10月17日、女性差別撤廃委員会(CEDAW)による第9回日本政府報告の審査が行われた。CEDAW委員約20人、日本政府代表約20人、さらに傍聴をした日本のNGO参加者約100人が一堂に会するなか、5時間にわたる委員会と政府との建設的対話が行われた。委員会からの質問と政府回答の一部を紹介する。
選択議定書の批准
ラナ委員:選択議定書の批准に向けた取り組みの現状はどのようなものか?
政府:選択議定書は注目すべきものだが、検討課題がある。政府内で23 回にわたり研究会を行っており、引き続き検討していく。
ラナ委員:国際条約は国内法より上位にあるとされているにもかかわらず、裁判で援用されることはほとんどないと報告されている。裁判官の国際人権研修が求められるのではないか?
政府回答:日本が批准したすべての国際人権条約は、必要な場合において裁判で援用されている。今後も国際人権条約に関する司法関係者の研修を続けていく。
国内人権機関
サファロ委員:政府は独立した国内人権機関を設置するつもりはあるか?
法務省:国内人権機関に関しては検討中で、具体的なことを答えることはできない。全国にいる人権擁護委員が適切な対応をして人権侵害の問題に対処している。
マイノリティ女性
ラナ委員:差別に対処する個別法(部落差別解消推進法やアイヌ施策推進法など)の施行について称賛するが、これら法律には複合差別に関する定義が含まれていない。締約国はこのような定義を採用するつもりか?
政府:憲法における差別禁止規定(性別、門地、人種など)や男女共同参画基本法および基本計画の下での男女平等推進と女性差別への対応を進めている。これらもって包括的に女性に対する差別に対応している。
ミッシェリア委員:公的融資の女性受益者数について知りたい。政府は、就労、教育、訓練のいずれにも参加していない女性を含め、すべての脆弱なグループに所属する人に年金をどのように適用するつもりなのか?
政府:年金制度に男女差はないが、働き方による差が出ている。低所得の人たちに向けた策を講じているところである。
女性の政治参画
ハイダル委員:男女共同参画基本計画では、政府機関、災害管理機関、指導的地位における女性の代表を30 パーセントに引き上げるという目標が設定されている。達成に向けてどのような進展があったのか?
政府:日本には10 人の女性大使と6人の女性参事官がいる。外務省職員の40%が女性であり、この割合は増加する見込みである。
ハイダル委員:部落女性や障がい女性など、マイノリティ女性たちの意思決定の参画に関する一時的な特別措置は講じているのか?
政府:政府には障害者政策委員会があり、委員の40%が女性障害者である。中央政府は地方自治体に障害者支援計画の策定を義務付けている。
沖縄におけるジェンダーに基づく暴力
べテェル委員:沖縄で起きた女性に対する犯罪の米軍加害者が裁かれていないと報告されている。締約国はこれにどう対処しているのか? 逮捕、起訴、有罪判決に関するデータを提供してほしい。
外務省:在日米軍に関して、被疑者の身柄が米軍にあるため踏み込めない。ただし起訴前の被疑者の拘束(日本側による)は1995 年以降、5回行われてきた。「不処罰」をなくすために引き続き取り組んでいく。
選択的夫婦別姓
フェレア委員:現行の夫婦同姓制度の下で、女性の94.7%が夫の姓を名乗っている。これは、女性のアイデンティティと雇用に悪影響を及ぼしている。選択的夫婦別姓制度を認める法改正の見通しはどうか?
政府:選択的夫婦別姓について、2022 年の調査が示したように国民の意見が分かれている。より幅広い国民の理解が必要である。不便さ解消のため、パスポート、マイナカードなど、旧姓併記を拡大している。
人身取引
ラナ委員:労働搾取は依然として過少報告されている。締約国は、人身取引の事件で有罪判決を確実にし、被害者の安全な帰国を確保するための国境を越えた協力強化のためにどのような措置を講じるのか?
外務省:人身取引の被害者の認定について、各機関において適切に行っている。入管では、各種手続き等において人身取引の被害者であると察知した場合、直ちに調べて判断している。被害者保護の観点より、在留資格について対応している。
健康
デスポジャ委員:日本の女性は、中絶を希望する場合、配偶者の同意を得なければならない。独身女性が中絶をする場合、パートナーの同意を得なければならないケースもある。締約国はこの要件を撤廃するつもりはあるのか? 中絶薬へのアクセスを拡大し、女性が自宅で服用できるようにするための措置は何か取られているのか?
政府:男性の配偶者は、家庭内虐待や未婚の母親の場合を除き、妊婦が中絶を求めることを認める必要がある。この問題に関する社会的議論を深める。
雇用
アルウィス委員:雇用機会均等法は妊娠、農村出身、年齢に基づく差別を差別事由として認めていない。締約国はこの法律を改正するつもりがあるか?
政府:間接差別に関する法律の範囲を拡大することを引き続き検討する。
アルウィス委員:周縁におかれた女性は、職場でのハラスメントを不均衡なレベルで経験している。男女賃金格差は23%と大きく、労働年齢にある女性の失業率が高い。これらの問題に対処するためにどのような措置が取られたのか?
政府:就職差別は禁止されている。2019 年に職場における多様性促進プロジェクトを発足し、女性を積極的に雇用する企業は認定され、税制上の優遇措置が提供された。
●勧告
10月29日に委員会が公表したに総括所見には、国内人権機関の設置や女性に対する差別の定義、平和構築への参加、包括的性教育、女性移住労働者の権利に関するものなど多岐にわたる勧告が含まれており、10月25日に委員会が採択した一般勧告40「意思決定システムにおける女性の平等かつインクルーシブな代表」に関連するものも少なからずある。
以下、マイノリティ女性に関する勧告の一部を紹介する。
・ アイヌ、部落、在日コリアン女性および女児といった民族的およびその他のマイノリティに対するェンダー・ステレオタイプが、締約国のあらゆる分野で効果的に対処されるよう、国家政策を立案し、包括的かつ持続可能な措置を実施すること。[para 26 (d)]
・ アイヌ、部落、在日コリアン女性といった民族的およびその他のマイノリティ女性が、自身の生活に影響を与える意思決定システムにおいて代表されるよう、暫定的特別措置を含む具体的措置をとること。[para 36 (e)]
●これから
委員会との対話で、政府は2025年度で終了する第5次男女共同参画基本計画に関して、今年度中に次の6次基本計画の草案を作成し、意見公募をすると述べた。こうしたことも視野に入れながら、政府に対して勧告実施の働きかけをしていく必要がある。また、上述のように女性差別撤廃委員会一般勧告40が採択され、ジェンダー・ステレオタイプに関する一般勧告41も草案中である。これらの国際的な文書も活用しながら、働きかけを続けていく。
IMADR通信220号 2024年11月22日発行