資料室
DOCUMENT
アフリカ系の人びとに対する人種差別に関する一般的勧告34(2011, 79会期)
人種差別の撤廃に関する委員会は、
国際連合憲章、並びに、すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等であるとし、また、いかなる事由による差別をも受けることなく、ここに掲げるすべての権利と自由とを享有することができるとした世界人権宣言、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、及び市民的及び政治的権利に関する国際規約を想起し、
また、アフリカ系の人々は、2001 年に南アフリカのダーバンで開催された人種主義、人種差別、外国人嫌悪及び関連のある不寛容に反対する世界会議、その準備会議、とりわけ 2000 年にチリのサンティアゴで開催された+5会議において更なる認識と可視化を受け、これらの認識と可視化は、それぞれ諸宣言及び行動計画に反映されていることを想起し、
人種主義、人種差別、外国人嫌悪および関連のある不寛容に反対する世界会議のフォローアップに関する一般的勧告 XXVIII(2002 年)、並びに、委員会がダーバン宣言及び行動計画の実施を強く求めるというコミットメントを表明したダーバンレビュー会議のフォローアップに関する一般的勧告 XXXIII(2009 年)を再確認し、
ダーバン宣言及び行動計画で表明されたアフリカ系の人々に対する差別への非難をさらに留意し、この条約の締約国の報告書を検討した結果、アフリカ系の人々が人種主義及び人種差別を経験し続
けていることが明らかになっているという見解を示し、
アフリカ系の人々のための国際年を契機として、第 78 会期(2011 年 2 月から 3 月)に、アフリカ系の人々に対する人種差別について、1日間のテーマ別討議を開催し、ここで委員会は締約国、国際連合諸機関及び専門機関、特別報告者及びその代理人、並びに非政府機関からの見解を聴取しかつ意見交換を行い、かつ、これらの人々に対する差別のいくつかの側面を明確化し、この差別を克服するための世界中の闘いをさらに支援することを決定し、
締約国に向けて、次のような勧告を策定する。
Ⅰ. 説明
1.この一般的勧告の目的のために、アフリカ系の人々とは、ダーバン宣言及び行動計画にそのような人々として言及され、自らをアフリカ系の人と自己認識している人をいう。
2.委員会は、数百万ものアフリカ系の人々が、人種差別によってこれらの人々を社会階層の最も低い地位においている社会に生きていることを認識している。
Ⅱ. 諸権利
3.アフリカ系の人々は、国際的な諸基準に従い、平等の条件で、かついかなる差別もなしに、すべての人権及び基本的自由を享有する。
4.アフリカ系の人々は、世界の多くの国に生きており、地域住民の中で、あるいは共同体において分散して生活しているが、この地域住民・共同体内で、これらの人々は、適当な場合には、個人的に、若しくはその集団の他の構成員と共同で、次の特定の権利を差別なしに行使することが認められる。
(a) これらの人々が伝統的に占有してきた土地の所有権、並びにその使用、保存及び保護に対する権利、並びにこれらの人々の生活様式及び文化が、土地及び資源の利用と結びついている場合には、天然資源に対する権利、
(b) これらの人々の生活様式、並びに組織、文化、言語及び宗教的表現の形態を保存し、維持し、及び育成するための、これらの人々の文化的アイデンティティに対する権利、
(c) これらの人々の伝統的な知識、並びに文化的及び芸術的遺産の保護に対する権利、
(d) 国際的基準にしたがって、これらの人々の権利に悪影響を及ぼすおそれのある決定に関する、事前の協議を行う権利。
5.委員会は、アフリカ系の人々に対する人種主義及び人種差別が、多様な形態、とりわけ構造的及び文化的な形態で表現されることを了解している。
6.アフリカ系の人々に対する人種主義及び構造的差別は、忌まわしき奴隷制に起源を有しており、とりわけ、次のような分野における、これらの人々に悪影響を及ぼす不平等状態において明らかである。すなわち、先住民族とともに、貧困状態にある人の中でも最も貧困な人に分類されていること、政治的及び制度上の意思決定プロセスに参加し、及び代表者を有する比率が低いこと、教育へのアクセス及びその修了並びに質について、これらの人々が直面している更なる困難と、これによって、世代間で貧困の連鎖を引き起こしていること、労働市場へのアクセスにおける不平等、これらの人々の民族的及び文化的多様性の社会的認知及び評価が限定されていること、並びに刑事拘禁を受けている人数が不均衡に存在していることである。
7.委員会は、アフリカ系の人々に悪影響を及ぼす構造的差別を克服するためには、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(第 1 条第 4 項及び第 2 条第 2 項)において確立している特別措置(積極的差別是正措置)を緊急に採択することが必要であると認めている。特別措置の必要性は、この条約に基づいて締約国に対して繰り返しなされてきた総括所見及び勧告の主題であり、このことは、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約における特別措置の意味と範囲に関する一般的勧告 32(2009 年)で要約されている。
8. アフリカ系の人々の権利行使のために、委員会は、締約国が次の措置を取るよう勧告する。
Ⅲ. 一般的性質を有する措置
9.自国の領域内に生活しているアフリカ系の人々の集団を、特に人口の細分化されたデータの収集を通じて確認する措置を取ること。その際、この委員会の一般的勧告、とりわけ住民の人口構成に関する一般的勧告4(第 9 条)(1973 年)、ある特定の人種的若しくは種族的集団の認定に関する一般的勧告
8(第 1 条第 1 項及び第 4 項)(1990 年)、並びに異なる人種、民族的若しくは種族的集団、又は先住民族に属する者の報告に関する一般的勧告 24(第 1 条)(1999 年)に留意すること。
10.アフリカ系の人々に対するあらゆる形態の人種差別を、この条約の内容に沿って撤廃するために、適切な場合には、立法を再検討し、制定し、又は改正すること。
11.アフリカ系の人々の状況を改善し、かつそれらの人々を国家機関及び公務員、並びにいずれかの個人、集団又は組織による差別から保護することを目的として、国家戦略及び計画を再検討し、採択し、及び履行すること。
12.アフリカ系の人々が差別を受けないことを確保するために既に存在する立法及び他の措置を十分に履行すること。
13.アフリカ系の人々の集団及び/又はこれらの人々の代表者と、関連国家当局との間で、適切な形態の意思疎通及び対話が行われるよう奨励し、発展させること。
14.市民社会及び影響を受けている集団の構成員と協力して、特にアフリカ系の人々に関して、無差別、他者への尊敬及び寛容の精神に基づき、住民全体に対して教育を行うために必要な措置をとること。
15.アフリカ系の人々が有する平等な人権の尊重を促進するために、既存の機構を強化し、又は専門的な機構を創設すること。
16.前述のパラグラフ1の内容に沿って、アフリカ系の人々に対する差別の現実に関して定期的な調査を実施すること、並びに、委員会に対する報告において、とりわけ、ジェンダーの視点を含めた、アフリカ系の人々の地理的な分布、並びに経済的及び社会的状況に関して、細分化されたデータを提供すること。
17.自国の政策及び行動に対し、過去になされたアフリカ系の人々に対する害悪、その主なものは 植民地主義及び大西洋を横断する奴隷貿易であるが、これらの否定的な影響を実効的に認めること。その効果は、今日においても引き続きアフリカ系の人々に対して悪影響をもたらしている。
Ⅳ. 特別措置の位置と役割
18.委員会の一般的勧告32(2009 年)を考慮に入れて、アフリカ系の人々に対するあらゆる形態の人種差別を撤廃することを意図した特別措置を採択し、かつ履行すること。
19.アフリカ系の人々に対する差別を撤廃し、かつこれらの人々によるすべての人権及び基本的自由の完全な享有を確保するために、条約第 1 条及び第 2 条に基づく特別措置を含む、アフリカ系の人々の参加を伴う包括的国家戦略を策定し、かつ実施すること。
20.人種差別、とりわけ歴史的要因の結果である差別の被害者の状況に対処するために、特別措置(積極的差別是正プログラム)の重要性について、公衆に対して教育し、かつ意識を向上させること。
21.公的及び私的分野におけるアフリカ系の人部位との雇用を促進することを目的とした特別措置を開発し、かつ履行すること。
Ⅴ. 人種差別のジェンダーに関連する側面
22.ある形態の人種差別が、女性に対して固有の、そして特定の影響を女性に対して及ぼすことを認識し、委員会の人種差別のジェンダーに関連する側面に関する一般的勧告25(2000 年)に適切な注意を払って、人種差別を撤廃することを目的とした措置を設計し、かつ履行すること。
23.計画され、かつ履行されるすべての計画並びにプロジェクト、及び採択されるすべての措置において、しばしば複合差別の被害者となっているアフリカ系の女性の状況を考慮に入れること。
24.委員会に対するすべての報告に、アフリカ系の女性に対する人種差別に特に対処する、条約を履行するためにとられた措置に関する情報を含めること。
Ⅵ. 子どもに対する人種差別
25.アフリカ系の子どもたちが有している特定の脆弱性と、このことが世代間で貧困の連鎖を引き起こすおそれがあること、並びにアフリカ系の人々に悪影響を及ぼす不平等を認識し、これらの人々の権利、特に子どもたちの生活に最も影響を及ぼす分野に対応するものの行使における平等を確保するための特別措置を採択すること。
26.女児の特別の権利及び脆弱な状態にある男児の権利を保護することを特に目的としたイニシアティブに取り組むこと。
Ⅶ. ヘイトスピーチ及び人種主義的暴力に対する保護
27.人種的優越性及び劣等性の思想、又はアフリカ系の人々に対する暴力、憎悪、若しくは差別を正当化しようとする思想のすべての流布を防止する措置を取ること。
28.アフリカ系の人々に対する人種主義的な動機による暴力行為を防止するための措置をとることによって、いかなる差別もなしに、アフリカ系の人々の身体の安全及び完全性の保護を確保すること。当該行為を調査し及び処罰するために警察、検察及び裁判所による迅速な行動を確保すること。並びに、公務員であるか、その他の者であるかを問わず、加害者が不処罰を享受しないよう確保すること。
29.インターネット及び類似の性質の関連設備を媒介としてなされるものを含む、アフリカ系の人々に対する差別又は暴力のすべての扇動に対する厳格な措置をとること。
30.メディアに従事する者に対して、偏見を永続化させないメディアの責任を含む、アフリカ系の人々に対する差別の性格及び発生状況に関する自覚を促進する措置を取ること。
31.法執行官、政治家、及び教育者による、人種に基づきアフリカ系の人々を標的にし、スティグマを与え、ステレオタイプ化し、またはプロファイリングを行うあらゆる傾向に対抗する断固たる行動をとること。
32.アフリカ系の人々、その歴史、及びその文化、並びに包摂的社会を建設する重要性、そしてあらゆるアフリカ系の人々の人権とアイデンティティを尊重することを民衆に教育するための教育上の、及びメディアを通じたキャンペーンを発展させること。
33.人種差別的な、または偏見に満ちた表現の使用を撤廃するために、メディア団体に向けた行動規範を通じて、メディアによる自己モニタリングの手法を開発し、実施するのを奨励すること。
Ⅷ. 司法運営
34.自国の司法運営システムの影響を評価するにあたり、刑事司法制度の運営および機能における人種差別の防止に関する一般的勧告31(2005 年)を考慮に入れること、並びにアフリカ系の人々に関連する措置に対して、特別の注意を払うこと。
35.法律扶助を提供すること、個人または集団の申し立てを容易にすること、並びに非政府機関がそれらの人々の権利を防御することを奨励すること。
36.人種主義的動機及び目的をもって犯罪を実行することがより厳格な刑罰を認める加重事由を構成する規定を刑事法の中に導入すること。
37.アフリカ系の人々に対して人種的な動機による犯罪を実行したすべての人の訴追を確保すること、及びかかる犯罪の被害者に対する十分な賠償の供与を保証すること。
38.また、テロリズムを含む犯罪との闘いにおいてとられる措置が、人種及び皮膚の色に基づいて、目的又は効果において差別するものではないことを確保すること。
39.特に逮捕及び拘禁との関係で、警察又は他の法執行機関及び法執行官による、アフリカ系の人々に対する違法な実力の行使、拷問、非人道的若しくは品位を傷つける取り扱い又は差別を防止する措置をとること、並びにアフリカ系の人々が人種的または民族的プロファイリングの慣行の被害者とならないことを確保すること。
40.警察への、及びその他の法執行官としての、アフリカ系の人々の募集を奨励すること。 41.アフリカ系の人々に対する偏見に基づく不正義を防止するため、公務員及び法執行機関に対する訓練計画を企画し、かつこれを実施すること。
Ⅸ. 市民的及び政治的権利
42.締約国におけるあらゆるレベルの当局が、自らに影響を及ぼす決定に参加するアフリカ系の人々の集団の構成員の権利を尊重するよう確保すること。
43.アフリカ系の人々に対して、平等かつ普通の選挙権に基づく選挙に投票及び立候補によって参加する権利を保障するための、並びに行政機関のあらゆる部署に相応に代表されるための、特別かつ具体的な措置をとること。
44.アフリカ系の人々の集団の構成員に対し、公的生活及び政治的生活への自身の活発な参加の重要性について、自覚を促進すること、並びに、かかる参加に対する障害を撤廃すること。
45.あらゆる中央および地方行政機関におけるアフリカ系の人々の平等な参加の機会を保障するために、特別措置を含む、あらゆる必要な措置をとること。
46.アフリカ系の人々の集団に属する公務員及び政治的代表者の政治的政策決定能力及び公務遂行能力を向上させるための訓練計画を企画し、かつこれを実施すること。
Ⅹ. 市民権へのアクセス
47.市民権及び国籍取得に関する立法が、アフリカ系の人々に対して差別しないよう確保すること、並びにアフリカ系の長期的定住者又は永住者について存在するかもしれない国籍取得への障壁に十分な注意を払うこと。
48.人種又は世系に基づく市民権の剥奪が、国籍に対する権利の無差別な享有を確保する締約国の義務に違反であることを認識すること。
49.いくつかの事案において、長期的定住者又は永住者に対する市民権の否認が、条約の反差別原則に違反する雇用及び社会福祉へのアクセスに不利益を生じさせる結果となることを考慮すること。
Ⅺ. 経済的、社会的及び文化的権利
50.特に教育、住居、雇用及び健康の分野における、アフリカ系の人々による経済的、社会的及び文化的権利の享有を妨げるすべての障害を除去するための措置をとること。
51.特定の締約国領域内にいるアフリカ系の人々の集団の中にみられる貧困を根絶し、及び、アフリカ系の人々がしばしば経験している社会的排除又は周縁化と闘うための措置をとること。
52.平等かつ非差別を基礎とする経済的及び社会的発展計画を立案し、採用し及び実行すること。
53.労働条件および労働要件(差別的目的または効果を有する雇用規則および慣行を含む)に関して、アフリカ系の人々に対する差別を撤廃する措置をとること。
54.国際金融機構を含む国際機構が支援する開発計画又は援助計画が、アフリカ系の人々の経済的及び社会的状況を考慮に入れることを確保するため、当該国際機構と協働すること。
55.アフリカ系の人々に対する衛生及び社会保障サービスの平等な利用を確保すること。 56.衛生計画を立案し及び実施するに際して、アフリカ系の人々を関与させること。
57.アフリカ系の人々に対する全般的なエンパワーメントの機会を創出することを目的とした計画を立案し及び実施すること。
58.アフリカ系の人々に悪影響を及ぼす雇用における差別及び労働市場におけるあらゆる差別的慣行を禁止する、より実効的な立法を採用し又は作成すること、並びにこのようなあらゆる慣行からこれらの人々を保護すること。
59.公的行政において、及び私企業において、アフリカ系の人々の雇用を促進する特別措置をとること。
60.住居に関するアフリカ系の人々の隔離を回避することを目的とした政策及び計画を開発し、かつ実施すること、並びに住居計画に基づく建設、再建及び維持について、アフリカの人々の集団をパートナーとして関与させること。
Ⅻ. 教育分野での措置
61.教科書にみられる、アフリカ系の人々に関するステレオタイプ又は品位を傷つける肖像、言語、名前若しくは意見を伝達するすべての言語を再検討し、それを、すべての人間固有の尊厳及び平等というメッセージを伝達する肖像、言語、名前及び意見に置きかえること。
62.公的及び私的教育組織が、人種又は世系に基づき子どもたちを差別せず、または排除しないことを確保すること。
63.アフリカ系の子どもたちの学校ドロップアウト率を減少させる措置をとること。
64.すべてのアフリカ系の児童・生徒・学生の教育を促進することを目的とした特別措置の採用を検討すること、アフリカ系の人々による高等教育への公平なアクセスを保証すること、及び職業教育上のキャリアを促進させること。
65.アフリカ系の児童・生徒・学生に対するあらゆる差別を撤廃するよう、決意をもって行動すること。
66.すべての適切な教育段階において、アフリカ系の人々の歴史及び文化に関する章を教科書に含めること、並びに将来世代のためにこの知識を博物館及び他の場において保存すること、これらの人々の歴史及び文化に関して、書籍及び他の印刷物の出版及び配布、並びにテレビ及びラジオプログラムの放送を奨励しかつ支援すること。