2024.06.29

人権理事会 ビシネスと人権作業部会と日本政府

 6月26日午前、国連人権理事会第56会期の双方向対話において、ビジネスと人権作業部会のロベルト・マッコーデール議長は、同作業部会が2023年7月24日から8月4日まで日本を訪問したことを取りあげ、日本政府の受入れと多くのステークホルダーの協力に謝意を表明した。               

 「ビジネスと人権のための国内行動計画の策定や、責任あるサプライチェーンにおける人権尊重に関するガイドラインの発行など、日本政府によるビジネスと人権に関する重要な取り組を歓迎します」と述べた。そのうえで、作業部会議長は、「報告書は、日本における体系的な人権課題、特に労働現場で顕著にみられる根深くて有害なジェンダー規範や社会規範、女性、先住民族、部落民、障害者、移民労働者、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックスなどのグループが経験する差別やハラスメントについて懸念を表明しています。これらの問題は、国や企業のビジネスと人権のイニシアチブに十分に取り入れてこなかった。 独立した国内人権機関が日本で設立されれば、こうした問題に対処し、ビジネスにおける人権尊重を促進し、企業の説明責任を強化するための政府の取り組みに、重大な役割を果たすでしょう。」と述べた。
 作業部会の報告書は、神宮外苑の再開発のケースに関して健康、気候変動、環境の問題について言及し、労働者、特に移民の権利、メディアとエンターテインメント産業、バリューチェーンと金融の規制など、日本におけるビジネスと人権に関する課題を提示している。             

 それを受けて日本代表は次のように述べた。「日本は報告書で指摘されたすべての点に同意したわけではないが、報告書は今後の議論の参考となるだろう。日本政府は、報告書を踏まえ、対話を重視しつつ、ビジネスと人権に関する施策の検討を継続していく。 作業部会がビジネスと人権をめぐる問題に光を当てたことは評価できるが、報告書の客観性を確保するためには、一定の検証を行うことがより望ましい。 今後の作業部会の活動が、より多様な意見を反映し、効率的に行われることを期待する。 」

ビジネスと人権作業部会日本訪問報告書 抜粋翻訳の一部

43. 作業部会はまた、印刷物やインターネット上で、ヘイトスピーチに分類されるような、アイヌ民族に対する敵対的で歪曲されたコメントが急増しているという報告も受けている。例えば、観光を通じてアイヌ民族に関する文化教育を促進しようとする政府の努力に留意しつつ、作業部会は、国立アイヌ民族博物館・民族共生公園でアイヌの労働者が直面している人種的嫌がらせや心理的ストレスに関して受けた報告に懸念を抱いている。

44. 作業部会が同様に懸念しているのは、以下のような韓国人・中国人労働者に対する使用者による度重なるヘイトスピーチを含む差別である[1]。ヘイトスピーチ関連で被害者が提訴した裁判のなかには、裁判手続きに何年もかかったものもあり、受けとった証言によれば、原告側が勝訴した場合でも、金銭的な補償はなかったという[2]。差別やハラスメントを受け続けている韓国人労働者の多くが在日3世(またはそれ以上)であり、彼・彼女たちの母語は日本語である。これに関連して、法務省が2017年に発表した調査では、就職や就労における差別的扱いのうち、25%は外国人であることを理由に雇用を拒否され、19.6%が低賃金、12.8%が日本人よりも劣る労働条件を経験していた[3]

45. さらに、作業部会は部落民を取り巻く人権問題について知った。部落民は、日常生活においていまだにさまざまな差別を受けている。このような差別は、労働市場にアクセスし、均等な雇用機会を享有する能力に深刻な影響を及ぼしている。日本では2016年に「部落差別の解消の推進に関する法律」が成立したが、作業部会は、特にネット上や出版においてヘイトスピーチが使われているパターンや、職場差別(採用面接での浸潤的な質問など)があることに注意を喚起された。差別裁判で勝訴した部落民もいるが、日本では裁判手続きに時間がかかるため、効果的に救済を受けることが困難であることも知らされた。

46. 個人情報保護法のもと要請されてきたにもかかわらず、個人情報保護委員会は、部落差別に利用される可能性のある戸籍情報は、同法が対象とする「センシティブ情報」の範囲に含まれないとの見解を出した。同様に、2016年に制定された「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(略称「ヘイトスピーチ解消法」)は、差別を定義しておらず、罰則規定や救済措置も含んでいない。さらに、合法的に日本に居住する「外国人」のみを対象としている。そのため、部落差別は対象外である。しかし、参議院内閣委員会において、個人情報保護委員会事務局長は、部落差別が「社会的身分」 の定義に該当し、同法が対象とする「センシティブ情報」の範囲内であるとの見解を示した[4]。そのため、作業部会はこの見解が(個人情報保護)法の実施のガイドラインに追加されるよう望む。

翻訳の全文はこちらから


[1] https://www.bbc.com/news/business-55345080 https://www.asahi.com/ajw/articles/14714919

[2] https://www.business-humanrights.org/en/latest-news/japan-lawsuit-against-leading-real-estate-fuji-corp-over-alleged-distribution-of-documents-containing-racist-expressions-constituting-hate-speech-company-comments-compensation-orders-unacceptable/

[3] https://www.moj.go.jp/JINKEN/stophatespeech_chousa.html

[4] 参議院インターネット審議中継 2023年12月7日内閣委員会から録画を参照 https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php (in Japanese)  


 

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