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世系に基づく差別に関する一般的勧告 29(2002年、第61会期)

人種差別の撤廃に関する委員会は、
世界人権宣言が、人はその尊厳及び権利において生まれながらにして自由かつ平等であり、同宣言が定める権利及び自由を「人種、皮膚の色、性、言語、宗教、社会的出身、出生又は他の地位」を含むいかなる差別もなしに享有する権利を有すると規定し ていることを想起し、
「世界人権会議ウィーン宣言」が、政治的、経済的及び文化的体制の如何にかかわらず、すべての人権及び基本的自由を促進し、及び保護することが国家の責務であると規定していることをも想起し、
「人種主義、人種差別、外国人排斥及び関連する不寛容と闘うダーバン世界会議」の宣言及び行動計画を衷心より支持した、委員会の「一般的な性格を有する勧告 XXVIII 」を再確認し、ダーバン宣言及び行動計画における、アジア系及びアフリカ系の者( Asian and African descent )、並びに先住民 及びその他の形態の世系を共有する者に対する差別に対する非難をも再確認し、
「人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身」に基づく差別の撤廃を求める、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」の規定に委員会の行動の根拠をおき、条約第1条第1項における「世系」という文言が「人種」のみを指すものではなく、その他の差別禁止事由を補完する意味及び適用範囲を有するという、委員会の一貫した見解を確認し、
「世系」に基づく差別がカースト及びそれに類似する地位の世襲制度( systems of inheri ted status )等の、人権の平等な享有を妨げ又は害する社会階層化の形態に基づく集団の構成員に対する差別を含むことを強く再確認し、かかる差別の存在が、委員会による多数の条約締約国の報告書の検討から明らかになりつ
つあることに留意し、
世系に基づく差別に関するテーマ別協議を企画し、かつこれを実施し、委員会の委員の貢献、並びに、いくつかの政府及び他の国際連合の諸機関の委員、特に「人権の促進及び保護に関する小委員会」の専門家の貢献を得、
世界の様々な地域における世系に基づく差別の程度及びその存続状況に関 する一層の証拠を委員会に提供した、多数の関係民間団体及び個人による、口頭又は書面による貢献をも得、
世系に基づく差別という惨禍を撤廃し、当該差別によって被害を受けている集団の自立を促進するために、あらゆるレベルの国内の法令及び慣行において、新たな努力及び現在行われている努力の強化が必要であると結論し、
世系に基づく差別を撤廃し、及びそれがもたらす被害状況を改善するための措置をとってきた諸国の努力を推賞し、
未だこの現象を認識し、及びこれに対処していない関係諸国に対して、かかる行動をとる措置をとることを 強く奨励し、
世系に基づく差別の問題に関して、委員会と政府との間の対話が行われてきた積極的な精神を想起し、かかる建設的な対話がさらに継続されることを期待し、
あらゆる形態の世系に基づく差別と闘うために、現在行われている作業に最高度の重要性を付与し、
カースト及びそれに類似する地位の世襲制度等の世系に基づく差別を条約違反として強く非難し、
締約国に対して、自国の特定の諸状況の下で適当な以下の措置のすべて又はいくつかのものを採用するよう勧告する。

1.一般的な性格を有する措置
1.自国の管轄の下にある世系を共有する集団、特に、カースト及びそれに類似する地位の世襲制度に基づく差別を受けている集団の存否を確認するための措置をとること。当該集団の存在は、次のすべて又はいくつかのものを含む様々な要素を基礎として認識し得る場合がある。世襲された地位を変更することができないか、又はそれが制限されていること。集団外の者との婚姻について社会的に強制される制約があること。住居及び教育、公的な場所及び礼拝所、並びに食料及び水の公的分配所の利用における隔離を含む、私的及び公的隔離。世襲された職業又は品位を傷つける若しくは危険な 作業を放棄する自由が制限されていること。債務奴隷制に服していること。汚れ又は不可触という非人間的な理論に服していること。並びに、人間の尊厳及び平等に対する尊重が一般的に欠けていること。
2.世系に基づく差別の明示的な禁止を自国の憲法に組み入れることを検討すること。
3.条約に従い、世系に基づくあらゆる形態の差別を禁止するために、立法を再検討し及び制定し又は修正すること。
4.現行の立法その他の措置を断固として実施すること。
5.世系を共有する集団の構成員に対する差別を撤廃するため、被害を受けている集団の構成 員の参加を得て、条約第1条及び第2条に基づく特別措置を含む、包括的な国家戦略を作成し、及びこれを実行すること。
6.人権及び基本的自由の享有を確保するため、特に、公職、雇用及び教育を利用する権利に関して、世系を共有する集団に対する特別優遇措置をとること。
7.既存の制度の強化又は特別の制度の創設を通じて、世系を共有する集団の平等の人権の尊重を促進するための制定法上の制度を確立すること。
8.世系に基づく差別の被害者の状態に対処するための積極的差別是正措置の重要性について、一般公衆を啓発すること。
9.世系を共有する集団の構成員と、他の社会集団の構成員との間の対話を奨励すること。
10.世系に基づく差別の現状について定期的調査を実施すること、並びに、世系を共有する集団の地理的分布並びに経済的及び社会的状況に関して、ジェンダーの視点を含めて、委員会に提出する自国の報告書のなかで細分化した情報を提供すること。

2.世系を共有する集団の女性構成員に対する複合差別
11.計画され及び実施されるすべての計画及びプロジェクト並びに採用された措置において、複合差別、性的搾取及び強制売春の犠牲者としての、当該集団の女性構成員の 状況を考慮に入れること。
12.女性に対する世系に基づく差別を含む複合差別、特に身体の安全、雇用及び教育の分野における複合差別を撤廃するために必要なすべての措置をとること。
13.世系に基づく差別によって被害を受けている女性の状況に関する、細分化されたデータを提供すること。

3.隔離
14.世系を共有する集団の隔離を生じさせる趨勢を監視し及び報告すること、並びに、かかる隔離から生ずる負の諸結果の根絶のために努力すること。
15.住居、教育及び雇用における隔離を含む、世系を共有する集団の構成員に向けられた隔離の慣行を防止し、禁止及び撤廃することに着手すること。
16.すべての者に対して、平等及び非差別を基礎として、一般公衆の使用を目的とするあらゆる場所又はサービスを確保すること。
17.被害を受けている集団の構成員と社会の他の構成員とが統合される混合社会を促進するための措置をとること、並びに、かかる定住のためのサービスが社会の他の構成員と平等に利用し得ることを確保するための措置をとること。

4.マス・メディア及びインターネットを媒介とするものを含む、憎悪表現の流布
18.カーストの優越性若しくは劣等性の思想、又は世系を共有する集団に対する暴力、憎悪若しくは差別を正当化することを企てる思想のあらゆる流布に対する措置をとること。
19.インターネットを媒介としてなされるものを含む、当該集団に対する差別又は暴力のすべての扇動に対する厳格な措置をとること。
20.メディアに従事する者に対して、世系に基づく差別の性格及び発生状況に関する自覚を促進する措置をとること。

5.司法
21.世系を共有する集団のすべての構成員に対して、法的扶助の供与、 集団訴訟の促進、及び当該集団の権利を擁護する民間団体の奨励によるものを含む、司法制度の平等の利用を確保するために必要な措置をとること。
22.妥当な場合には、司法上の決定及び公的行為が、世系に基づく差別の禁止を十分に考慮に入れることを確保すること。
23.当該集団の構成員に対する犯罪を実行した者の訴追及び、かかる犯罪の被害者に対する十分な賠償の供与を確保すること。
24.警察その他の法執行機関への世系を共有する集団の構成員の募集を奨励すること。
25.世系を共有する集団に対する偏見に基づく不正義を防止するた め、公務員及び法執行機関に対する訓練計画を企画し、かつこれを実施すること。
26.警察その他の法執行機関と当該集団の構成員との間の建設的対話を奨励し、及び促進すること。

6.市民的及び政治的権利
27.関係国のあらゆるレベルの当局が、世系を共有する集団の構成員に影響を及ぼす決定を行うに際して、当該集団の構成員を関与させることを確保すること。
28.世系を共有する集団の構成員に対して、平等かつ普通の選挙権に基づく選挙に投票及び立候補によって参加する権利を保障するための、並びに行政機関及び立法機関に相応に代表されるための、特別かつ具体的な措置をとること。
29.当該集団の構成員に対して、公的及び政治的生活に積極的に参加することの重要性に対する自覚を促進すること、並びに、かかる参加の障害を撤廃すること。
30.世系を共有する集団に属する公務員及び政治的代表者の政治的政策決定能力及び公務遂行能力を向上させるための訓練計画を企画し、かつこれを実施すること。
31.世系を理由とする暴力の再発を防止するため、かかる暴力が生じやすい分野を特定するための措置をとること。
32.世系を共有する集団の構成員であって、当該集団外の者 との婚姻を希望するものに婚姻の権利を確保するための断固たる措置をとること。

7.経済的及び社会的権利
33.平等かつ非差別を基礎とする経済的及び社会的発展計画を入念に作成し、採用し及び実施すること。
34.世系を共有する集団にみられる貧困を根絶し、及び、当該集団の社会的排除又は周縁化と闘うための実質的かつ効果的な措置をとること。
35.国際金融機構を含む国際機構が支援する開発計画又は援助計画が世系を共有する集団の構成員の経済的及び社会的状況を考慮に入れることを確保するため、当該国際機構と協働すること。
36.公的部門及び私的部門における、被害を受けている集団の構成員の雇用を促進する特別措置をとること。
37.雇用及び労働市場における、世系に基づくあらゆる差別的慣行を特に禁止する立法及び慣行を開発し、又は改善すること。
38.雇用希望者の世系如何を調査する公的機関、私的企業及びその他の団体に対する措置をとること。
39.被害を受けている集団の構成員に対する居住及び十分な住居の利用に関する地方当局又は私的所有者の差別的慣行に対する措置をとること。
40.世系を共有する集団の構成員に対する衛生及び社会保障サービス の平等な利用を確保すること。
41.衛生計画を立案し及び実施するに際して、被害を受けている集団を関与させること。
42.世系を共有する集団の児童が搾取的児童労働に特にさらされやすいことに対処するための措置をとること。
43.債務奴隷、及び世系に基づく差別に関連する品位を傷つける労働条件を撤廃するための断固たる措置をとること。

8.教育を受ける権利
44.公的及び私的教育組織がすべての集団の児童を含むこと、並びに、当該組織が世系に基づくいかなる児童の排除をも行わないことを確保すること。
45.学校において、す べての集団の児童、特に、被害を受けている集団の児童のドロップアウト率を減少させること。その際、少女の状況に特に注意を払うものとする。
46.世系を共有する集団の構成員である生徒に対する公的又は私的機関による差別、及びいかなる嫌がらせに対しても、これと戦うこと。
47.市民社会と協力して、世系に基づく差別を受けている集団に対する非差別及び尊重の精神に基づき住民全体を啓発するために必要な措置をとること。
48.教科書にみられる、世系を共有する集団に関するステレオタイプ又は品位を傷つける肖像、言語、名前若しくは意 見を伝達するすべての言語を再検討し、それを、すべての人間の固有の尊厳及び人権の享有における平等というメッセージを伝達する肖像、言語、名前及び意見に置きかえること。