査、社会監査、予算モニタリング等)に従事しています。さらに、FEDOは1481人のダリットおよびダリット女性が土地所有権、社会保障、雇用、予防接種や補助金などの政府サービスを受けられるように働きかけ、法的認知も高まりました。ダリットやダリット女性のニーズに応えるため12項目の政策改善にも寄与しました。

  1. ジェンダーに配慮した人道支援

(写真:2015年に発生したネパール地震の被災地の様子)

ダリットコミュニティ、特に少女と女性、が直面する交差性差別への取り組みは、ジェンダーに配慮した人道支援に置いて極めて重要です。ジェンダーに配慮した支援は、安全な空間や医療、カウンセリングを提供することによって、ダリット女性や少女の明確なニーズを理解し、それに応えることが求められます。そのために、計画と実施をダリットコミュニティとともに行うことが、文化的に適切でニーズにあった人道支援をするために必要不可欠です。FEDOの主要な救援物配布プログラムでは、食料品と非食料品の両方が迅速に配布されました。

IMADRとFEDOが実施したパルサ地区のダリット女性エンパワメントプロジェクトの報告(2018年度版)はこちらからご覧いただけます。

FEDOが他団体の支援を受け行っているプロジェクトには以下のようなものがあります。

Enhancing Human Rights of Dalit Women and Girls in Nepal 

(写真:青少年ネットワークのミーティング)

Foundation for a Just Society (FJS) がパートナー団体の本プロジェクトはバルディヤ郡、カイラリ郡、スルケート郡、モラン郡、マクワンプル郡でダリット女性と少女のエンパワーメントを目的に行われています。本プロジェクト中には以下のような取り組みを行いました。

ー10回メディア交流プログラム

成果:メディア関係者はダリット女性、経済的に恵まれない人々、社会から疎外された人々の問題を取り上げることを約束しました。

ーカーストやジェンダーに基づく暴力事件の抗議集会

成果:合計16,000人の女性と少女が参加しました。

ー12の市民教育キャンペーン

成果:約1,000人が参加し、出生届、死亡届、結婚届、移住届など政府が提供する必要不可欠な権利を学びました。

ー10回地方レベルでの交流

成果:市役所、法執行機関、市民社会組織、メディア関係者など合計200人が参加し、ダリット女性に資源と司法へのアクセス向上と地方政府の説明責任について話し合いました。

Strengthening Governance for Development and Social Justice of Dalit Women  

Brot für die Welt (Bread for the World) がパートナー団体の本プロジェクトはダヌシャ郡、ドティ郡、カスキ郡でダリット女性のエンパワーメントを目的に数年に渡り行われています。本プロジェクト中には、以下のような取り組みが行われています。

ー小規模事業の形成

成果:各地域で30グループのダリット女性による小規模事業が形成されました。3地区で58人のダリット女性が小規模事業を開始し、33人の女性が60,000~150,000 ネパール・ルピーの収入を得ました。

ーダリット女性への教育

成果:ダリット女性ネットワークのメンバーやリーダーがカーストに基づく差別やジェンダーに基づく暴力への憲法上の規定や法律への知識を受けました。

ーダリット女性リーダーへの人権に基づくアプローチとアドボカシー・スキルのトレーニング

成果:合計270人のダリット女性リーダーがアドボカシースキルを向上させ、ダリット女性の社会運動が活発化しました。トレーニングで得たスキルを地方レベルに適応し、地方政府への働きかけを行い、ダリット女性のニーズや懸念に対する政府の説明責任と対応力が高まっています。

▶︎その他のプロジェクトやプロジェクトの詳細はFEDOの年次報告書またはウェブサイトを参照ください。

▶︎ FEDO の2023年度年次報告書(全文英語)はこちらから。

*本記事掲載の写真は全てFEDO2023年度報告書より引用しています。

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