2023年9月27日、国連人権理事会54会期において、開発プロジェクトが先住民族、特に先住民女性、に与える影響に関する専門家会合が開催されました。ここでは、人権理事会56会期に提出されたその報告書をもとに、先住民女性・女児の権利について考えます。
開発プロジェクトは社会的利益を生み出す一方で、先住民族の暮らしに影響を及ぼします。その影響は土地の権利、環境保全、文化保護、経済的エンパワーメントといった重要な問題と交差しています。具体的には 1) 強制的な移住 2) 生態系の破壊による生活様式の激変 3) 生計手段や伝統的知識の喪失 4) 先祖代々の土地との精神的なつながりの断絶を引き起こす可能性があるのです。
とりわけ、先住民女性・女児たちはより影響を受けやすい立場にいます。先住民女性たちは地域社会の中核を担い、文化的な遺産を護り、伝統的知識を伝え、持続可能性を確保する上で極めて重要な役割を担ってきました。そのなかでも、次のような状況においてはより脆弱になります。
・ 強制的な移住、ジェンダーに基づく暴力、土地・領土・資源へのアクセスの欠如、経済的疎外
・ 土地の権利を擁護し、合意のない開発プロジェクトに反対した際の暴力、嫌がらせ、恣意的な拘束、活動の非合法化
・ 家父長制的な法律、特に相続や家族の土地や資源の共同所有に関する法律など、に基づく交差性差別
・ 不平等、健康問題、生殖に関する権利の制限、教育アクセスの欠如、気候変動
・ 有毒汚染物質への接触、性的暴力、搾取、人身売買を含む、特に先住民の女性と女児に対する環境暴力(environmental violence)。
これらの状況は先住民族内のジェンダー不平等を悪化させる一因です。日本も例外ではありません。例えば先住民族であるアイヌ民族は日本の植民地支配のもと土地を奪われ、生活手段を壊され、歴史的に文化を抹殺されてきました。そのなかでアイヌ女性は女性であるためにさまざまな差別と不利益を被ってきました。
レポートによれば、特に開発プロジェクトにおける、先住民女性・女児の権利を守るためには以下のことが必要となります。
・ 先住民女性を変革の担い手、平和の担い手、そして食糧生産と持続可能な開発に不可欠な貢献者として認識すること
・ 農業、食糧生産、織物、自然療法、音楽、芸術など、さまざまな分野における先住民女性のエンパ ワーメント
・ 公平な開発に貢献し、歴史的な格差に対処するために、地方や国レベルでの意思決定や開発プロセスへの先住民女性の参加を確保すること
・ プロジェクトのもつジェンダー視点を改善すること、先住民女性組織への十分な資金提供を確保すること、プロジェクトのライフサイクルを通じて女性たちの参加を促進すること
・ 先住民族の土地、領土、参加、協議の権利を認め、自決権と整合するよう法整備を行うこと
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