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交差性のレンズで見る、世界で起きている人権課題
世界中で起きている複雑な人権課題。私たちが知っておくべきことはたくさんあります。本記事では、レイシズムに関する特別報告者、アシュウィニィ・K・Pが、国連人権理事会59会期に提出した交差性に関する報告書をもとに、世界の人権課題を交差性のレンズから見てみます。

交差性(インターセクショナリティ)とは?
「交差する形態の差別とは、2つ以上の根拠が相互に作用し合い、独特かつ複合的な差別体験を生み出す場合に生じる。その根拠には、人種、肌の色、世系、国籍もしくは民族的出身、年齢、性別、ジェンダー、性的指向、性自認、性表現、性徴、社会経済的地位、移民の地位、障害、少数者としての地位、 先住民族の出自、健康状態、政治的またはその他の意見、宗教または信条、その他の地位」などが含まれる(パラ6)。
このように複数の根拠が相互に作用し合っている複合的な差別を明らかにする視点は交差性のレンズと呼ばれています。
「交差性のレンズを用いることは、相互に絡み合い、社会的に構築された複数の状況、特性、地位、経験、アイデンティティおよび構造というプリズムを通して、人権侵害を明らかにするものである。」(パラ8)
では、実際にこのレンズを通して世界を覗くと、どのような問題が見えてくるのでしょうか?報告書から紹介します。
🔍 世界で起きている差別の事例を交差性のレンズで見てみよう


ブラジルにおけるアフリカ系の子どもが経験する差別は、ジェンダー、人種、民族、社会階級などの要素が重なりあうことで、時々に変化する。例えば、ブラジルのアフリカ系の少女は、子どもであること(年齢)と人種の両方によって二重の差別を受け、良質の教育インフラや資源を十分に利用できない。
また、アフリカ系の子どもたちは、学校内での根強い人種によるいじめにあっている。この背景には、ヨーロッパ中心主義的で植民地主義的なカリキュラムや、アフリカ系ブラジル人の文化や歴史を促進する取り組みが不十分であることが考えられる。これらは、アフリカ系の子どもの人生に長期的な影響を及ぼし、疎外感をさらに強めることになる。

中東地域では、カファーラ制度の下で、移民労働者や家事労働者が交差的な差別や構造的な抑圧に直面している。この制度は、湾岸諸国で広く採用されている移民労働者の雇用・滞在管理制度で、雇用主が労働者の法的な身元保証人になるため、労働者が危険で搾取的な労働環境に閉じ込められるといった人権侵害につながりやすい。
女性家事労働者は、カファーラ制度と、雇用主の家での住み込み(労働規制の適用対象外)により、特に、搾取や虐待にあいやすく、性的暴力を含む暴力にさらされやすい。カファーラ制度は、人種、性別、肌の色、宗教、階級に基づく根深い階層構造を反映しているとされており、同地域における歴史的な奴隷制の遺産である。


リベリア出身のベアトリス(仮名、当時21歳)は、同じコミュニティ出身の斡旋業者から、奨学金が出たのでオマーンに行けるという誘いをうけた。しかし、2021年、現地へ到着すると、彼女を待っていたのは学問ではなく家事労働であった。「仕事はとてもきついです。掃除、洗車、洗濯、、、休みはまったくありません」。「殴られてばかり、食事も与えられません」と彼女は訴えた。
(Katie McQue, “Every day I cry’: 50 women talk about life as a domestic worker under the Gulf’s kafala system”, The Guardian, 25 April 2024, https://www.theguardian.com/global-development/2024/apr/25/kafala-labour-system-gulf-women-talk-about-life-as-a-domestic-worker-in-the-gulf )




ロシア連邦においてLGBTQ+の人々を標的とした差別的な法律が導入されつつある。これらは、交差的な差別や周縁化を経験している人びとに特有な影響を及ぼしている。こうした法律には、性別適合療法の禁止、最高裁判所によるLGBTQ+運動の禁止および「過激派」指定、ならびに「ゲイ・プロパガンダ禁止法」(あらゆる年齢層に対するオフラインおよびオンライン上の「非伝統的な性的関係の宣伝」を禁止するもの)などが含まれる。
差別的な法律の施行と誤った適用やそれに伴う弾圧は、ステレオタイプや敵意を煽り、さらに強化する。そして、性別、民族、宗教、年齢、出身地域などに基づき周縁化されている人びとを、複合的な排除、リスク、不可視化にさらす。



欧州全域で、ロマの人びとは、民族、人種、階級、慣習的な職業、世系、移民の地位、学歴といった複数の根拠に基づき、教育、雇用、医療・保健サービス、住居において、構造的・制度的・交差的な差別と排除に直面している。また、人種化された固定観念、ヘイトスピーチ、ヘイトクライムは、ロマをさらに社会の周縁へと追いやっている。
ロマの女性、若者、高齢者、LGBTQ+の人びと、および障がいのある人びとは、年齢、性別、性的指向、障がいによって複合的な差別に直面する。例えば、ロマ女性は、ジェンダーに基づく暴力や強制不妊手術の被害を受けやすく、こうした行為は、しばしば不処罰のままで放置される。また、一部の欧州の国々では、15歳未満と65歳以上のロマは、同年齢の非ロマに比べて貧困に陥る可能性が高い。さらに、若年層のロマは、民族性を理由とした嫌がらせを受けることが多い。
また、研究によれば、ロマの女性は非ロマの女性より平均寿命が11年短い。この格差は、クロアチア(女性で15.7年)とチェコ(男性で13.4年)で最も顕著である。


パレスチナ占領地における占領と組織的暴力により、パレスチナの女性や少女は、深刻な人権侵害や長期にわたる人道危機に直面している。
さらに、人種、宗教、地理的要因が重なることで、パレスチナ人女性や少女は深刻な人権・人道の危機にさらされている。例えば、ヨルダン川西岸地区におけるイスラエルの入植政策と水資源の管理は、パレスチナ人コミュニティを犠牲にして、イスラエル人入植地への給水を優先させている。その結果、一部のパレスチナ人コミュニティで水不足が生じ、パレスチナの女性や少女たちは衛生のために必要な水にアクセスできない。また、イスラエルの政策により農業部門が衰退し、パレスチナ人女性の雇用機会に負の影響を及ぼしている。その結果、女性たちは経済的にさらに不安定になり、孤立や抑圧に追いやられる。



また、ダリット女性は特に、手作業による糞尿処理(マニュアル・スカベンジャー)といった非正規で危険な労働に従事することが多く、清潔な水、医療、商品やサービスなどの利用を拒否されるなど、根強い差別にさらされている。
障がいのあるダリットは、雇用機会が限られているため、深刻な貧困に追いやられている。
カーストやジェンダーに基づく暴力は社会階層の固定化を強化し、司法制度における構造的な差別によって、加害者が処罰されない結果をもたらす。南アジアでは、人身取引や強制売春、ダリット女性に対する性暴力、ダリットやマイノリティの少女に対する強制的な改宗や結婚など、さまざまな形態のジェンダーに基づく暴力が報告されている。ネパールでは、ダリット女性、特にバディ・ダリットの女性は、人身取引や強制売春の被害に遭うリスクが極めて高い。
また、LGBTQ+のダリットは、身体的・性的暴力にさらされやすく、ダリットの子どもたちは、学校において体罰を受けやすい。障がいのあるダリットの子どもたちは、利用できる支援が十分なく、さらに虐待をうけやすい。

メキシコでは、19世紀以来定着してきたヨーロッパと先住民族の文化の融合を反映するメスティサージョ(混血)のアイデンティティに関する誤った言説が根強くある。これにより、アフリカ系住民や先住民族に対する人種差別は「不可視化」され、社会や制度に組み込まれ、やがて社会のあらゆる場面に浸透していく。こうした差別は、国内の法律において人種が差別の根拠として認識されていないことにより、さらに「不可視化」され、悪化する。
アフリカ系住民や先住民族は、人種、民族、肌の色、性別、貧困に基づく構造的で交差的な差別を経験しており、それらは、刑事司法制度や刑務所制度において顕著に現れる。司法制度において異文化間の視点が欠如しているため、アフリカ系住民や先住民族は、法執行官による人種プロファイリング、人種的ステレオタイプに基づく犯罪の捏造、恣意的な拘禁、人種的偏見といった差別的な扱いを受けやすい。

翻訳・抄訳:反差別国際運動(IMADR)