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人権理事会60会期 ― 35本の決議を採択し閉幕
国連人権理事会60会期(2025年9月8日開会)は、35本の決議と1本の決定を採択し、10月8日に閉会しました。IMADRの活動に関係するものを中心に、決議の一部を紹介します。
◼️ スリランカにおける和解、説明責任、人権の促進に関して、人権高等弁務官のレポートでは、1)2020年のコロナ渦をきっかけにした経済危機により、物価高騰・貧困率は2倍であること、2)終結後も、強制失踪を含み内戦中に起きた人権侵害に対する説明責任が果たされていないこと、3)民族間、宗教間の対立が依然として残っていること、4)市民社会、人権擁護家、ジャーナリスト、特に強制失踪の責任追及に取り組む人びとや環境活動家に対する嫌がらせや脅迫が行われていることなどが概説された。
これらに対し、1)公職者・元公職者によるものを含む汚職の調査、訴追を通して、経済危機に対処すること、2)人権侵害や国際人道法違反に関連する申し立てに関して、被害者や第三者の参加を通して、迅速で、徹底的、公平な調査を確保し、正当な理由がある場合には起訴すること、3)人権擁護家を含む市民社会の団体を守り、あらゆる攻撃を調査するとともに、市民社会が妨害、監視、報復の脅威なしに活動できる環境を確保することなどを求める決議案が採択された。
◼️ 現代的形態の奴隷制および人身取引に関する特別報告者に関して、1)「現代的形態の奴隷制、その原因および結果を含む、に関する特別報告者」と「人身取引、特に女性と子どもに関する特別報告者」の任務を一体化させ、「現代的形態の奴隷制および人身取引に関する特別報告者」を新たに設け、任期を3年とすること、2)この新たな特別報告者の任務開始は2026年5月1日とし、「現代的形態の奴隷制に関する特別報告者」の任期はそれまで延長すること、3)「人身取引に関する特別報告者」は2026年7月まで任務を全うすることを前提とすることなどを決定する決議案が採択された。
◼️ アフガニスタンの人権状況に関して、1)女性・女児を対象にした人権侵害や恣意的拘束、強制移住、集団的懲罰、被拘禁者に対する残虐で非人道的または品位を傷つける扱い、性およびジェンダーに基づく暴力、平和的に抗議する者に対する暴力や脅迫などを含む人権侵害や国際人道法違反が依然として行われていること、2)タリバンによる女性・女児に対する広範で組織的な抑圧が深刻化していることなどが懸念されている。特別報告者は、女性・女児に対するこうした系統的な行為は、国際刑事裁判所ローマ規程のもとでの人道に対する罪およびジェンダーに基づく迫害に相当しうると指摘している。
こうした状況に対し、1)アフガニスタンにおける国際犯罪および国際法違反行為の証拠を収集、保存、分析して、公正かつ独立した刑事手続きを進めるための資料を作成する独立した調査機構を設置することを決定し、61会期で設置に関する最新情報を提供すること、2)特別報告者の任期を1年間延長すること、3)交差性の視点より、女性・女児の人権状況に関する報告書を作成し、理事会61会期に提出することなどを決める決議案が採択された。
◼️ 安全な飲料水と公衆衛生への権利に関して、2026年12月、アラブ首長国連邦で開催予定の国連水会議および2028年に開催される「持続可能な開発のための水」国際行動10年の実施に関する会議の議題に、ジェンダー平等を含む人権の側面が適切に反映され、市民社会の包摂的な代表を確保することを求める決議案が採択された。
◼️ 死刑制度に関する問題に関して、1)死刑の適用範囲を制限しようという世界的な動きがあるにもかかわらず、犯行時に18歳未満である者による犯罪も含む犯罪への死刑執行が近年増加していること、2)社会経済的に不利な立場にある人や、民族的・宗教的・言語的マイノリティに属する人、あるいは外国人などが死刑に直面する割合が不均衡に高く、差別的かつ恣意的に生命の剥奪が行われていることなどが懸念されている。
死刑制度存置国に対し、死刑を適用しうる犯罪の数を減らし、「最も重大な犯罪」だけに制限することを求めた。また各国に対し、1)すべての容疑者が司法への平等なアクセスや公正な裁判に関する権利を行使できるようにすること、2)初期段階から死刑執行に至るまでの手続のあらゆる段階で、適切かつ有効な法的代理や通訳を確保すること、3)死刑の判決を受けた人が、恩赦や減刑を求める権利を行使できるようにすることなどを求める決議案が採択された。
◼️ 人権と先住民族に関して、1)理事会63会期中に開催される先住民族の権利に関する年次パネルディスカッションのテーマを「世界文化遺産および自然遺産の保護に関する条約:先住民族の権利と参画」にすることを決定し、2)OHCHRに対し、パネルディスカッションへの先住民族の女性と若者の参加を促すことなどを求める決議案が採択された。
◼️ 紛争時および紛争後における女性と子どもの人権の促進と保護:被害者への正義、救済、賠償の確保に関して、1)女性と子どもが難民や国内避難民として人身取引の危険にさらされている、2)ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪に相当する国際法・国際人道法の違反が特に女性や子どもを対象に増えている、3)攻撃により学校が破壊されたり、学校内外における子どもに対する暴力や性暴力の蔓延していることにより、子どもたちが教育を受けることができない。
各国に対し、1)国内の司法制度や国際司法メカニズムを通じて、人権侵害行為の責任者を法のもとに裁くこと、2)被害者に対し、十分で効果的、迅速で適切な救済・賠償を提供し、原状回復、リハビリテーション、再発防止の保証につながる措置を確保することなどを求めた決議案が採択された。
◼️ レイシズム、人種差別、外国人嫌悪(ゼノフォビア)および関連する不寛容のないスポーツの世界に関して、1)スポーツおよびスポーツイベントにおける人種差別や差別的行為が繰り返されていること、2)女性・女児はスポーツにおいて複合的な形態の差別とジェンダーに基づく暴力に直面していることなどに関して懸念が示された。
各国に対し、国内法や国際的な義務に従い、スポーツイベントにおけるあらゆる形態のレイシズム、人種差別、外国人嫌悪および関連する不寛容を徹底的かつ効果的に防止し、なくし、対処する措置を講じ、人種的動機に基づく行為に対して適切な制裁行為をとるよう求めた決議案が採択された。
61会期は、2026年2月23日から4月2日に開催予定である。
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翻訳・抄訳: 反差別国際運動(IMADR)