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国連人権理事会 58 会期(2/24 – 4/4, 2025)

国連人権理事会58会期が2月24日に開幕しました。
開会にあたり、最初に、世界中の人権侵害の被害者への1分間の黙祷が行われました。

 ユルク・ラウバー国連人権理事会議長は、人権理事会第58会期の開会を宣言し、地球規模の深刻な困難や人権に対する警戒すべきレベルのバックラッシュが世界各地で起きていると述べました。人権理事会の責任は人びとの生活に具体的な影響を及ぼすことであり、人権侵害の被害者を中心に据えて議論をしなくてはなりません。国際社会はこの困難に立ち向かい、人権は選択肢ではないこと、そして平和、安全、開発にとって不可欠なものであることを再確認する必要があります。

 アントニオ・グテーレス国連事務総長は、国連憲章違反であるロシアによるウクライナ侵攻から3年という節目に国連総会が始まったと述べました。人権は人類にとって酸素です。しかし、人権は次々と窒息死させられています。独裁者たちによって、女児を学校に行かせず女性から基本的人権を奪う家父長制によって、戦争と暴力によって、国際法や国連憲章を無視する主戦論者たちによって、気候変動危機によって、道徳的に破綻した世界金融システムによって、人工知能のように暴走するテクノロジーによって、集団全体に対する不寛容の増大によって、分断と怒りの声によって。これは、これまで去80年に渡り築き上げてきた人権の保護と前進の仕組み・制度に対する直接的な脅威です。

 2月24日から4月4日まで開かれる今会期では、死刑制度や子どもの権利、他をテーマにした7つのパネルディスカッション、国あるいは課題をテーマにしたディベート、独立専門家や特別報告者によるレポートの発表、14カ国のUPR成果文書などについて議論が行われ、最終日に決議と結論が採択されます。その一部を以下にご紹介します。

■ 3月7日:適切な住居の権利に関する特別報告者、Balakrishnan Rajagopalの「世界的な住宅危機と移民に対する公正なアプローチに向けて」に関する報告とそれに続く対話型討論。レポートはこちら

■ 3月7日:「インフォーマル経済における労働と社会保障の権利実現」に関するパネルを開催。パネルには、現代的形態の奴隷制に関する特別報告者である小保方智也も参加する予定。

■ 3月10日:「障害者の権利:デジタル技術と支援技術、ネットいじめ対策、デジタル・インクルージョン」をテーマに、障害者の権利に関する年次対話型討論を開催。パネルには、障害者の権利に関する特別報告者のヘバ・ハグラスも参加、障害者の討論へのアクセスを全面保証する予定。関連文書:HRC res. 7/9, 55/8 & 57/6

■ 3月12日:子どもと武力紛争の問題を担当する事務総長特別代表(Virginia Gamba)の年次報告書の発表と、それに続く双方向対話。

■ 3月13日:「子どもの権利」をテーマにした毎年恒例の終日会議を開催。
午前は「子どもの権利に基づいた幼児期発達へのアプローチを進めるための優先課題」に関するパネルディスカッション、午後は「非常事態における幼児期発達」に関するパネルディスカッションを開催。子どもに対する暴力を担当する事務総長特別代表のNajat Maalla M’jidが参加。

■ 3月21日:マイノリティ問題に関する特別報告者、Nicolas Levratによる「マイノリティ集団に属する人のアイデンティティへの権利」に関するレポートの提出とそれに続く双方向対話。

■ 3月27日:「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約採択60周年」をテーマに、国際人種差別撤廃デー記念行事を開催。関連文書はこちら

人権理事会の様子は UN Web TVよりご覧いただけます。
58会期に関連する文書はこちらから。


国連人権理事会58会期(2025年2月24日開幕)は、32本の決議を採択し、4月4日に閉幕しました。IMADRの活動内容とかかわりのあるものを中心に、決議の一部をご紹介します。

◼️ 宗教と信念の自由に関して、1)特別報告者の任期を3年延長すること、2)人権理事会および国連総会の作業計画に基づき、任務の遂行状況を毎年報告すること、3)「宗教または信念に基づくあらゆる形態の不寛容および差別の撤廃に関する宣言」を実施するための措置を継続的に検討することを求める決議案が採択された。

◼️ 人権、民主主義、法の支配に関して、1)第6回人権、民主主義、法の支配フォーラム(2026年開催予定)のテーマを「市民参加のための教育:次世代のエンパワメント、知識と批判的思考を育む」に決定する決議案が採択された。

◼️ すべての国における経済的、社会的、文化的権利の実現に関する課題に関して、1)国の経済的、社会的および文化的権利の義務を念頭に、持続可能な開発のための資金に公的資源を動員する有望な実践と方策に関するパネルディスカッションを61会期に開催すること、2)事務総長に対し、すべての国における経済的、社会的および文化的権利の実現に関する課題について報告書を作成し、人権理事会64会期に提出することを求める決議案が採択された。

◼️ 食糧に関する権利の特別報告者の任務に関して、1)任期を3年延長すること、2)国際人権法に沿ったフードシステムの管理の形成について、国およびステークホルダーに助言とガイダンスを提供すること、3)人権理事会および国連総会の作業計画に基づき、任務の遂行状況を毎年報告するよう要請する決議案が採択された。

◼️ すべての人の文化的権利の享有と文化的多様性の尊重の促進に関して、特別報告者に対し、文化的権利の包括的な促進と保護に向けて、関連するステークホルダーと引き続き協力し、人権理事会と国連総会に定期的に報告するよう要請する決議案が採択された。

◼️ 高齢者の人権の促進と保護に関する法的拘束力のある文書を作成するための制限のない政府間作業部会に関して、1)高齢者による人権の完全な享有を促進、保護、確実にすることを目的に、高齢者の人権に関する国際的に法的拘束力のある文書を起草し、理事会に提出することを任務とする制限のない政府間作業部会を設置すること、2)同政府間作業部会は、国連総会が合意した場合には、ジュネーブで毎年2回、1回5日間の会期をハイブリッド形式で開催し、ウェブキャストで配信することを決定する決議案が採択された。また、進捗状況に関する報告書を人権理事会に提出し、63会期での審議にかけるとともに、報告書を読みやすい形で入手できるようにすることを求める決議案が採択された。

◼️ 女性、外交、人権に関して、人権理事会59会期、62会期、65会期中に開催される女性の権利に関する年次の全日ディスカッションで、女性の意思決定への参加と代表を妨げる差別と構造的障壁の撤廃に関する討議において、女性と外交の国際デーを祝うこととする決議案が採択された。

◼️ 清潔で健康的で持続可能な環境に関する人権:海洋と人権に関して、各国に対し、1)環境問題に関して、参加する権利、情報にアクセスする権利、司法(効果的な救済を含む)への権利などを保障する強力な法律を採択し、実施すること、2)健全な生態系と生物多様性を保全、保護、回復し、自然資源の管理において参加、包摂、透明性、説明責任を重視した人権ベースのアプローチを採用することにより、持続可能な管理と利用を確保するよう求める決議案が採択された。

◼️ 人権擁護家と新しい、新興テクノロジー:デジタル時代における女性を含む人権擁護家の保護に関して、人権高等弁務官事務所(OHCHR)に対し、1)市民社会組織や人権擁護家、民間セクターと協力し、現在およびこれからのビジネスモデルとデジタルデバイドとセンシティビティに考慮しつつ、技術による人権擁護家へのリスクや異なる地域におけるベストプラクティスを評価するため、3つの地域ワークショップを開催すること、2)その報告書を作成すること、3)報告書には人権擁護家(差別にさらされている者や武力紛争下で活動する者を含む)へのデジタル技術によってもたらされるリスクに対するデューディリジェンスや改善のための勧告を含むこと、それを人権理事会63会期に提出することを要請する決議案が採択された。

◼️ パレスチナ人民の自決権に関して、1)イスラエルに対し、2024年7月19日の助言的意見における国際司法裁判所の法的所見と決定に従い、国際的責任や継続性を伴う不法行為である東エルサレムを含むパレスチナ占領地における不法な駐留を直ちに停止し、パレスチナの政治的独立、主権、領土保全に対するあらゆる障害を撤廃し、是正するよう求めるとともに、パレスチナとイスラエル、2つの国家という形での解決を支持することを再確認すること、2)各国に対し、パレスチナ人民の自決権の実現を促進する措置を採用し、同権利の実施に関して国連に援助を提供するよう求める決議案が採択された。

◼️ 宗教や信仰に基づき人びとに向けられる不寛容、否定的なステレオタイプ、スティグマ化、差別、暴力の扇動、暴力行為との闘いに関して、高等弁務官に対し、本決議の実施のためにとられた取り組みと措置に関し、各国から提供された情報に基づき、詳しい結論を含む包括的なフォローアップ報告書を作成し、人権理事会61会期に提出するよう要請する決議案が採択された。

▶︎ 閉会式サマリー(全文英語)はこちら

翻訳・抄訳: 反差別国際運動(IMADR)