2021.02.25

日本政府に国連勧告の支持を要請  スリランカの人権 

IMADR、ヒューマン・ライツ・ウオッチそしてアムネスティ・インターナショナル日本は、バチェレ国連人権高等弁務官のスリランカに関する勧告を含むレポートへの支持を求め、茂木敏充外務大臣に共同で要請文を提出しました。

スリランカにおける人権の国際監視への日本政府の支持要請

以下、署名をする私たちは、2021年2月22日開催の国連人権理事会第46会期において、日本政府は、ミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官の最新報告書の勧告に沿って、人権理事会によるスリランカの人権状況のモニタリングの強化と証拠収集メカニズムの設置のために理事国としての権限を行使するよう要請します。同報告書は2019年11月以降のスリランカの和解、アカウンタビリティおよび人権に関して懸念すべき状況を報告しており、人権状況の悪化と将来に人権侵害が起きる高い危険性について明確な早期警告の兆候を示すと共に、強力な予防措置を求めています。

ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領の就任以来、市民社会スペースは急速に閉じられようとしています。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)には40を超える市民社会組織から、治安機関による嫌がらせ、監視、そしてスタッフの家族や海外の親族の個人情報にまで及ぶ質問を受けたという報告が届いています。テロリズム防止法(PTA)は、人権擁護者に対して恣意的に運用されており、例えば著名な弁護士であるヒジャーズ・ヒズボラさんは2020年4月から罪状もないまま同法の下で拘束されています。これらの措置による委縮効果は深刻で、スリランカの人権擁護者の多くは報復を恐れて国連の人権メカニズムと協力することを躊躇しています。正義と真相の追及のために人権理事会に働きかけていた失踪者の家族は治安機関による脅迫を受けたと報告しています。

タミル人やムスリムのマイノリティは新政権の下でさらに周縁化されています。マイノリティ・コミュニティがほとんど代表されていない東部の考古学遺産管理のための大統領タスクフォースや、独立記念日の祝典などにおける国歌斉唱からのタミル語の除外、COVID-19死亡者の火葬の強制などは、民族的・宗教的マイノリティを標的とした差別の表出のほんの一例に過ぎません。

2020年10月22日に議会で可決された第20次憲法改正案により、司法の独立性が損なわれ人権の享有が脅かされています。これにより、独立機関のメンバーの任命機関である憲法評議会が廃止され、ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領がスリランカ人権委員会や国家警察委員会などの主要な委員会の任命権を無制限に行使して支配することを可能にしました。バチェレ高等弁務官は、この改正によって司法とこれら委員会の独立性が「根本的に侵食された」と述べています。この改正は国内での救済に関する手続きの信頼性を損なうものであるため、現在進行中および将来の人権侵害に対するアカウンタビリティに悪影響を及ぼすものです。

さらに、2020年1月9日に設置された「政治的迫害」疑惑に対する大統領調査委員会は、審判のためにすでに裁判にかけられた事件への介入による刑事司法制度への干渉を行い、有名な人権侵害事件の加害者を保護しようとしてきました。例えば、2008年から2009年に11人が失踪した事件に関与した元上級将校らの起訴を委員会は阻止しようとしました。また、2008年のジャーナリストのラサンタ・ウィクレマトゥンガさんの殺害事件や、2010年の風刺漫画家のプラギース・エクナリゴダさんの強制失踪事件など、現在進行中の多くの訴訟を妨害してきました。

大統領は同委員会の最終報告書を受けて、その報告書の勧告の検討と実施のための新たな大統領特別委員会を2021年1月29日に設置しました。勧告には人権侵害事案の追及をした市民社会のリーダー、野党議員、弁護士そして公務員の市民権のはく奪などの法的措置が含まれていると報じられています。

2019年11月の現政権の誕生以来、スリランカ軍のガバナンスに対する支配力は強化されています。国防省は現在、警察やNGO事務局、国立メディアセンターといった31の文民機関を監督しています。2020年以降、大統領は少なくとも28人の現職または退役した軍人あるいは情報部員を重要な行政ポストに任命してきました。 

さらに、大統領は「安全な国、規律があり徳のある順法な社会を構築するための大統領タスクフォース」をはじめ、権限が曖昧な大統領タスクフォースをいくつも設置し、その人事を治安部門関係者で埋めてきました。バチェレ高等弁務官は、陸軍長官となったシャベンドラ・シルバ大将や国防省長官となったカマル・グナラートネ大将(退役)といった戦争犯罪や人道に対する罪の疑いに問われている軍の高官がこれらのタスクフォースに任命されたことに懸念を表明しています。2015年以降のアカウンタビリティと民主的ガバナンスにおける重要な前進はこれら一連の動きによって後退させられています。

国連人権理事会決議30/1に基づく4つの移行期の正義に関する機関、すなわち、真実・正義・和解・再発防止に関する委員会、失踪者委員会、賠償委員会、国際人権法および国際人道法違反の疑惑調査のための司法機関のうち、スリランカ政府は失踪者委員会と賠償委員会だけを設置しました。しかし、上述の「政治的迫害」に関する大統領調査委員会の前委員長が失踪者委員会の議長に最近任命されたことで、同委員会の独立性、信頼性、有効性が危ぶまれています。

「政府は現在、国際犯罪と深刻な人権侵害に対するアカウンタビリティに関して有意義な道筋を追求する能力も意思もないことを示している」というバチェレ高等弁務官の意見に私たちは同調します。政府は人権理事会による措置の代替案として新たな調査委員会の設立を決定しましたが、信用できません。この委員会はこれまでの委員会の調査結果を分析することだけを任務としています。高等弁務官は、「終戦から12年近くが経過したが、アカウンタビリティと和解のための国内の取り組みは、結果をまったく出せなかった上に、不処罰をさらに固定化させ、制度に対する被害者の不信感を増大させてきた。真相追及に失敗し、過去の犯罪を認めようとしないリーダーをもつスリランカは、頑なに過去の否定を続けている。決議30/1で約束された「再発防止の保証」の達成にはほど遠く、現在のスリランカは重大な人権侵害を引き起こした政策や慣行の再発へと向かっている。」と、述べています。

私たちは継続してアカウンタビリティのメカニズムを求めてきました。スリランカでの和解を実現するためには国際社会の支援が必要であるという日本政府のこれまでの認識を歓迎しつつ、バチェレ人権高等弁務官が報告のなかで行った勧告のなかで、少なくとも特に下記の人権理事会に対する勧告について、理事国として日本政府が支持を表明してくださるよう要請します。

アカウンタビリティと和解に向けた進捗状況を含むスリランカの人権状況の監視を強化し、人権理事会に定期的に報告するようOHCHRに要請すること。

将来のアカウンタビリティのプロセスのために証拠やその他の関連情報を収集・保存し、被害者や遺族を擁護し、管轄権を有する加盟国の司法手続きを支援するための専門的な能力を支援すること。

アムネスティ・インターナショナル日本  反差別国際運動(IMADR)            ヒューマン・ライツ・ウォッチ

要請文の全文  

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